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リトリビューション~因果応報  作者: 名波優羽
11/30

過去の約束

あれ? ここは、どこだ。公園? 身体が、小さくなってる。小学生くらいの身体に戻っている。場所は、家から、歩いて五分くらいの公園だ。


 シーソー、ブランコ3台。滑り台、砂場が、ある公園である。どうして、小学生に戻ったのだろうか。


「ねえ、勇人! 身体ちっちゃくなってるんだけど、これ、何?」


 どうやら、巻き込まれたのは、俺だけではなかったようだ。真礼も小さくなっている小学生の頃の真礼だ。黄色のTシャツに短パン姿。俺は、水色のTシャツに短パンであった。


「分からない。ダイゴのビームを受けて死んだはずだった気がするんだが、どうしてだろうか」


「だよね。ここから、また人生やり直すってことなのかな? うーん、分からない。でも、何か、意味があるってことだよね?」


 真礼は、首に手をやり、この時代に来たということに意味があるのでは? という憶測を立てる。


「確かに、意味は、ありそうだ! この時代に俺らが、何か、忘れたことあるんだろうな。でも、この時って何があったんだ?」


 季節は、夏。夏休みの真っ最中で兎に角暑い。小学校四年生くらいであろう。体付きから、見るに。


「うーん、全然覚えてない! だから、こそここに来たんじゃない?」


 それは、言えている。忘れたから、こそここにいる。大切な何か、現在を切り開く鍵は、過去にあるということか。


「いたいた! おーい! 今日も来たよ! あーそーぼ!」


 女の子が、俺と真礼を呼んでいる。見たこともない少女であった。金髪で可愛らしい少女。同い年くらいの背丈であった。



「え、俺?」


「あたし?」



 俺と真礼は、怪訝そうにジロジロと見た。


「そうだよ! 約束したじゃん! 明日も遊ぼって! もうー、忘れたの? ばーか。でも、居てくれて嬉しかった!」


 少女は、ニッコリ微笑んでくれた。


「あ、そうだ! 名前教えてくれる? あたしの名前知ってる? 蟋蟀真礼だよ」


 真礼は、軽い自己紹介をして金髪少女の名前を聞こうとする。


「真礼ちゃん。そういえば、私、名前言ってなかったかもしれない。日向小和だよ!」


 金髪少女は、小和だった? というよりも以前から、俺らは、出会っていたのか。完全に記憶から、消えていた。家庭のことやらで頭いっぱいで小和に会っていたことも忘れていたみたいだ。申し訳ないな。小和は、きっと覚えててくれたのであろう。だから、そこまで臆せずにスキンシップをはかってくれたのか。



「小和ちゃん? って小和ちゃんなの?」


「え、小和だけど、どうしたの? あは」


 苦笑を浮かべて真礼の様子を窺う小和。そりゃ、何も知らないワケだから、吃驚するであろう。真礼の反応は、自然だ。俺も同じ反応をしていたからだ。声には、出ていないけど。



「小和ちゃんは、ここの近くに住んでるの?」


 俺は、動揺を隠しながら、平静さを保ち、訊ねた。


「違うよー。離れたとこ。ママが、用事あって夏休みの間は、この近くにいるんだー! 私の地元は、あまりいいとこじゃなくてここは、空気も美味しくていいね!」



 小和は、嬉しそうに微笑んでいる。俺が、知っている小和も同じ顔をしていた。


「そっか。なら、夏休み中は、いっぱい遊ぼうな!」


「うん! 勇人君」


「なにして、遊ぼっか?」


「えーっと、野球! キャッチボールしたい!」


「出来るのか?」


「出来ないから、やりたい! 私、やったことないんだ!」


 小和は、キャッチボールをしたいというのでグローブを持って来ようとしたが、既にグローブは、持ってきていたようであった。きっと、約束してたのであろう。



「真礼、最初は、一緒にやってあげてくれよ!」


「うん! 勇人、手加減しないからね!」


「それは、怖いよお。優しくやってね?」


「ああ、そうするよ」


 真礼と小和は、キャッチボールを始めた。「いくよー」真礼が、投げたボールをキャッチ出来ない小和。「ごめんねえ」っと言いながら、ボールを取りに行く。投げるフォームは、綺麗であったが、ワンバウンドをして真礼のグローブへと届いた。



