ナツキの準備
ナツキがカツヤさんに谷へ行く話をして、なんとか説得を終えた。
で、ここで問題が発生。
ナツキは屋敷に引きこもり生活をしていたので、基本的に体力がないし、馬車に揺られたこともない。そして運動もしてないのに痩せてるってことは、食も細い。つまり、谷まで行く長旅に耐えられるだけの体力がないんじゃないかってこと。
私とお嬢が来たときは、普段よりは食べてたようだけど。でも、カツヤさんと2人の生活では、そんなに食べないんですよねぇってカトウさんがため息をついていた。
「まず、歩くことから始めないと」
「……はい」
「外に出るのは大変だろうから、階段の登り降りからね」
「うん」
2階建ての屋敷で、階段の上り下りをさせてみたら、2往復で呼吸が乱れてきた。……うん、あきらかに運動不足だね。
登り降りだけでは辛いだろうから、東の階段を上って廊下を通り西の階段から下り、また廊下を通って東の階段へ……って感じで、屋敷10周を目標にして始めようって話になった。
10周して息切れしなくなったら、少しずつ増やして行けばいいんだし。
あと、ナツキを馬車に乗せて慣れてもらうのも必要かも。乗り物酔いしたら、旅が大変だもんね。
それから、ナツキが谷に行くってことはお嬢にも言わないといけない。なんたってナツキとは双子なんだから。
学校を卒業してすぐに谷に行くわけじゃないから、お嬢には卒業式が終わってから話そうって、叔父さんとナツキとは相談してある。
叔父さんとの相談で、行商の人たちと一緒に谷に帰ることに決まった。行商の人たちが来るのは4月の中旬くらいになるって話だから、それまでは私も叔父さんのアパートにご厄介になる。卒業式のあと、お嬢にいろいろと(私が親戚だってこととか、目の色が灰色だってこととか)説明して、ナツキが谷に行くことを了承してもらわないと。
卒業するまでは学校関係の人には私の目の色のことは内緒にしておきたいから、秘密を知ってる人は少なければ少ない方がいい。だから、それまではお嬢には内緒なんだ。
お嬢ごめんよ、仲間はずれにして。
☆ ☆ ☆
「うえぇえぇぇ~」
情けない声を出してるのはナツキ。
今日はイノマタ家の馬車をお借りして、ナツキとお出かけです。……と言っても、お屋敷周りの人気のない道を周回するってだけなんだけど。
うん、イノマタ家別邸が小高い丘の上で、閑散とした地区にあって良かったかも。
まぁそのせいで、通りが少ない道は凸凹も多くて。ガタガタ揺れる馬車に慣れないのか、ナツキは青い顔をしている。
「……しんどい」
酔ったね? 最初は「余裕だ~」とか言ってたくせに。
やっぱり体験してみないと何事も分からないものだよねぇ。……がんばれナツキ。