コウです(伝説のウノさんって……?)
今年の春、俺「鵜浦晃」は姉と同じ学校に合格すると同時に屋根裏組に申し込んだ。うちの家計に余裕はないからな!
俺は意気揚々と谷を出た。また、姉が心配で、不安もあった。
姉の目は灰色で、パッと見では分かりづらいけれど、よくよく見れば変わった色の目だと分かる。世の中は黒髪に黒目の人が多く、ちょっと色が薄くても焦げ茶くらいまで。灰色なんて方向に色が薄いのはおかしいから、バレたら祖母ちゃんや山の神の郷にいる大叔父さんみたいに谷に逃げこむしかなくなる。
それなのに、あの姉は「薬草師になる!」と言って、みんなの反対を押し切って谷を出たのだ。
強硬に反対していた祖母ちゃんも、最後には諦めたというか呆れたようで。祖父ちゃんは山の神の郷で、特別製の眼鏡をもらってきていた。目の色がごまかしやすい品らしい。
うん、祖父ちゃんは基礎学校の授業以外では無口なんだけど、ちゃんと考えて行動してくれる頼りになる男です。
屋根裏組として早めに寮に入ることになって行ってみれば、姉さんは目の色がバレてはいなかったようで、普通に友人たちと仲良くしていた。
ちょっと安心したけど、同時に心配していた分、少し腹立たしくもあった。
ところで男子寮に入ったら、何やら「伝説のウノさん」という話が聞こえてきて、それがどうもシュウ叔父さんのことだと分かって焦った。
そして、なにやら俺に期待する先輩方の視線に戸惑うばかり……。
なんだよ~! 俺は目立つようなことしたくないんだって。叔父さん、何やらかしてくれてんだよー!
でも話を聞く限り、叔父さんとセットの小松先生にも原因はありそうなんだが、そっちはノーマークか?
いや、小松先生の奇行は普通に見られるから、むしろそんな小松先生にコンビとして付き合える叔父さんが伝説として語り継がれているような感じもある。
うん。叔父さん、すげーよ。あの小松先生と付き合えるって、どんだけだよ。
そして、姉もまた、なんだか伝説というか逸話をつくりつつあった。
1年生のときは田植えで田んぼに落ちて見事に泥まみれになったとか、なんでか猪俣家のお嬢に気に入られて別邸に入り浸っているとか、眼鏡を外した顔はめったに拝めないレア物だとか、屋根裏組の上に成績5位以内をキープして学費免除を貫いてるとか……。最後以外はなんか情けないものも入ってるんだけども……なんだかなぁ。
そういうわけで、俺も何かやってくれるんじゃないかっていう期待があるらしい。
いや、俺、普通だからね? 叔父さんとか姉さんみたいな何かを期待されても何も出ないから! 田植えだって普通に終わったし、学費免除は狙うけどさ。
☆ ☆ ☆
「俺、昨日、薬草園の草むしりで、間違えて薬草の芽を抜いてしまったらしいんだ……」
鷹觜賢司の告白に、俺は震撼した……!
「おまっ! 選りに選って、小松先生の聖域で……っ!」
「うん。どうやっても『くられる』と思う……」
あぁ、やらかしてくれたな、賢司。薬草を「僕のかわいこちゃん」と言って憚らない小松先生から頼まれた薬草園の草むしりで、お前なにしてくれてんだよーっ!
きっと、あの場に一緒にいた俺たち屋根裏組にも、連帯責任という名の何かしらが科せられることだろう……。しかも相手はあの小松先生だ。何が起こるか分かったもんじゃない。
「君たち、僕のかわいこちゃんになんてことしてくれたんだい? どうやら君たちには薬草を愛でるという気持ちが足りないようだね」
小松先生がこめかみに青筋を浮かべながら薬草への愛を語り始めた。
叔父さん、この小松先生とコンビだったって、ホントすげーよ……。
小1時間も薬草への愛を聞かされたその後、俺たち屋根裏組の1年生は1ヶ月の間、薬草園で薬草のご機嫌取り(薬草に話しかけて褒めちぎる)というワケの分からない行為を強要させられるのだった……。