表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/78

と-ぜん

「『と-ぜん』だ~」


ナツキが呻いている。今日はカツヤさんが本宅へ行っているらしく、ナツキは一人で別邸にいた。

『と-ぜん』と言うのは、『とぜん』と『とーぜん』の間くらいの長さで音を伸ばす感じで、意味は『退屈』とか『ヒマ』とかそんな感じの方言である。

徒然(とぜん)」が元なのかもしれないが、「徒然」は気分的に「つれづれ」と読みたい。


「ナツキ~。来たよー」


呻くナツキをこっそり見ていた私とお嬢は、扉の影から顔を見せた。


「っ!?」


ナツキは声も出せないくらい驚いていて、つい忍び笑いが漏れた。ナツキ、驚きすぎ!

勝手口からこっそり入ったから、来たことに気づいてなかったんだろうな。


「今からプリン作るから、できたら一緒に食べっぺし」

「じゃ、あとでね~」


お嬢と私は厨房へ行って、プリンを作った。牛乳に卵に砂糖。学校では甜菜糖も作っていて製品化されているので、買おうと思えば買えるのだ。

プリンを蒸し焼きしている間にクッキーの生地を作っておく。

しかし、プリンを蒸し焼きする加減がけっこう難しい。茶碗蒸なんかも蒸しすぎるとすが入っちゃうのと一緒だね。


平らな容器に雪を突っ込んだ水を入れ、出来上がったプリンを器ごと浸けて冷やす。

家の中は暖房で暖かいから、冷えたプリンも美味しいと思う。

プリンを冷やしている間に、クッキーの生地を伸ばして型抜して、天板に並べてオーブンで焼いていく。


「ナツキー! そろそろお茶するよー」


もうすぐ出来上がるというタイミングでナツキに声をかけた。


「んー。いま行く」


気のないふりの返事だけど、しっかりスケッチブックを抱えているあたり、やる気満々って感じ。思わず笑みが零れた。


お嬢がほうじ茶を淹れてくれた。

クッキーとプリン、どっちから食べるか迷ったけど、せっかくだから温くならないうちにプリンを食べてしまおう。

ナツキが私に倣ってプリンを食べ始める。


「うん、うまい」

「んだべ?」


お嬢がもっと褒めろとばかりに微笑む。いや、ニヤッと笑ったというべきか。

プリンを食べ終わり、クッキーをつまみながらスケッチブックの絵を見せて貰った。

温室の花、お嬢やカツヤさんの顔、カトウさんもいる。そして、私の横顔。

いつの間に描いたんだろう……とビックリしていると、「やっぱり想像で描いたのはダメだな」とナツキがこぼす。

そっか、しばらく来られなかったから、実物を見て描いたんじゃなく、思い出して描いたのか。道理で美化されてると思ったよ。


「んだらば、実物見て描いでけで」


そう言ったら、素直に頷いてナツキは鉛筆を手にした。

ジッとしてた方がいいのかと思ったら、普通にしてていいと言われたので、お嬢とお茶を飲みながら『話しかだり』する。他愛もない、学校の日常の話。農場での作業とか、薬草園でのコマツ先生の奇行とか。

夕日が映える頃、ナツキの絵も描きあがった。

見せてもらうと、最初の絵より私らしい雰囲気で、目が生き生きしているような印象の絵だった。


「上手くかけてるね」

「んだべ?」


お嬢が褒めて、ナツキがもっと褒めろと言わんばかりにニヤッと笑った。

さっきのお嬢とそっくり! さすが双子だな、なんて、当たり前のことを思って笑ってしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