いがえん
私たちの卒業式が終わったあと、ナツキがお嬢に北のノコギリ谷に行くって話をした。私の目の色のことも。実は親戚だってことも。
「なんで今まで……! 早く教えでけだって『いがえん』っちゃ!!」
『いがえん』と言うのは『良いでしょう』っていうようなニュアンスの方言。
うん、早く教えたかったけど、なんか、言い出しづらかったというか、ナツキのことを知ってる人が少なかったように、私の目の色のことを知ってる人も少ない方が良いと思ったんだよ。
そう言ったら、お嬢は「それでも私には教えてくれたって……!」と納得行かないみたいだった。
「ごめんね。お嬢に教えて気が抜けると、学校関係の人にまでバレそうな気がしてさ……」
お嬢が知ってたら、つい2人のときは気を抜いちゃって、気が付かないうちに学校で誰かにバレることも心配だったって言ったら、「それはそうかもしれないけど……」と渋々受け入れてくれた。
「それにしても、リウと親戚だったなんて!」
それに関しては嬉しかったみたい。
「うん。で、コウはまだ学校に残るから、何かの時にはよろしく~」
「そっか、コウくんも親戚なんだもんね。当たり前だけど」
これからイノマタ家別邸には、きっとたまにコウがお邪魔して、カツヤさんが寂しくないようにしてくれると思う。
☆ ☆ ☆
4月中旬に行商の人たちが来るまで、私は叔父さんの師匠であるミウラさん夫婦のお店に通ってお手伝いをすることになった。
「もうすぐ実家さ帰るんだって? 寂しくなるごど……」
「それまではお手伝いさせてくださいね」
薬草師としての店の切り盛りの仕方とか、お客さんに症状を聞くときの話の仕方とか、帳簿の付け方とか、よくお店を見てみれば学ぶことはたくさんあった。
楽しく充実した忙しい日々は、あっという間に過ぎ去っていく。
☆ ☆ ☆
行商の人たちが来て、明日は出発って日の夜。叔父と私、コウにお嬢はイノマタ家別邸にいた。もちろん、ナツキとカツヤさんも。
その晩は、行商の人たちも混じって宴会。大騒ぎして笑って泣いて、お別れをした。
「手紙書ぐがら」
「うん。たまには遊びにございんよ」
「うん」
お嬢とカツヤさんと、お別れをする。
楽しかった日々の思い出を語り合いながら。
ナツキのことは任せてって、2人を安心させる。
あの谷なら、ナツキの目が青くたって大丈夫。ここにいるより、自由になれるから。
それでも、ここでの思い出は辛いものだけではなかったと思うから。いつか、きっとここへ、また来よう。




