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ナツキです

 北のノコギリ谷は凄いところだった。

 青い目の人が何人もいて、それだけじゃなくて紫色とか青灰色とか翡翠色とか、様々な色の目をした人がたくさんいた。

 最初は人の前に出るのが怖かった。目の色のことは今までずーっと隠して生きてきたから、なかなかフードをとるのに慣れなかった。フードで隠さない自分を晒すのは怖くて、落ち着かない気持ちになる。

 けれど、理宇や修さんの励ましもあって、少しずつ店のカウンターの中でならフードをとっていられるようになり、だんだん店の中、店の周り、近くの畑……とフードをとって行動できる範囲を広げていった。今では村の中であれば、フード無しで平気になっている。


 山の神の郷に初めて行ったときは驚いた。

 村の中以上に色素の薄い人たちがたくさんいて、むしろ黒髪とか黒目の人の方が少数派なくらい。

 その郷にはチネツハツデンってものがあって、電気っていうものがあって、その力で灯りがついたり、温室を温めたりしているという。

 温室は俺が育った屋敷のものより広くて、寒い地方では育たない植物も多く見られた。残念ながら温室の植物の世話をする人手が足りなくて、枯らしてしまった貴重な植物も多いらしい。温度管理とか水やりのタイミングとか、繊細な植物もあるからな。


 漠然とこのだだっ広い温室で植物の世話をしたい、うちの屋敷にあった植物で、ここにないものを持ってきて植えられたらいいのに……と考えていたら、理宇の祖父ちゃんが一度里帰りしてきたらどうだって言ってくれた。


 この村に来るとき、理宇が俺を庇ってくれたことがある。

 どこの村だったか、しつこい子どもがいて、馬車に乗り込んでこようとした聞き分けのない奴がいた。俺も理宇も黒目じゃないから、まともに見られたらヤバいと思った。なのに俺は何も出来なくて……。それなのに理宇は俺を庇うように馬車から降りて、聞き分けのない子どもの相手をし、俺から離してくれたんだ。

 ……情けない。


 確かに俺の目は青いし黒目のヤツらに見られてはマズいけれど、理宇に任せきりで何もできない自分に嫌気が差した。

 どうやったら、あのとき、あの子どもを上手く追い払えたのか、未だに答えは出ない。でも、俺だって何か出来たはずなんだ。



 ☆ ☆ ☆



 里帰りして、うちの屋敷に着くと、祖父さんと美沙希と晃が迎えてくれた。理宇の祖母ちゃんが馬車から降りると、祖父さんが驚いて目を丸くした。

 2人は涙を浮かべて両手をつないでいる。「お互い年をとった(としょった)な」なんて言い合っていた。


 屋敷の温室にある植物を幾つか、鉢に移して持ち出す準備をしていたら、祖父さんが「一応、種も持っていけ」と袋包みをよこした。

 種からだと育てるのが大変だけれど、鉢植えを運んでいるうちにダメにしてしまったときの保険にすればいいと言われた。


 それから屋敷には2泊ほどして、祖父さんと理宇の祖母ちゃんは積もる話をしていた。

 祖父さんは墓参りをしたいと言って、箱馬車を用意した。俺たちについてくる気満々だ。ってか、いつの間に用意してたんだ!?

 箱馬車にはベッドが2つついてて、祖父さんと理宇の祖母ちゃんに使ってもらうことになった。まぁ、年寄りには無理はさせられないからな。

 それと、箱馬車の御者はうちの屋敷に長年勤めてくれている小金森(こがねもり)さん、野営の食事は加藤さんと理宇の祖母ちゃんが担当ってことになった。うん、谷からの帰りに祖父さん一人で帰すわけにはいかないからな。


 晃と美沙希に見送られて出発した。

 帰りは行商の人たちとは別行動。

 少しの不安はあるが、この面子なら大丈夫だろう。

 あの面倒な子どものようなのがあらわれたときの対処法を何通りも考えながら、谷へ帰ろう……と思って、すっかりあの谷は自分の帰る場所になっているんだな、と苦笑した。



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