よめっこど
年が明けた。
最近は、なかなかナツキのところに行けないでいる。
屋根裏組の仕事は少なめなのだが、勉強の方をがんばらないと厳しくなってきたのだ。何と言っても学年5位に入らないと学費が免除にならない。背に腹は代えられないのである。
☆ ☆ ☆
「ナツキが『よめっこど』してたよー」
部屋で勉学に勤しんでいたら、久しぶりにイノマタ家別邸へ行ってきたお嬢が言った。今回はチラッと顔を見てきた程度のようだったが。
『よめっこど』と言うのは『世迷い言』から来ているのか分からないが、『愚痴』のような意味である。
「んー、なかなか勉強が厳しくて……」
方言がでているときのお嬢はリラックスモードか、感情丸出しのとき。お嬢がお嬢様モードに入ると、大変気取った喋り方になる。
「スケッチブックがだいぶ埋まったから、見せたいっ『てだよ』」
誕生日近くのあの日、行商人さんから買ったあのスケッチブックのことだろう。
ナツキ、どんな絵を描くんだろう。そう言えば前に見せてって言ったら、「内緒だ」って言って見せてくれなかったなぁ。
「次の週末には行ってみっから」
「そこなら私も一緒に行けっかも」
お嬢はイノマタ家別邸に行くのを少しセーブしていた。今日もちょっと別邸へ寄っただけで、本宅で午後いっぱい過ごしてきている。あまり別邸に入り浸っていると、両親から別邸に行くなら本宅へも来いと催促されるからだ。
「カツヤさんもナツキも元気『でだ』?」
「元気は元気だけど、リウの顔見たがってだよ」
『でだ』というのは『でいた』という感じの表現。『元気でだ?』で『元気でいた?』という意味。
あのお屋敷は変化が少ないから、退屈なのもあって私の来訪を待っているのかもしれない。
コンコン! 「お姉さまっ!」
ノックの直後にドアが開いてエミちゃんが勢いよく入ってきた。
「ちょっ! 返事も待たないで入ってくるなっていっつも言ってぺっちゃ!」
お嬢が焦ってエミちゃんに抗議する。エミちゃんはどこ吹く風で、私に抱きついてきた。
エミちゃんは思い出したように突撃してくるから、ちょっと困る。眼鏡を外してるときとか突撃されたらヤバいと思うし……。まだそういうことはないけど。
「うん、エミちゃん。苦しいから離して……」
「あっ、ごめんなさい」
エミちゃんは遠慮なくギューっとしがみついてくるので、ちょっと息苦しい。苦情を言うと、慌てて離してくれた。
どうやらお嬢に対抗意識があって、わざと私にくっついてくるみたいなんだけど、激しすぎて困ってしまう。
そう言えばこの前、食堂の通いの「お姉さま」から久しぶりに『ちょすもっこ』にされてたら、エミちゃんが怒って「お姉さま」から引剥してくれたっけ……。あの日は「お姉さま」の娘さんの命日だったって後から聞かされたけど。
なんか、女子にばっかりモテてる気がするのは気のせいかしら。
私は深い溜息を吐いて、お嬢とエミちゃんの言い合いを眺めたのだった。