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リトリビューション~因果応報  作者: 名波優羽
13/30

アラタナ

秋が、過ぎて冬も過ぎ、春になった。


 時の早さは、無常なもので待ってくれない。楽しい時間もつまらない時間も辛い時間もいつかは、過ぎ去っていく。時間が、解決するなんてことも信じていなかった。しかし、時間は、解決した。俺にとっては、1年前の自分と今の自分を比較してみると雲泥の差だ月とすっぽんである。実体験程、信憑性のあるものはない。



「勇人君! おはよー」

 小和は、制服に着替えており、すっかり見慣れた光景だ。


「おはよ! 今日は、起きるの早いな! いつもは、遅刻寸前に起きるのにな」


「うーん、真礼ちゃんにいつも朝食作ってもらうのも悪いなってそれに私だって女子力上げたいじゃん?」


 首を傾げて、俺に視線を向ける。しかし、卵は、そのせいでか焦げてしまったようだ。焦げた卵焼きが、今日の朝食になってしまった。


「ははは、ちょっと、刺激的な朝食だな」


 俺は、苦笑を浮かべて、卵焼きを見る。


「ごめん、一生懸命作ったのに……。こんなんじゃ、私、ダメなの子」


 泣きそうな仕草を見せる小和だったので、俺は、その卵焼きを食べてみた。



「うん、うん、うん、焦げてなければ、なお、いいと思うが。普通に美味しいよ! ありがとな、小和」


 俺は、食べながら、小和の頭を撫でる。小和の口元が、綻ぶのを確認して俺は、安堵した。



 玄関のドアが、「ガタ」っとした。


「あれれ、起きるの早いね! おっはよ」


  真礼は、制服姿であり、吃驚した様子であった。



「だって、今日、卒業式だろ? だから、早起きをって」


「あー、知らなかったっけ? 1時からだよ」


 真礼は、ほくそ笑んだ。


「え、真礼ちゃん。早く言って欲しかった。もっと寝れたよう。二度寝しようかなー」



 小和は、ガッカリした様子で目を瞬かせた。



「いやいや、小和ちゃんは、いつも寝すぎだから、このくらいでいいんじゃない? それに八月一日さんへ贈り物何か、あげようかと思ってるんだけど、どうする?」


 真礼は、小和に早起きを促し、美冬へ贈り物を準備しようという話になった。



「今から、何か、買うの間に合うか?」



「ちょっと厳しくない。さすがにお店行くのも時間ないだろうし」



「そう言うと思って。じゃーーん!」


 真礼は、花? ブリザーブドフラワーを取り出した。薔薇、ヘリクリサム、カスミソウ、アジサイ、クリスタルストーンダイヤというらしい。


「綺麗ー!」


「すごいな、これ、真礼が、準備してくれたのか?」


「お母さんと一緒に選んだ! 勇人と小和ちゃんは、なんでもいいって言いそうだったから、選んでやったんだぞ! えへ。それに卒業して次の場所で花を咲かせて下さいっていう意味もあるみたいだし」


 真礼は、自信満々に胸を張り、語る。満面の笑顔を見ていると、真礼の存在は、やっぱり大きいと認識させられた。



「凄いなー。やっぱり、奥さんだね。勇人君の」



 小和は、微笑み、真礼の頭をなでる。いつもは、妹キャラの扱いだったから、たまには、お姉ちゃんっぽくもなりたくなるのであろう。ま、結婚したら、真礼の義妹になるわけだしな。


「ちょっと、恥ずかしいよー」


 真っ赤にして頬を触る真礼。


 

 季節を遡ること、秋。俺は、真礼にずっとそばにいて欲しいと頼んだ。ペアのネックレスを作り、今は、安い指輪だけど、いつかは、ちゃんとした給料3ヶ月分くらいのしっかりした指輪をプレゼントしたい。



 婚姻届を真礼の母親に貰ってきてもらい、俺の名前と真礼の名前を記入し、押印した。いわゆる婚約を中学2年でしているのだ。


 

 俺だって、幸せになっていいのだとその時、初めて思えた。温かい気持ちを教えてくれたのは、全て蟋蟀真礼なのだから。



「どうした? 勇人」


 真礼は、俺に手を振り、様子を窺った。どうやら、ボーッとしているように見えたようである。



「いや、なんでもないよ。眠たかっただけさ」



「やっぱり、八月一日先輩頭いいですよね。敷井高校ってここら辺の地区では、神学校だよね? あー、今年、受験とか、大丈夫かなー?」


 頭を抱えながら、嫌だーという感情が、漏れている小和。



「あたしもそこ行きたいって思ってたから、八月一日さんに家庭教師してもらおうよ! ダメかな?」


 真礼は、したたかなのか、家庭教師として利用としている。ま、美冬なら、喜んで引き受けてくれそうでは、あるがな。



「じゃ、頼んでみようぜ!」


「いいね! みんなで一緒の学校行けたら、きっと楽しいし、それに学生の時くらいしか、一緒にいれないよね? 社会人になったら、バラバラになっちゃうだろうから」


 小和は、学生のうちは、みんな一緒がいいなという希望を口にした。こういう純粋な気持ちを持っていることは、小和の可愛いところだ。


「そうだね、みんな一緒っていいよね」



 真礼も共感して微笑んだ。



 話しているうちに、卒業式の時間も近くなってきたので家を出て、学校へと向かった。

 

