父とイノマタ家別邸
イノマタ家に着いた。
私が来ると知っていたのでナツキが出迎えてくれたけれど、見知らぬ人──叔父にそっくりとはいえ、父とは初対面──に驚いて固まってしまった。
「初めまして。リウの父のソウです」
「イノマタカツヤ。ハルの兄です」
父さんがそう挨拶すると、ナツキのそばにいたカツヤさんも自己紹介をした。
ハルというのは私の祖母の名前だ。「晴」と書いてハル。目の色が水色なのを見て、曾祖母が名付けたという。曽祖父や姑などは、その目の色のことで祖母を自分の血族と認めなかったから。
「こちらは孫です」
「……ナツキです」
「初めまして」
ナツキが恐る恐る自己紹介すると、父さんがナツキに目線を合わせた。
「大丈夫だー、ナツキ。俺の兄ちゃんだから」
叔父は気楽にそう言うけれど、ナツキは人見知りだからなぁ……。父さんに慣れるまで、少し時間がかかるかもしれない。
「これ、お土産、母お手製のジャムです」
祖母のお手製ジャム大瓶3本がカツヤさんに渡される。カツヤさんは目を見開いて、それから嬉しそうに目を細めて笑った。
祖母からお土産がくるってことは、祖母とカツヤさんの間にはわだかまりはないのだろう。父さんもカツヤさんへの悪感情はないようだし、私はホッとした。
☆ ☆ ☆
「これ、小さい頃のハル」
「いやコレは……」
いつか見せてもらったカツヤさんが描いた祖母の肖像。鉛筆で描かれたそれを見て、父さんは目を丸くした。
「リウにそっくりだべ?」
叔父が父さんの反応を面白がっている。
今は夕飯の後、ゆっくりお茶を飲んでいるところだ。
ナツキも父さんに慣れてきたようで、フードをはずして青い目をさらしている。
「これが今の母です」
父さんは、村で一番絵の上手い人に描いてもらったという祖母の絵を鞄から出してくる。こちらは色鉛筆か何かで着色されていて、水色の目もしっかり描かれていた。
「あ、祖母ちゃんだー」
「ホントだ。久しぶりに見たなや」
懐かしい顔に叔父と私が反応する。
カツヤさんは「歳とったなぁ」と言いながら、じっくりとその絵を眺めていた。
「本当に水色なんだ……」
ナツキがポツリと呟いた。ナツキにとって目の色が黒じゃない人間は、自分のほかは今まで私しかいなかったから感慨深いものがあるのだろう。
「んだ。ハルの目はこんな色だった」
懐かしそうなカツヤさん。こんな絵じゃなくて実際に会えたらいいのだけど、祖母が谷を出るのは大変だろう。カツヤさんも地域の有力者として長いことこの土地から離れられないんだろうし……。
難しいなぁ。
「せっかくジャムをいただいたので」
カトウさんがそう言って、お手製のクラッカーとジャムを小分けにした小皿を持ってきた。
好きにジャムを乗せて食べようと言うのだろう。
リンゴ、洋梨、ブドウの3種類を一通り食べて満足したのか、カツヤさんはお酒の用意をカトウさんに頼み、父さんには「泊まっていきなさい」と言った。
流れで叔父と私も泊まることになり、大人たちはお酒を楽しみ、ナツキと私はクラッカーとジャムの残りを平らげた。
「ナツキ、父さんに慣れた?」
「うん、まぁ……」
なんだか歯切れが悪い。どうしたのかな?
「なんか、ときどき睨まれるから怖い」
小さくナツキが呟いたけど、私には聞き取れなかった。




