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リトリビューション~因果応報  作者: 名波優羽
10/30

嫉妬

「ここで待っていられますか?」


 受付女性は、俺に新しい部屋で待っているように勧めてくる。その部屋は、十畳くらいある広々とした部屋であった。しかしながら、洋風の家でありながら、畳部屋というのは、どうにも罠の匂いが、プンプンするぜ。わざと、引っ掛かったフリをするか。



「はい、じゃ、お言葉に甘えて」


「では、ここで一旦休憩ということで用が、終わり次第迎えに来ますね!」


 受付女性は、そう言って足早に去って行く。それにしてもこの部屋何もないな。唯一あるのは、木製バットと竹刀である。


「うほうほ、こいつが、息子さんかー」


 ドアの前には、ゴリラのような男が、立っていた。まさにゴリラというような風貌である。180cmくらいの上背に筋肉ムキムキという感じである。



「そうですが、何か用ですか?」


 俺は、欠伸をして目線を逸らしながら、寝転ぼうとした。それを見て畳へ威力抜群のパンチを喰らわせたゴリラ。


「てめえを殺すんよ! その為に来たのよ! ふふふふ、勝てるわけねえよな? このヒョロヒョロの坊やに! ハンデでもあげようか? うーん、あーーげなーーい」



 ゴリラは、高笑いをしながら、余裕をかましているようである。


「いらねえよ! ブタゴリラが!」


 俺も高笑いをかまして挑発をした。それにまんまと乗ってくれるのが、ゴリラだ。脳筋の馬鹿は、やっぱり単純である。



「ああ? 調子乗ってんじゃねえぞ、タコが!」


 ゴリラは、殴りかかってくる、それを躱す。しかしながら、ゴリラのパンチの威力は、凄まじいものであった。壁には、穴が空いた。



「いつまで逃げてられるかな、ぎゃははぎゃはは」


「ナルミ、いくぞ!」


「おうよ!」


「弱者は、強者を打ち破る捨て身の覚悟で! 因果応報!」


 ゴリラは、何を言ってるんだと笑っていたが、すぐに表情が、変わっていった。こちらは、ゴリラなんかより、怖い死神を呼び出したからだ。


「ゴリラー。不味そうだな。ぐはは、ぐはは、殺してー。ガハハ、オラー」


 死神は、二メートル近い程の上背に大きな肩幅で真っ暗な身体である。繰り出すパンチは、ゴリラに効果は抜群だ。「もう、やめてくれ! 俺が、悪かった……」


口から、血を出し、苦しそうな声を出すゴリラ。息を切らして今すぐにも呼吸困難を起こしそうなゴリラを死神は、髪を掴み「やーだよ! 雑魚が、調子乗るな! ああったか?」