 花粉症には、きつい季節だ。俺は、マスクを着用してなんとか凌いでいる。真礼と小和は、花粉症じゃないので実に羨ましい。変わって欲しいものだ。


 体育館に着き、武蔵先生のいつもより整ったスーツ姿を見て大人の女性らしさを感じさせられた。


「まあ、2年の君らは、今日殆ど見ているだけになるが、来年には、卒業だから、シュミレーションでもしとけな!」


 そう話すと、武蔵先生は、職員の打ち合わせへと向かっていった。既に来賓の方が、大勢椅子に座っている。保護者もウロウロしながら、どこに座ろうかとしているようだ。



 そして、いよいよ卒業式は、始まった。パッヘルベルのカノンの入場曲と共に卒業生が、入場を始める。いよいよと眠くなりそうな時間になってきた。

 美冬もいつもよりは、引き締まった表情をしている。紗央も元気そうであった。そういえば、紗央も一緒の学校に入れたらしかった。学業の遅れを美冬が、徹夜漬けで入れ込んだ結果みたいである。いやー、美冬さんスパルター。ドSですね。



 美冬さんが、答辞を言う時だけ真剣に背筋を立てた。


「校庭の桜の蕾が、膨らみ始め、春の訪れました。今日、私達は、伊佐敷中学校を卒業します。

 先生方、在校生の皆様、本日は、私達のためにこのような素晴らしい式典になるよう力添えしていただき、ありがとうございました。

 来賓の皆様、保護者様の皆様、お忙しい中、私達のために足を運んでいただき、厚くお礼申し上げます。

 昨日、入学したくらいの気持ちで今、この舞台にたっています。学友と共に切磋琢磨し、成長することが、喜ばしい毎日を送れたのも先生方のお力が、あってのものだと思います。

 3年生になってからは、学校を纏めようという意識を持って行動をさせていただきました。うまくいかないことの方が、多くありました。しかし、壁にぶつかる度に仲間と絆を深めることが、でき、体育祭、合唱コンクールは、中学校での1番の思い出となりました。体育祭では、組体操を苦労に苦労を重ねて出来たことは、今でも覚えています。

 そして、私達が、ここにいられるのは、保護者様の力あってのものだと思っています。嫌なことが、あった時、八つ当たりをしてしまったこともありました。それでも、嫌な顔をせず、毎日、料理を作ってくれた両親には、頭が、上がりません。

 本当にありがとうございました。私達は、今日、巣立ちますが、伊佐敷中の思いは、後輩に託し、発展を信じています。

 最後に私達は、それぞれの目標、夢、を追い、または、探しながら、邁進していくことをここに誓います。

 そして、本日ご列席いただきました全ての方が、これからも健康でますます輝くことを祈っています。

 卒業生代表 八月一日美冬」


 拍手が、体育館中を支配した。耳鳴りを起こしそうなくらい拍手は、響いている。素晴らしい答辞を披露した美冬は、俺と顔が、合うと、ニヤっと微笑んだ。そこには、いつも見せる表情の美冬が、いた。



 卒業式は、終わり、片付けを済ませ、体育館の外へと出ると、美冬と紗央が、待っていたようだ。



「卒業おめでとうございます!」


 俺と真礼と小和は、頭を下げて卒業を祝った。



「ありがとう! 小浮気君!」

 美冬は、俺に抱きついてきた。おっぱいが、おっぱいが、当たっています。すごく柔らかいから、その柔らかくていい。

 その後は、真礼と小和にも抱きついていた。


「小浮気君! ありがとね! 君がいなかったら、笑顔で卒業出来なかったよ! ありがと!」


 紗央は、頭を下げて微笑んだ。スタイルは、整っており、入院していた頃よりも血色が、良くなっていた。もう、この人は、大丈夫だと確信した。



「いやいや、俺は、その美冬さんに頼まれたことやっただけですから」



 首をかき、照れたようにして、頬を赤くした。



「これからは、小浮気君達が、伊佐敷中を守るんだよ? 頑張ってね!」



 美冬は、ファイトと言わんばかりに手をグーにして白い歯をみせた。



「あはは、そこそこにやりますよ」


「八月一日先輩、勉強教えてくださいね! ちょっと、私、あほなんですよ!」


「しょうがいなー。小和ちゃんの頼みなら、いいよ!」



「やっりいいー」



「そういえば、聞いた? 近所のJK、JCが、自殺したというニュース」


 美冬は、表情を少し曇らせている。



「知らなかったです」



「まあ、そうよね。まだ、世間には、出てないみたいだし、もしかしたら、また因果の妖精が、復活したのかもしれないのよ」


 緊張が、迸る。また、因果が、来るのか?



「そうだと、厄介ですね。せっかく、普通の日々送れるようになったのに」



「まあ、小浮気くんなら、大丈夫よ! ね、また、手伝ってくれる?」



「はい、美冬さんの頼みなら」


「もう、八月一日さんに甘いよねー。勇人!」


 頬を膨らませて、真礼は、不機嫌そうにした。「そんなことねえから」っと言って、真礼の頭を撫でる。



 桜の蕾が、開き始める。また、新しい季節の始まりは、アラタナことの起きる予感すらも感じさせる。まだ、因果応報という妖精を除霊しきれていなかったことというのに気付くのは、これからであった。



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