「初めて?」


「そう。下手だよね……。ごめん」


「違う、違う。フォーム綺麗だし、すぐ上手くなるよ! 勇人もいるしさ!」


 真礼は、首を振って小和の気を遣った。確かにフォームは、綺麗であった。足を上げて着地した瞬間に右腕が、出てくる。投げるコツさえ、掴めば、上手くなる要素なんで幾らでもある。




「小和ちゃん! ボール、捕る時さ、ボールは、勝手に来るから、待ってればいいよ。グローブを真礼の方へ向けて手を開き、捕るというよりも掴むくらいの気持ちで手を伸ばせばいいよ。真礼は、コントロールが、いいから、胸の当たりに大抵くるよ!」



 俺は、手を使い、左手をボールで掴む動作を見せて、説明をした。ジェスチャーメインとなってしまったので分かりにくかったであろう。


「うん、ありがとう! 勇人君。真礼ちゃんボール投げてもらってもいい? 今度は、捕れるよう頑張るから!」



「うん、いくよ!」


 真礼が、振りかぶって右手から、ボールは、放たれた。ボールは、真っ直ぐと小和の胸目掛けて飛んでくる。それを小和は、左手を向けてボールを来るのを待った。ボールは、グローブに当たり、弾いたが、先程とは、打って変わって捕球出来そうになった。



「すっごい! 捕れそうだったじゃん! 惜しい、惜しい、もっと、もっとやれば、捕れるようになるよ!」


 真礼は、小和の上達振りに思わず、甲高い声を出してしまっていた。飲み込みが、いい。運動神経は、良さそうだ。


「うん、頑張る! 真礼ちゃんお願い!」


「はーい」


 そして、真礼の百球目を小和は、キャッチすることが、出来た。キャッチした瞬間に小和よりも真礼と俺の方が、嬉しそうにしていたので小和は、「なんで、二人が、喜ぶの? おかしいの」っと言いながら、涙を零していた。小学生だったので抱き合ったり、してもそうは、違和感がないので小和に俺と真礼は、抱きついて「小和ちゃんは、泣き虫だね!」っとからかった。



 その年の夏休みは、小和と殆どの時間を過ごした。でも、学校の話は、一度も聞いたことが、なかった。俺らも言ってこないことを聞いてもなっと思っていたのでそこは、空気を読んだ。



 八月の下旬、「今日で最後みたい。まだ、勇人君と真礼ちゃんと遊びたかったよお」っと泣きそうになって言った。


「また、会えるよ!」


 俺も寂しいけど、涙を出すのは、恥ずかしかった。


「大丈夫、次も会えるよ!」


 真礼もそう言って慰めた。


「無理みたい。県外に引っ越す準備をしていたみたいこの一ヶ月。また、いつから、この街に帰って来れたら、友達になってね?」


「はあ? もう友達だろ? 距離なんて関係ねえよ」


 俺は、微笑んで涙を隠そうと強がった。


「そうだよ! 小和ちゃんとまたキャッチボールしたいし」


「ありがとう! 約束して? 大きくなったら、また遊んでください! また、キャッチボールしてください! 友達だよって言ってね……」



 身体が、身体が、消えていく? 透明になっていく。



「小和――――」


 手を伸ばし、真っ黒になった世界で意識が、戻った。ビームの音? そう、ダイゴの攻撃は、終わってなかった。では、なぜ、俺は、意識があるのだ? ビームの先を見ると、ナルミが、シールドでバリアしていた。