 髪を引き千切り、壁に身体を叩きつけた。壁の穴は、さらに広がって、部屋が、グチャグチャになっている。


「もう、いいよ! これで終わろう!」


「チェっ、てめえが、言うなら、仕方ねえな! あばよ!」


 死神は、不満そうでありながらも、攻撃をやめ、手を振り、透明になっていき、消えていった。


「おい、ブタゴリラ、小和の場所は、知ってるだろ?」


 俺は、脅すような口調で訊いた。


「知ってる。それにお前は、何者だ」


「俺か? 小浮気勇人だ! で、早く教えろ!」


「お、おう。地下室が、休憩室にあるんだ。TVを退かすと分かるだろう。そこへ行けば、多分いると思う。小和って女の子が、ああ、苦しいから、寝るわ」


 声は、聞き取りにくく、ゴリラのような声になっていた。なるほど、TVの裏にそんな仕掛けが、また、受付女性に騙されたってワケか。


「あんがとよ! 豚ゴリラ!」


 俺は、豚ゴリラの顔に紙をかけて、勝手にこいつが、転けて怪我したという状況を装うことにして部屋を後にし、休憩室へと戻ることにした。



「それにしても間抜けなゴリラだったな!」


 ナルミは、腹を抱えて笑っている。


「そうだな! 急ぐか!」


「うぃっす!」


 足早に歩いて、戻る最中に誰かの視線を感じた。監視カメラが、あったのでそこから、誰かが、見ているということであろう。


 休憩室へと着き、TVを動かし、隠し通路を発見した。地下ということか。地下なら、電波も入らないので、小和の居場所も分からなかった訳だ。



「こんなとこにあるんってことは、やべえーことしてんじゃねえの? 裏社会への繋がる場所とか。なんとか団ってのと繋がりあったり、ひいー。怖い怖い」



 ナルミは、そう憶測を立てているが、表情は、なぜか嬉しそうであった。そういう環境の世界では、因果応報というものが、限りなく存在しているからだろう。



「母親が、そんなことしていたというの。なんだか、複雑だよ。俺もそれなりの才能が、あるということになってしまうじゃないか」



「ガハハ、大丈夫やで! お前は、確かにそいつの子供だが、人格ってものは、よう。親と一緒じゃねえんだよ! お前は、幼い頃から、チヤホヤされた経験がない。だから、お前は、大丈夫やで! 気にせんでもええ! ワイが、おるやろ?」



 ナルミは、俺を励まそうとしてくれた。案外、優しいところが、あり、頼りになる奴だ。俺は、その言葉に力を貰えた気がする。



「ありがとう! だよな、だから、こそ小和を助けなきゃ! あいつの未来は、まだ、始まってもねえんだし」


「せや」


 隠し通路は、真っ黒闇であるために電気が、あるか、辺りを探してみた。電気になりそうなものが、まるでない。困ったな。休憩室をじっと見つめてあることを思い出した。お客様が、ライターを忘れて煙草が、吸えなくなったら、どうなる?



 ってことは、ライターが、ここにあるということだ。


 引き出しが、たくさんある収納ボックスを開けると、そこには、ライターが、多数あった。数えるのが、大変なくらいにあり、ロウソクもそこにあった。



 ロウソクに火をつけて、これで隠し通路へといける。ロウソクのロウが、落ちる前になんとしても小和が、いる部屋への道筋を掴みたい。


 真っ暗な道を進んでいくと、何もないが、水が、流れている音がする。お風呂でもあるのかと音がする部屋を開けると、そこには、温泉があった。



「温泉?」


「ヒヤヒヤ、油断させる罠かな? それとも、普通にスパ施設的な場所だったり?」


 ナルミは、温泉に入りたそうにするが、そんなことしている暇は、ない。だが、その奥には、もう一つ扉があった。それを開くと、そこには、シャワーが、流れていた。周りを見ると、女性二人が、裸で身体を洗っている。



「変態!」


「死ね、ど変態!」


 二人の女性は、俺にお湯をかけて、バスタオルで身体を隠す。立派な艶のある肌で、色っぽい二人に俺は、鼻を伸ばしてしまった。


「勇人?」


「あら、小浮気君だったの?」


 なんと、その女性は、真礼と美冬であった。どうしてこんなとこでのんびり温泉を堪能しているのだろうか。呑気過ぎませんかね。



「や、やあ。ここの隠し通路に小和が、いるって聞いてさ! それで水の音が、するから、来てみたら、真礼と美冬さんがいてって感じっすね」


 俺は、言葉を選びながら、恐る恐ると扉を閉めようとした。早くこの場から、逃げなきゃ、この二人に何されるか、分からない。とりあえず、頭を下げて「ごめん、そののぞき見しに来たわじゃないから」っと謝罪をし、扉を閉めた。



「分かってるよ、勇人! あたしの身体は、勇人のものだから、別にその見られても恥ずかしいけど、その嫌じゃないよ」


 真礼は、照れくさそうにしながら、俺を責めることは、しなかった。それを扉越しで聞き、ホッとした。だが、「私のおっぱいで欲情したんでしょ? 触る? 洗ってあげよっか? 下半身も! うふふ」っと誤解を招く発言をする美冬。相変わらず痴女風な発言を恥ずかしさもないように言っていて、吃驚する。



「しません。真礼の身体しか、その興奮しませんから」


「えー、それは、それでショックなんだけど、女の子にそんなこと言うのって失礼よね! ね、真礼ちゃん」


「うーん、勇人だから、許してください! あたしのことだけって言ってくれたの嬉しかったのですいません」


 真礼は、嬉しそうにしながらも俺のことを許してやってくださいと頼んでいるようであった。まあ、そりゃ、女の子の身体見れば、生理的に反応してしまうことは、仕方のないことであろう。おっぱい好きだし。



