たごまる
寒い朝、長袖の肌着の上にシャツを来て、上着を羽織る。
「リウ、早く!」
「ちょっと待って。袖が『たごまっ』ちゃった」
今朝、リウとお嬢は寝坊した。屋根裏組の朝の仕事がもう始まっている。
服を慌てて着たので、長袖の中で長袖が『たごまって』いる。
『たごまる』というのは、ゴチャっと固まっているというか、なんというか……。中で袖がしわしわに縮まってしまっていてゴワゴワして『いずい』のである。
「先に行くよー」
「分かった―。すぐ追いかける」
昨夜、お嬢と話し込んでしまい、夜遅くまで起きていたのがいけなかった。試験勉強の後から始めたので、けっこう遅い時間まで話し込んでしまったのだ。
話題は試験で出そうな問題に始まって、先生方の癖の話、カイやノマなど男子のこと、誰々が誰々を好きみたいだ……など多岐にわたった。
試験勉強で息が詰まっていたのもあって、少し羽目をはずしてしまったのである。
袖の中の『たごまっ』たのをなんとかし、慌てて髪の毛を整え、眼鏡をかけて部屋を出る。
寮の中も学校の中も配管によってお湯が通されており、建物の中はほんわりと暖かい。屋根の上に巡らされた配管が日光によって温められるので、それを流して暖房にしているのだ。
もちろん、それだけでは教室の中などは寒いので、ストーブも置かれているのだが。
「おはよう! ごめん、遅くなった!」
「おはよ! 少しだけだから大丈夫。けど急いで」
タキが床をモップで拭きながら声をかけてくれる。チラホラと1年生も見える。
「リウは玄関掃除してー。お嬢はトイレ掃除に行ってるはず」
「おはよー! 分かった―」
タキががさらに声をかけてくる。
それと男女の寮は違うので、ここは女子しかいない。
アミは階段掃除の方に行っているらしく、階段には3年生の姿も見えた。
「先輩、おはようございまーす!」
1階に着くとエミちゃんに飛びかかられてよろける。
「おはよう。ごめん、今、時間ないから」
「はーい」
エミちゃんも時間がないのは分かっているので、すぐに開放してくれた。
眼鏡が吹っ飛ばなくてよかった……。あの子はたまに『加減無す』なので、危ないのである。
『加減無す』と言うのは字のごとく『加減無し』という意味の方言だ。
慌ただしく掃除をし、食堂の手伝いに向かう。
食堂の掃除は昨夜のうちにしてあるので、すぐに厨房に入る。
なんとか無事に朝の仕事を終えることが出来てホッとした。
次から夜更かしはしないようにしよう。
お嬢にのせられないようにしないとな~、はぁ……。