「ナルミ?」


「礼なら、お前の妹に言えよ!」


「え? 小和」


 小和は、俺と真礼を抱き締めていた。優しい温もりだった。


「勇人君と真礼ちゃん無理しすぎだよ! 待ってるだけじゃ、ダメだって、掴みにいかなきゃってキャッチボールだったら、落としちゃうよね?」


 小和は、傷ついた身体で微笑んでいる。



「ごめんな。思い出せなくて」


「いいんだよ。勇人君が、覚えてなくても私は、ずっと覚えていたから」



「あたしもごめんなさい!」


「真礼ちゃんは、凄く可愛くなったね。まさか、勇人君と付き合ってるとは、思わなかったけどね」


 頭を下げる俺と真礼を優しく諭す小和。


「ねえ、私の因果じゃ、そろそろ耐えれないみたい。そろそろ終わらせよう? ここを私達なら、勝てるよ!」


 小和は、一人でなんとかしようとして無理したのにどうしてそんなに強いんだよ。俺は、何も分かってあげれなくて。



「お前の因果なら、絶対勝てそうだな!」


「ヒヒヒ、何それ! 馬鹿にしてんの? 今なら、勇人君のボールだって捕れるよ!」


「無理無理」


「ははは、行こう。あたし達の未来の為に!」


「弱者は、強者を打ち破る捨て身の覚悟で! 因果応報!」


 三人の力は、強大であり、兄妹の力であった。ナルミは、ビームを弾返し、ダイゴは、怯んだ。



「ぐぬぬ、くっそったれめがー」


 ダイゴは、血相を変えて、最後の力を振り絞り、モードチェンジをした。死神のような目付きになり、声もデスボのようであった。



「終わりだよ、おいが、二度も負けるかよ。ぐぬぬうう。てめえだけは、許さない。おいのプライドにかけても」



 ダイゴのパワー凄いものであるが、なんでだろう。不思議と負ける気がしない。三人なら、負ける気がしない。小和を守る為に未来へ届ける。



「ワイは、ここでお別れかもしれんな! あいつと一緒に浄化すんべ。そうすれば、お前らは、助かるぜ! どうだ? 道連れにして浄化するから、それでいいか?」



 ナルミは、身体の限界を超えつつあったようであり、命を犠牲にすれば、ダイゴを浄化出来ると言う。



「ナルミも死ぬってことなのか? そんな。俺は、お前が、いたから、やっと普通になれたんだよ。お前がいなきゃ、所詮何もできねえ男なんだよ」


 右手を伸ばしナルミの肩を掴み、まだ、ある感触を確かめた。


「ばーか、言ってんな! 男やろ? っというよりもお前は、ワイなんかいなくても強かったんやで。覚えてないか? お前が、初めて因果応報を使った日を。あの時に分かったんや。お前は、父親を殺さなかった。守り、命だけは、残した。お前は、そういう奴なんだよ。その優しさを真礼ちゃんや小和ちゃんに振り撒いてやればええんや! ワイは、死ぬという概念はないから、気にすんな! いつか、また必要になった時に助けに行くから、その時まで、暫し、お別れなだけだ! じゃあな! お前と居れた時間悪くなかったぜ!」




 ナルミは、俺のことをしっかりと理解をしてくれていた。親のように見てくれていた。その事に嬉しくもあり、居なくなるということが、受け入れられなかった。誰も居なくならないで欲しいなんて虫が、良すぎるのか。二者択一なんだ。決断する時なんだ。あいつの覚悟を俺らは、無駄にしては、いけないんだ。だから、また。



「ごめん! ナルミ! ありがとう! お前は、命の恩人だ! これからもずっと忘れない! お前と過ごした時間、俺も悪くなかったよ! 大好きだ!」



 俺は、涙を流して声を荒げ、叫んだ。雄叫びのようにその部屋へと響いた。


「終わりにしよう! これで本当に終わりだ! ダイゴ!」


「ふぁ? 最弱が何を? ん?」


 ナルミは、ダイゴを掴みブラックホールのようなものを出し、吸い込もうとした。正に、見るだけで分かる道連れ方法だ。ブラックホールは、とんでもない吸引力であり、ダイゴも身動き一つとれなくなっている。



「あばよ!」


「ナルミー!」


「ナルミちゃん!」


「ナルミちゃんありがとう!」


「紗央を助けてくれてありがとう!」


 ブラックホールは、ダイゴとナルミを吸い込み、消えていった。ダイゴを完全に浄化へと成功させた。


 ナルミは、もういなくなった。俺達を助ける為に犠牲となった。健闘を称えようとお墓を建てるのもなんだし、ナルミの事を忘れないよう白いワンピースを部屋に飾っておいた。



 智美の刑罰は、特に音沙汰なかった。逮捕は、されてようであったが、大事には、ならず保釈されたようである。無罪なので特に何も思わなかった。操られた結果もあるが、嫉妬心は、多分、本心であったのであるから。



 翌日、疲れ果てた身体を癒し、小和を取り戻せた。これから、家族になっていくのだ。蝉の鳴き声で、今日も目覚める。


「起きるの早いな! 小和」


「うん、疲れも、もうとれたから、ねえ、約束覚えてる? また、キャッチボールしよう? って約束!」



 小和は、ピンク色のグローブを着けて、軟式ボールを手に持っている。今すぐ、キャッチボールしよって言っているようなもんである。


「ああ、覚えてるよ! ってか、思い出したが、正確な答えだな! 真礼も起こすか?」


 俺は、頷いて口元を綻ばせた。


「真礼ちゃん疲れてそうだから、いいよ。記憶操作してた。私のことなんて覚えていなくていいって。だから、覚えてなくても当たり前なんだよ」


 小和は、心の中でそう思っていたから、俺が、覚えてないのは、当たり前だというのであった。小和の念が、そうせていたのか?