「なあ、風呂終わるまで、ここで待ってるからさ。一緒に行こうぜ! 真礼と美冬さんの力が、必要なんだ!」


「フフフ、待ってたよ! その言葉」


「全く、何のために受験勉強休んで来たと思ってるのよ? 当たり前、力になるなんて当たり前よ! じゃあ、そろそろ出るから、待ってて!」


 真礼と美冬は、快く受け入れてくれた。二人共に力強い仲間だ。絆は、確かにあったんだ。友情なんてこれっぽっちも信じていなかった俺が、こんなことを思えるようになれる日が、来るとは、思ってもいなかった。



 偶然という言葉は、嫌いだ。偶然ってのは、ないんだって誰も助けてくれなかった日々が、あり、そう思っていたよ。でも、必然なんだ、物事は、偶然でもないここで生きていられるのも必然だったんだ。友達も出来たことも恋人も出来たこともだから、この喜びを小和にも教えてあげたい。路傍の石では、終わらせたくない。



 俺は、温泉のある部屋を出て、他に部屋がないかを新しいロウソクに火を着けて、探していた。暗い通路を歩いていくと、部屋が見えてきた。開けると、そこには、寝室のような部屋であり、ベッドがあった。ここも違う。



「お待たせ!」


「待たせて、悪かったわ! 行きましょうか!」


 真礼と美冬は、お風呂が終わり、一緒に小和を探すことにした。心細くないので隠し通路へと入った時よりは、気持ちは、落ち着いている。


「ねえ、ここなんか、変な匂いしない?」


 真礼は、鼻をクンクンと嗅いている。俺もそれに釣られて鼻をクンクンとさせた。美冬もクンクンとさせ、違和感に気付いたようだ。


「これって人の血の匂いというか、その唾液の匂い? 何より、誰かが傷ついている匂いだわ! 不味いわね。小和さん、もしかしたら、もう……」


「美冬さん。それは、言わないでください! だって、そんなことあるわけないじゃないですか……。俺のたった一人の妹なんです。まだ、会ったばっかりなんですけど、これからは、しっかりと家族になっていきたいんです。だから……」



 俺は、堪えきれなくてなってしまった涙を流しながら、声が震えていた。最悪の状況は、想像したくない。どんな状況でもいい方向、プラス思考でいなきゃダメだ。そうしなきゃ、道は、開けない。


「悪かったわ。まだ、終わってないものね。行きましょう。前だけ向いて! そんな顔していたら、小和さんが、悲しむわ!」


 美冬は、申し訳なさそうな表情を見せて頭を下げた。


「そうだよ! 勇人! 大丈夫! きっとね!」


 真礼も俺を励ましてくれた。涙を手で拭き取ってくれる真礼の手には、俺の涙で濡れている。しっかりしなきゃ。勇往邁進、獅子奮迅。



「ああ、そうだな! やってやる!」


 俺の姿を見て、真礼と美冬は、口元を綻ばせている。


 止まっていた足を動かし、歩き続けていくと、「にゃー」っと声が、聞こえてきた。白猫が、いる名前は『ピーちゃん』っと首輪に書かれている。



「あー、可愛い!」


 真礼は、その白猫を撫でて可愛がっている。飼い猫のようだ。っというよりもこんな場所にいて野良猫なワケがない。


「この猫なら、知ってるかもしれない小和の居場所を」


「猫が、知ってるかしら?」


 美冬は、頭を抱えて考え込んでいる。


「うん、分かるかも! だって、餌のありか、分かれば、そこが、飼い主の居場所かもしれないじゃん!」


 真礼は、余裕じゃんみたいな表情で微笑む。そんなに簡単にいくのかな。っと思っていたが、案の定、真礼の予想は、当たっていた。猫は、餌を求めてか、走り出した。その先には、猫用の扉と人間用の普通の扉が、ある部屋であった。



「真礼ちゃんすっごい! 野生の本能的な?」


「いやいや、野生の本能とか、ないですよ。運動音痴ですし、えへへ、でも、少しだけ役に立てて嬉しいな」


 真礼は、役に立てたことが、嬉しかったようでどこか、誇らしげに胸を張っていたように見えた。いるだけで十分役に立っているよ。真礼が、いるだけで心は、安定する。精神安定剤のような力があるだろう。



