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曲がって……

 3年生は最終学年だけあって専門的な授業が多い。

 薬草師になりたい私は、どうしても薬草学が専門のコマツ先生との付き合いが多くなった。それに伴って、薬草園での実習も増える。


「うーん、今日も素敵だねぇ」


 コマツ先生が地面に這いつくばって、薬草に何やら話しかけている。前々から知ってはいたけれど、そんな姿を見る機会も増えて、見た目が良いだけに残念な人だなぁと思う。

 それにしてもコマツ先生が何を見ているのか気になって、私もコマツ先生の視線の先を追って屈みこむ。どうやらコマツ先生は薬草の若葉を見ているようだ。


「なに『曲がって見て』んの?」


 突然、後ろから声をかけられてビクッとしてしまった。振り返ればお嬢が怪訝な顔をしている。

 『曲がって見る』とは『覗きこむ』とかそんな意味だ。体を曲げて屈んで見るから、そんな表現になるんだと思っている。


「いや、コマツ先生が何見てるのかと思って……」


 ちょっとバツが悪くて、目を泳がせながら答えた。


「まぁ、確かに気にはなるけど……。コマツ先生だよ?」


 うん、それは「変人だよ?」と同じ意味ですね、分かります。コマツ先生だもんね。薬草を「かわいこちゃん」と言って憚らない人だから、みんなこの人に関しては何かを諦めているところもある。


 それはさておき、今の授業の課題は薬草のスケッチに薬草の匂いと味を書き込むことである。スケッチは花と実が付いている薬草の若葉と大きくなった葉、あと全体的な立ち姿を書いて高さや葉の大きさなども見やすく描くことを求められている。


 最初に指示があって「あんまりいっぱい食べると危ないのもあるから気をつけろ―」なんて怖い注意事項をもらってから作業に入ったのだが、コマツ先生はその指示の後に地面に這いつくばり始めたのだ。

 まぁ、この薬草園にある薬草はそんなにキツイものはないので、注意事項はコマツ先生の冗談だって分かっているけど。確かにスギナとか、お腹下しちゃう系統のものもあるから注意は必要だ。


「先生、そろそろ時間ですけど……」


 校舎に取り付けてある大きな時計を見ると授業の残り時間が5分を切ったので、薬草に夢中なコマツ先生に声をかける。


「……もうそんな時間か。かわいこちゃん、また後でね」


 未練タラタラな態度を隠そうともしないコマツ先生に、思わず遠い目をするお嬢と私。他の学生たちも同じ表情をしている。


 うん、コマツ先生の見た目には、もう誰も騙されないからね。



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