一人で店番
ナツキが帰って来るまで、私一人での店番は続く。
もちろん、薬草の調合がなければ叔父さんも店に出てくるし、あまり暇なときは私も薬草の調合をすることもあるから、店番ばかりではないのだけど。
店の扉にはベルが取り付けられていて、誰かが入ってくれば音が鳴ってすぐに分かるし、いつも店番ばかりしていなくてもいい。
けれど、なんかこの店、村の茶飲み友達の集会所的な感じになっちゃってるんだよね~。
「コレは試作品の香草茶なんで、よかったら飲んでみてください」
なんて言って、叔父さんがお客さんにお茶を振る舞ったりするもんだから、おばちゃんたちが集まってはお茶を飲んでいくことが増えてきた。
お店にお客さんがいるとなると、店番のカウンターには私がいないとマズいでしょ。
それで、茶飲み話に巻き込まれた私が話の種にされるわけで……。
「で、ナツキくんはいつ戻ってくるの?」
「戻ってこられなくなったら寂しいねぇ」
「リウちゃん、いい人に逃げられたのかい?」
学校の厨房に通いで来てた「おねえさま方」と同じ。女性が話好きなのはどこでも一緒なのかなぁ。
それと、この村には方々から逃げ込んできた人がいるので、方言は外ではあまり使わない。家の中、家族だけのときだけ、家族で通じる方言で話すことが多いのだ。
ちなみに方言じゃない言葉は、基礎学校で習う……というか普通に先生(祖父とか父とか)が使うし、教科書もそうなってるから、みんな外では方言じゃなくなっていくんだ。
そうは言っても「めんこい」とか「ゴミなげる」とか、そういう通じる方言ってのもあるけどね。
「だから、いい人とかじゃありませんって」
「またまたぁ~」
「だから親戚なんですってば!」
「照れなくていいんだよー」
否定すればするほど泥沼にはまってる気がするのはなぜだろう……。思わず遠い目になっちゃうわー。
「ナツキくん、リウちゃんといるときはなんだか様子が違うもの~」
「そうよねぇ」
あー、アレだ。まだ村に馴染んでないから、私がいないとナツキは緊張するみたいなんだよね。なんといっても引きこもり生活が長かったわけだから。
そのうち村のみんなに慣れれば、私がいなくても大丈夫になるはず。……なんだけど、おばちゃんたちの話の勢いにはついていけなくて、なんかもう、違うって否定するとかどうでもいいかなぁって気になってしまう。
「いらっしゃいませ。……リウ、これ、イワシミズさんが来たら渡しておいて」
叔父さんがおばちゃんたちに挨拶したあと、袋包みを渡してきた。私はそれをカウンター後ろの棚に置いておく。分かりやすいように「イワシミズさん」と書いた札をつけた。
「あら、シュウさん。あのナツキくんって、リウちゃんのいい人なんでしょ?」
「いえいえ。ウチの兄が目を光らせてますから、それはないですよ~」
「あ、そう言えばソウさんがいたわねぇ」
「ソウさん、リウちゃんに悪い虫がつかないように、昔からすごかったもんねぇ」
「そっか、そりゃ、ナツキくんに勝ち目はないわぁ~」
なんだろう、私の父に対するこの安定の「過保護」なイメージは。……あれ? 過保護ともまた違うのか? でも何と言ったらいいか分からないから、過保護ってことにしておこう。
「リウちゃんにちょっかい出す子は、もれなく邪魔されてたものねぇ~」
「うちのカズなんか、ソウさんに睨まれただけで涙目になって帰って来たのよ~」
「あら、うちのヒサシは授業中にリウちゃんを眺めてたって、罰として居残りでノート一冊分、漢字書き取りさせられてたわー」
えーっと、よく分かんないんだけど、私の父は、もしかしなくても残念な感じなんでしょうか……?