「嗅覚は、さすがだな! 行こうか!」


「なんだし、ばーか!」


 真礼は、俺の背中を強く叩き、その音が、響き渡った。部屋を開けると、そこには、白猫だけが、いた。


「あれ、ピーちゃんしかいないわね!」


「いや、隠し通路が、ここにもあるんじゃないのか?」


「確かに、それある!」


 部屋は、殺風景であり、本棚と小さなTVに顔を洗えるよう蛇口がある。勿論、鏡もついていた。ベッドもあり、ここで寝ることも可能であろう。猫のベッドということでは、無さそうだ。餌入れと、水が、入っている物が、並んでおり、そこで白猫は、キャットフードを食べている。どこだ、どこにあるんだ。隠し通路。



「あれじゃない?」


 美冬が、指差した場所には、明らかにでかくて怪しそうな箪笥であった。人が、楽々入れそうな箪笥であったために怪しさは、満点である。


「えー、開くの怖くない? あたしは、嫌だー。ねえ、勇人お願いできない? ちょっと女の子にやらせるのは、無理があるよ」


 真礼は、開くことを躊躇した。確かに何が、出てくるのかも分からない物は、怖い。ただの洋服入れの可能性だって否定は、出来ない。


「分かった! 任せろ!」


 箪笥をゆっくりと開いた。そこには、隠し扉が、やっぱりあった。異様な雰囲気が、漂っている。恐怖に震えそうだ。だが、踏み出すんだ。


「行こうか!」


「うん」


「ええ」


 箪笥へと足を踏み出し、そこには、明るいライトが、照らし出されている。LEDなのか、目が、非常に眩しくなる。


「勇人、あれ」


「そんな……。酷い」


「おい、小和に何してんだ!」


 そこには、ロープで身体を固定されている小和が、いた。そして、その隣に母親の智美が、いる。赤いドレスを着ている。まるで年相応ではないような服であった。どうしてこんなことを。鞭のような物を持ってこちらに気付いたようだ。



「あらら、勇人じゃない? どうしたの? この子でも助けに来たというの? ねえ、そうなの? 馬鹿じゃないの? あの父親の子よ! それに何十年も浮気してたの知らなかったわ! フヘヘ、最悪よね。浮気して子供まで作ってずっと騙し続けてきたのよ! あー、殺したい! 殺したい! ストレスが、溜まるんだよ! こんな奴もあんな奴とも結婚しなければ、私は、幸せだったの! ねえ、分かるでしょ? 勇人なら、あんな奴を刑務所へと葬ってくれたあなたなら、この子だって生きている価値なんてないんだよ! 生きてる資格もないのに生きてて申し訳ないと思わないの? だからさ、この子を殺しても私は、刑罰を受けない。だって、この子は、住民票がないから、死亡届も勝手に作って出してしまえば、それは、それは、立派な自殺や病気を装う事が出来てしまうのよ! フフフフフフフフウウ。あー、唸るねー。血が騒ぐよ、あの父親を殺しているような感覚になれて」



 もはや、智美は、別人のようであった。狂気の沙汰である。もしかしたら、ここに因果の要請が、いるのか。操っているのか、それとも智美の意志なのか。


「ナルミ、妖精は、どこだ!」


「えーっとやな。あそこだ! あれは、なんでや。なんで、あいつが、まだ生きとるんや」


 ナルミは、動揺を隠せないように身体を震わせた。


「えー、あれって……どうして」


「怖いよ」


「どうして、まだ、ダイゴがいるんだ」


 智美の隣には、ダイゴが、いた。倒したはずのダイゴが、ピンピンとして元気に笑っている。まさか、智美の嫉妬心を吸い取って力を蓄えたとでも言うのだろうか。厄介だ。ただでさえ、ギリギリ勝てた相手だ。



「ヒエイー。よお、また会ったな! っシュッシュ。何で、こいつの妹狙ったか、分かるか? てめえらに言ったよな? 覚えとけよって! こいつを殺せば! 絶望すんだろ? ヤハハ、バハハ! 絶望した顔見たいんだよ! お前らの。いいだろ? おいには、勝てねえよ! もはや、この世界最強なんだよ! 弱小のお前が、勝てねえんだよナルミ」




