卒業に向けて
怪我を負ってしまった薬草採取の課題は、とりあえず残り2種まで採取できれば合格ラインだったらしい。お嬢と私は残り1種まで採取していたので、まぁまぁの成績と言えた。
というか、残りはレア物1種で、それはコマツ先生があったらいいなーという希望だったそうで、実質的には私たちは全種類制覇したと言ってよかったみたいだ。なんだよ、その幻の薬草。
秋も深まり、様々な作物の収穫もおおかた終わった。
冬になれば屋根裏組の外での作業も落ち着く。そうなると私たち3年生は卒業までに、この学校での集大成をレポートで提出しなければならない。
どんな専門分野で何を学んだのか、それをまとめる。レポートを専門分野の先生に提出して、それに対しての合否判定があって、やっと卒業なのだ。
もちろん、例年1回では合格できず、2回3回と再提出を食らう学生も多いという。そして、稀に卒業時期に間に合わず、専門課程に進んだふりをして、合格まで粘る人もいることはいる……らしい。
私もお嬢も、最後の追い込みとばかりにレポートに取り組んだ。たまにはイノマタ家別邸で息抜きもしたけれど。
結果として、レポートは合格判定をいただいた。
やった! これで卒業できる。
「で、ウノの姪っ子ちゃんは、卒業後はどうする予定?」
コマツ先生から卒業後の予定を訊かれたので、叔父さんと谷に戻って薬草師の店を始めるって話をした。
「へぇー。繁盛したら、僕も行ってみたいなぁ……」
「遠いので、お手紙だけにしといてください」
うん。谷の人たちは、黒目黒髪のよそ者には警戒感が半端ないからね。来ない方が良いと思う。
お嬢は、やっぱり専門課程にすすんで、ゆくゆくはこの学校の教師になりたいようだ。
「薬草学は私の担当ですから、他の教科を狙ってくださいね」
コマツ先生がお嬢に牽制する。薬草学の先生ばかり増えても仕方ないもんね。
お嬢は食品加工の分野と連携して、香草や薬草を使った食品を作りたいと言っていたので、コマツ先生とはまた違う切り口で薬草を極めていくんだと思う。
☆ ☆ ☆
「で、卒業したら、私も叔父さんも谷に帰るんだ」
「……うん」
「コウはこっちに残るから、たまには遊びに来させるよ?」
「……うん」
ナツキに卒業後の話をしたら、なんだか重たい雰囲気になってしまった。
うーん……。どうしたらいいのかな……。
「俺も、谷に行きたい」
ポツリとナツキが呟いた。
「へ? カツヤさんはどうするの?」
「祖父さんなら、ミサキだっているし、カトウさんもいるし。大丈夫だ」
いやいやいや。そうじゃないでしょ?
「いや、カツヤさんとは、そういう話したの?」
カツヤさんが納得してなかったら、たぶん凝りが残ってしまうと思うんだよね。
そういう話はきちんとしとかないと!
「これから、ちゃんと話す」
うん、そうしてください。