かばね
叔父と同期だったというコマツ先生は、たまに私をからかいに来る。
特に食堂の厨房で仕込みのお手伝いをしているときとか。
「ウノの姪っ子ちゃん。元気ー?」
ウノというのは叔父の呼び名らしい。
ウノウラが家名なので、そこからきているようだ。
「元気ですよー、副担任サマ」
若干げんなりして返事をする。
包丁を使っているときに声をかけないで欲しい、危ないから。
「明日は休日でしょ?俺と薬草園で散歩しなーい?」
「…薬草園で薬草の世話と観察の間違いでは?」
「あれ、バレたー?品種改良したカワイコちゃんがいるのよ~」
忙しいからと断るのに、けっこうしつこく食い下がってくるので困る。
先生曰く、叔父と私の容姿が似ているらしく、懐かしい気持ちになるんだとか。
いや、叔父は観音様みたいにキレイなお顔だけど、私は平凡な顔立ちだし。
勝手に懐かしがられても困るというか…。
私としてはあまり特定の人物と長時間一緒にいると、目の色がみんなと違うことがバレそうで怖いワケで。
祖母は目の色が違うってだけで、ある程度の年齢になるまで屋敷に閉じ込められ、人目につかないようにして育てられたそうだ。
目の色が違う子どもを産んだことで、祖母の母(曾祖母)は姑や夫に辛く当たられ、精神的に限界ギリギリまで追い詰められ、祖母を連れて逃げ出したと聞いている。
私の目の色がバレたら、私も祖母みたいに逃げ出さなきゃいけないようなことになるんだろうか…。
せっかく仲良くなった人たち、みんなから変な目で見られたりとかしちゃうんだろうか。
考えると、なんだか気持ちが重くなる。
そんな考えに頭がいっぱいになっていると。
「あんまりシズらねでけらい!」
食堂のおばちゃんの声が響き渡る。
あ、先生がビクっとしてる。
『シズる』というのは『からかう』という意味の方言だ。
コマツ先生はこの学校出身なので、食堂のおばちゃんにとっては学生時代から知る顔。
めんこい息子のようなもの…らしい。
コマツ先生はおばちゃんには学生時代のバカやらかしたこととか知られていて、到底頭が上がらないのだそうだ。
「おっきなカバネして、中身は変わらねねー」
『カバネ』は『体』のこと。
『大きな体して、中身は変わらないね』とおばちゃんは言う。
「あぁ、おばちゃんには敵わないなぁ…。じゃあね~、ウノの姪っ子ちゃん」
先生、いい加減、私の名前覚えてくれないだろうか…。