 ダイゴは、以前とは、違い身体が、大きくなっている。ドーピングでもしたみたいに体格が、良くなっていた。絶望だ。勝たなくてもいい。小和を助けれれば。


「そうよ。ダイゴの言う通り! 勇人、おとなしく帰れば、穏便に済ましてあげるわ! さっきも言ったでしょ?」


 さっき? あっ、そうか。受付の女性は、智美自身だったのか。猿芝居していたのか。気付かなかった。油断もいいとこだった。


「何言ってんだ? 俺は、小和を助けに来たんだよ! あんたの個人的な感情なんか、どうだっていいんだよ! 知るかよ! 浮気だが、なんとか、小和は、小和で幸せになる権利が、あんだよ! それを奪おうとするなら、力づくでもあんたを殺るぞ! 覚悟しろや! クソババアが」



 俺は、感情の起伏が、激しくなってきた。声は、興奮状態となり、喚き散らしているようになっている。感情のコントロールが、出来なくなってきた。


「親に向かってなんだその口は! お前も殺すぞ! カッカッカッカッカ。ダイゴー。いいよ制裁を加えてあげましょう! このガキも小娘にも!」



「承知致しました!」


 ダイゴは、深呼吸し、何かを溜めているようだ。ビームのようなものでも出せるのであろうか。この距離じゃ、直ぐに逃げれない。50メートルもないくらいの距離にいるのだから。



「あばよ! 人生! ビュアー!」



 予想通り、ビームが、飛んできた。速すぎる。



「動くなよ! ここにいれば、なんとかなる! ワイのシールドの中から、出たら、多分死ぬぞ!」


 ナルミは、ピンク色のシールドを張り、直接のダメージを受けることを回避出来た。当たっていたら、身体は、粉々になっていたであろう。骨も粉々で死んだということも隠蔽出来るワケであろう。こんなことが、あってたまるか。



 しかし、今は、このビームを防ぐだけで精一杯だ。どうにか手が、ないものだろうか。ナルミもこの威力あるビームに耐えていられるのも時間の問題だ。体力が、削られている今、次の対策を立てなきゃ。


「ナルミ、どうにか、あいつのビーム止めれないのか?」


「そうやなー。叫べ! どうにかなるかもしれん! あくしろ、勇人!」


「弱者は、強者を打ち破る捨て身の覚悟で! 因果応報!」


 俺が、叫ぶと、ダイゴのビームは、止まった。時間が、止まっている? 錯覚だろうか。真礼と美冬も止まっている。小和は、どうだ? とりあえず、小和を救助しなきゃ。


「小和、大丈夫か?」


「来なくていいって言ったじゃん。私は、生まれてこない方が、良かったの。ずっとずっと、どこに行っても虐められて、嫌な思いさせられて本当に嫌だった。大好きだったママが、死んで本当に辛くて、誰も分かってくれない。ママだけは、私のこと分かってくれた。だから、いくら、いじめられても生きてられた。でも、もうママはいない。心の拠り所が、どこにもない。勇人お兄ちゃんのお母さんに殺されても私、後悔ないよ? 勇人お兄ちゃん、もう帰っていいから、ごめんなさい」




 小和は、ボロボロになった身体で涙を流している。見ていられなかった傷ついた身体を見ていると漲ってくる。奴を殺したいという感情が。


「馬鹿なこと言うな! 心の拠り所がない? だったら、俺が、なってやるよ! もう俺は、お前の兄貴だぜ? お前は、俺の大切な妹だ! 一緒に帰ろう! だから、目を覚ませよ! な? 本当の言葉を聞かせておくれ」



 俺は、小和に強めの口調で言い、抱き締めた。耳元で小和は、こう囁いた「勇人お兄ちゃんと暮らしたい、真礼ちゃんとも仲良くなりたい。美冬さんとも仲良くしたい」っと掠れたような声で言ってくれた。その言葉で十分だ。奴を殺る動機がね。