「でも、思い出せたから、いいだろ?」


「うん! ねえ、今から、キャッチボールしよ? 今なら、勇人君のボール捕れるから!」


「ああ、いいよ。やろう!」


「じゃあ、行こ? あの時と一緒の公園に!」


 小和は、俺の腕を引っ張り、公園へと向かった。ボールを握るのも一年振りくらいだ。


「まずは、軽く投げるなー!」


「うん、バッチコイ!」


 俺は、軽く投げた。小和は、楽々とキャッチしてみせた。小学生の頃の小和とは、違い、キャッチングが、上手い。


「小和、上手くなったな! あの頃は、捕るだけで精一杯だったもんな」


 俺は、努力を労った。


「でしょ? ほれー!」


 小和の投げるボールは、そこそこいい球だ。女子にしては、速い方であろう。綺麗に俺の胸の前に構えたグローブに吸い込まれる。


「ナイスボール!」


「ねえ、勇人君! 思いっきり投げてくれない? あの時、私捕れないだろって言ってさ、投げてくれなかったじゃん。今なら、捕れるよ! 自信ある」


 小和は、自信満々で微笑む。金髪ポニーテールは、風に揺れている。


「怪我してもしらないぞ! これでも一年前は、一年生でエースやってたんだからな! 吃驚するぞ!」


 俺は、再度、本当にやっていいのかを確認した。


「うん、お願い! 受け止めるから」


「ああったよ!」


 俺は、マウンドを慣らすようにして足元を整える、小和は、キャッチャーのようにしゃがんだ。グローブを開く、仕草は、様になっている。


 振りかぶり、力一杯込めて、腕を振った。一年前より肩が、軽かった。どんどんと加速していく。そのボールは、小和のグローブ目掛けていく。それを小和は、目をしっかりと開け、「バシン」っと激しい音と共にボールは、グローブへと入った。ナイスキャッチ。120キロ近くは、出ていたと思う。それを見事一球で捕球しやがった。



「ナイスキャッチ! 小和」


「やったあああー! 嬉しい! ずっとね、勇人君のボール捕る為にバッティングセンター通ってボール捕る練習してた甲斐があった。本当に嬉しい。勇人君と一緒の土俵に上がれたようで嬉しい。やっと動き始めた気がする。人生も未来も」



 小和は、たくさんの涙を零している。辛かった毎日もやっと抜け出せたのも小和自身の勇気であろう。そして、努力であろう。どれだけ、痣を作ったのか、分からない。俺のボールを捕る為にだけで。きっと約束は、これで果たされたのであろう。俺のボールを捕りたいという約束であり、友達というよりも家族になるということを。




「小和は、凄いよ! 凄い! さすが、俺の妹だな!」


 俺は、頭を撫でて泣いている小和を抱き締めた。落ち着くまでは、そのままずっと抱き締めていた。


「こんなとこでキャッチボールしてたの? ぷーん、仲間外れにしないでよー!」


 真礼は、プンプンとご機嫌斜めのようであった。


「いやいや、そのこのあれだな」


 小和に抱き締めているこの状況を見て怒っているものだと思い、必死に抵抗をする俺。


「分かってるよ。見たよ! 小和ちゃんのキャッチ! 凄かった! あの時じゃ、考えられないことだけど、あたし達は、確実に成長してるんだってことが、認識出来た。そのさ、小和ちゃんが、勇人の妹なの分かる気がする。だって、どこか、似てるもん。優しいとことか、その負けず嫌いなとことか、そんなさ、あたしは、そんな二人が、やっぱり大好きだよ! ね、これからもさ、よろしくね! 小浮気家の皆さん!」




