帰還
祖母ちゃんたちが帰ってきた。
しかもカツヤさんを連れて。
思わぬ再会に驚いたものの、『ぴーちゃん』の墓参りに来たって言われて納得した。うん。『ぴーちゃん』も息子の墓参りは嬉しいと思うよ。
本当はイノマタ家別邸で働いてたカトウさんとかコガネモリさんも来てたらしいんだけど、山向こうにある内陸の街で待っているらしい。うちの村は村人の身内以外には厳しい……というか、黒目じゃない人がたくさんいるこの谷に入れる人間は制限されているからだけど。
カツヤさんが帰るときには、父さんがカトウさん達が待つ内陸の街までカツヤさんを送っていくらしい。
ナツキが持ち帰った植物の苗達は少し元気がないものもあったけれど、概ね問題もなく山の神の郷にある温室に移植された。
一応、植物の種も持ってきたらしいので、あとで植えてみようかって話をしている。
カツヤさんは旅の疲れを癒やしたあと、『ぴーちゃん』の墓参りをした。その後は、うちにあった写真を眺めて祖母ちゃんと昔の話をしていた。
ちなみに、村には写真屋がない。谷の下流の村に行けば写真屋があるけど、黒目じゃない人間は谷の下流の方におおっぴらに行けないから、写真に写っているのは黒目黒髪の人たちだけ。
写真屋さんに出張してもらって写真を撮ってもいいのかもしれないけど、谷の下流の方へ行くと谷の外から来た黒目黒髪の人も多いから、現像したときに黒目じゃない人間が写ってる写真が外の人に間違って見られないって保証はないし、用心に越したことはない。祖母ちゃんや私の写真がないのはそういうわけだ。
その代わりに黒目じゃない私たちのような人は、似顔絵とか肖像画を描いてもらう。私も七五三とか基礎学校の卒業の時とか、記念に姿絵を描いてもらったっけ。
☆ ☆ ☆
ナツキが戻ってきて、今日は2人で店番。
えーっと、なんかナツキが戻ってきてから、美しさに磨きがかかってしまった気がするんだけど……。
いや、元からナツキは美少年でしたよ。でもね、ずーっと引きこもりで様々なことを経験してこなかったナツキは、自信なさげで、なんか残念な美形だったのよね。
もちろん、前からキレイな顔だったし、輪郭のラインとか鼻筋とか眉毛の描く弧とか絶妙だよなーって眺めてしまうくらい美しい人ではあった。
けどね、里帰りしてきてから、なんか男っぽくなったっていうか、内から溢れ出る雰囲気が変わったっていうか。
あまり見ると目が眩んでしまうような気がして、私は眼鏡をしっかりかけ直して、こっそり見てたことを隠してみたり……。隠せてない気もするけど。
「ナツキくん、いい男だねぇ~」
お店の常連になりつつあるおばちゃんたちは、叔父さんが出した試作品の香草茶を飲みながらナツキを眺めてうっとりしている。
ナツキは「お茶のおかわりいかがですか?」なんて愛想よくおばちゃんたちと話してて、少し前までは人に見られるのすら嫌がってた人とは思えないくらいだ。……何が彼を変えたんだろうか。
「リウ、どうかした?」
ナツキがにっこりとキレイな顔で笑うから、私は「なんでもない」と慌てて下がってもいない眼鏡を押し上げる振りをして、顔を隠したのだった。