 止まっていた時間は、動き始め、ビームを弾き、ダイゴが、悔しそうな表情を見せた。


「ふー、小和の手当てをお願いします! 美冬さん!」


 俺は、小和を抱いて真礼と美冬の元へと行く。美冬の前に小和を寝かせて治療をしてもらうことにした。


「分かった! 小浮気君は、どうにかしてダイゴとあの人を止めて!」


「ああ、あったりめえだ! 真礼、力を貸してもらってもいいか? お前が、必要だ!」


「えへへ、いいに決まってるでしょ! 真礼お姉さんに任せなさい!」


胸に手を当てて、ニッコリと微笑む真礼を見て、頼もしい限りだ。俺の方が、恐怖に怯えていたようである。いけないな。こんなんじゃ。真礼の彼氏務まらないよ。



「ありがと、お姉さん!」


 俺は、からかうようにして言った。


「ぷんぷん。誕生日早いから、お姉さんだもん!」


「あはは、もうすぐだったもんな! 誕生日、帰ったら、小和も含めて誕生日会しよう! 最高の宴としようぜ!」


「宴は、いかんでしょ! 未成年だし」


 真面目な真礼らしく咎められる。それに対し、「あーってるよ! そんなの俺も真面目だし」っと頬を緩ませてリラックスした。



「命拾いしただけやろ! 何、余裕ぶっこいてんねん! ガチやぞ! 後、もう少しの命、噛み締めるがいい。ごほほごっほっほごっほ!」


 ダイゴは、高笑いと共に智美へと耳打ちをしているようだ。さてと、こちらも余裕ってワケではないが、真礼と共同して因果応報をすれば、以前のように勝機は、ある。



 だが、懸念しなければならないのは、ダイゴの強さが、以前に増して強大だということ。ビームに関してもそうだ。前回は、あのような攻撃が、出来なかったはずである。俺とナルミへの因縁につけて智美の嫉妬心でパワーアップしたという憶測は、出来る。




「ナルミちゃんは、ダイゴに勝てるの? それとも、やっぱり厳しいかな? あたしは、勝てると思うんだ! なんとなくだけど、そんな気がする!」


 真礼は、ナルミに勇気付けようとしている。気配り上手の真礼は、誰に対しても気を遣える。それが、人気者の秘訣であろう。俺には、到底出来ない。


「ワイもダメやな。お前の彼女に心配されるようじゃ。勝てるよ! 勝つしかないやろ、お前らの未来の為に! やろ? 死にたくないやろ? だったら、気を込めてくれ、それが、ワイの力になるから」



 ナルミは、忠告するように言った。身を滅ぼすかもしれないという覚悟の元に。

「えへへ、ナルミちゃんに込めるよ! いっぱいいっぱい込める! ここにいるみんな幸せになれる未来へといけるように!」



 真礼は、俺と美冬と小和と智美を見つめてそう言った。本当に優しい心を持っている。その純粋な心は、大切だ。ずっと失くさないで欲しい。


「じゃあ、いこうか」


「弱者は、強者を打ち破る捨て身の覚悟で! 因果応報!」


 俺と真礼は、口を揃え唱えた。ナルミにいつもより力が、増しているように感じた。召還した死神もいつもより強そうに見え、勝機が、見えたと思っていたのだが。



「ほっほっほ! 二度も同じ手が、通じると思うなよ!」


 ダイゴは、智美の魂を完全に吸い取りやがったようだ。智美は、倒れこんでいる。嫉妬心と因縁が、嚙み合ったら、もうそれは、無敵じゃないか。


 ナルミの召還した死神の攻撃は、何一つ通じない。


「ぎいい、主。攻撃が、通じんよ」


 斧のような武器を持って、攻撃しても傷一つしかないダイゴ。万事休すなのか? せっかく、ここまで来たのに。終わりなのか。



「おい、ナルミ! てめえは、ここで終わりだ! 死ね!」


 ダイゴが、口から、ビームを吐き出した。ナルミの魂が、乗っている死神とナルミに直撃だ。もう、完全に終わり、活路を見出せない。死神は、消えて、ナルミも倒れこんだ。



「ぎゃはははは! 終わりや! 勝ったでー! ざまああ! さてとてめえら、人間も始末するとするか! 覚悟できたか? なあ、いいか? 震えとまらないだろ? いいねえ、その絶望してる顔見てると、こっちも殺りがいある!」



 ダイゴは、舌を出して唇を舐めている。今から、殺れるのにワクワクしているような表情である。



 勝てなかったのか、もう逃げれない。僅かな希望も断たれた今、俺に何が出来るのだろうか。絶体絶命、窮地に追いやられた俺達は、ただ、死を待つしかなかった。ビームが、こちらへと飛んでくるその瞬間に目を瞑り、走馬灯のようにしてこれまでを思い出した。


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