 真礼も抱きついて来たので夏の暑さも無性に厳しくなってきて、とても暑い。


「よろしくな、これからも」


「真礼ちゃん、よろしくね!」


 この日に小和は、苗字を変えた。小浮気に『小浮気小和』という名前で住民票を提出し、名義上でもしっかりと妹となった。


「真礼ちゃんもいずれは、小浮気だね!」


 小和は、嬉しそうに口元を緩ませる。それに真礼も応えるように口元を緩ませ、

「ホントだね! みーんな小浮気だね! 三人とも!」



「いや、婿になれば、俺が、蟋蟀になるぞ!」


 俺は、空気を読めない発言をすると、顰蹙を買った。


「ばーか。今は、みんな一緒だねって話なのに!」


 真礼は、舌を出してあっかんべーをした。


「勇人君ってそういうとこあるよね。それって天然? それとも計算してるとか? どうなの?」


「いや、ウケ狙いをしようかと。まさか、そんなにウケないとはな」


 苗字変わって初めての夕食の時間なら、その発言は、間違いだなってのも納得頂けるけどな。今日は、豪華料理を真礼のお母さんも来てくれて用意してもらっている。


「久しぶりね! 勇人君! 大きくなったね! お母さんとは、同級生だったのよ。あなたのお母さんは、強い人だったわー。でも、誰にも弱さを見せれなかった人でもあったと思う、ずっと学校でいじめられていたみたいで私は、助けれなかった。あんまり話をしたこともなかったけど、こうして真礼が産まれて勇人君が、産まれてからは、仲良くしてくれたわ! 私は、勇人君の決断間違ってないと思う! この子を妹として受け入れたことを」




 真礼の母親は、智美との思い出を語ってくれた。親戚のおばさんのような口調であったために、俺も少しは、変わっているのだなとそれに案外、見られているものだと思った。



「はい! 今日は、ありがとうございます! わざわざ、小和の為にケーキをだなんて、母は、ちょっと疲れてしまったのだと思います。父親のこともそうだし、兄のことで。しっかり今は、休養をとってくれれば、俺は、いいと思います!」



 俺は、丁寧な答えを言おうと、言葉を選びながらにして大人びた口調で話した。

「そうね! ゆっくり休んでくれればいいよね。もしかして、よく小学校の時、公園で遊んでた子よね?」



 真礼の母親は、小和を指差して訊ねた。


「あ、そうです」


 小和は、緊張した面持ちで答えた。


「ふーん。そうだったのか。その子が、妹なんだね。妹っぽかったから、ピッタしだね! よーし! 後、もう少しだから、小和ちゃんと勇人君は、テーブルを拭いて綺麗にして! 後、真礼は、ピザを注文しておいて!」



「はーい」


 真礼の母親の指示に俺達は、応え、各々の準備に取り組んだ。


 夕食は、楽しく過ごせた。俺自身、こんなに賑やかな夕食は、初めてであった。小和もきっとそうであろう。こんなにキラキラとした世界が、あるということを知れて良かったな。



 ケーキには、『小和妹記念』という謎のメッセージが。妹記念ってなんか、おかしいですね。前代未聞の話であろう。


「妹おめでとうってのもなんだかな」


 俺は、ポツリと呟いた。


「あはは、まあ、あまり聞かないような記念だよね」


 真礼は、ニッコリと微笑んでいるが、違和感を感じているようだ。


「家族記念でいいよね? 妹も家族ってことだし」


 小和は、嬉しそうにケーキのメッセージプレートのチョコをペロっと食べる。悪戯っぽいとこは、なんだか、似ている。


 どうにも俯瞰して見てしまっている。この状況でナルミのことを考えていた。本当に消えてしまったのだな。いつもなら、嫌味の一言、二言を言ってくるはずなのにそれが、失くなってしまうとどうにも調子が、乗らない。イチローのルーティンに入る時のバットを投手へと向ける姿を辞めてしまったようなものだ。




「ナルミちゃん、ホントにいなくなったんだね」


 真礼は、ナルミの着ていたワンピースを見てそう俺に声を掛ける。


「まるで一瞬の夢みたいな感じだった。あいつが、いたから、ナルミが、いたから、全てうまくいけるようになったんだ。だから、あいつのくれたものを大切にしたい!」



「ナルミちゃんって子は、ずっといると思うよ! 今だってここにいるよ」


 小和は、胸に手を当てて、心にずっとナルミが、存在しているというニュアンスで伝える。


「そうだよ! 忘れない限りは、生きているってなんかで言ってたしさ」


 真礼は、俺を励まそうとして気の利いた言葉を探そうとするも上手く言えていない感じであった。まあ、真礼らしいよ。


「ありがとう! 今日を楽しもうか! 悪かった!」


 夕食を終えて、晴れて長年の約束を果たすことが、出来た。いつかは、絶えるという命も受け入れていかなければ、ならない。



 それでも今は、ここにあるモノ。ある人を。守りたい、見届けたい。その気持ちの方が、勝ってしまっている。ずっと続くとは、思わないけど、この一瞬を大切にしていければと俺は、つくづく思うのであった。


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