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温室

 叔父さんが薬草師としての店を開いた。

 村の中で空き家を見つけて、薬草の乾燥棚やらカウンターなんかを設置して、薬草師の店として営業できるように改装すること1ヶ月。改装には私も駆りだされた。なんたって、村には大工さんの人数が少ないからね。

 ナツキはそれまで私の家にいたのだけれど、店の建物の2階にある住居部分に住みはじめた。けど、初めはなかなか外に出られなかった。今までずっと外に出てこなかったから、抵抗があったんだと思う。

 それでも私と一緒に店番をして、お客さんとして来た黒い目じゃない人たちと会って、だんだん慣れてきたようだ。フードをかぶることもなくなったし、外にも出られるようになった。


 それから、店が休みの日には何度か山の神の郷へナツキを連れて行った。山へ薬草取にも行ったけど。

 郷にはチネツハツデンとかいうもので電気があり、イノマタ家別邸にあったのより大規模な温室があって、ナツキはそれが気に入ったらしい。数ヶ月経つ頃には、温室で植物の世話をしたいと言うようになった。


「イノマタ家別邸の温室にあった植物で、ここの温室にはないヤツを持ってこれたらなぁ……」


 たまに、そんなことを呟いていた。

 そういえば、イノマタ家別邸の温室には貴重な薬草があった気がする。……記憶が定かではないけれど。



 ☆ ☆ ☆



 ある日、祖父ちゃんが夕食の席で言った。


「祖母ちゃん、一度、里帰りしてきたらどうかね?」


 その場にいたみんなが、ビックリして固まった。

 当然だ。祖母ちゃんは目の色のことで辛く当たられて、それで故郷から逃げてきたんだから。

 祖父ちゃんだって、祖父ちゃんの弟が黒目でも黒髪でもなかったから、この谷へ一緒に逃げてきたんだし。


「行商の人たちと一緒に行って来れば大丈夫だろう。リウとナツキも大丈夫だったんだから。

 ナツキは貴重な薬草を屋敷の温室から持ってきたいと言っていたし、カツヤさんも体が弱ってるそうだから、一度会ってきたほうが良いと思うんだ」


 あぁ、確かに。

 カツヤさんは青い目のナツキを保護していたし、祖母ちゃんのことも気にかけていた。もしも……の場合を考えて、会えるときに会っておいた方が悔いは残らないだろう。


「私が一緒に行きます。コウにも会いたいし」


 そう口を挟んだのは父さんだ。


「薬草を持って帰ってくるなら、鉢植えだとしても急いで帰ってきたほうが良いだろう」


 行きは行商の人たちと一緒に行く。けど、父さんも一緒にうちの馬車でついて行って、帰りは父さんの馬車で大急ぎで帰って来るってことになった。

 行商の人たちがいないと、人に紛れて目の色を誤魔化す事ができないから野宿が基本になるだろうけど、うちの馬車は幌馬車だから中で眠れるし大丈夫だろう。

 そう言われれば祖母ちゃんも否やはないらしく、嬉しそうに笑った。


「ナツキも一度、帰っておいで」

「……はい」


 ナツキは暫し考えこんだあと、重々しく頷いた。



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