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せずね もしくは しずね

6月末の定期試験が近づいた。

なんとか学費免除を勝ち取りたい私は必死だ。なにせ5位以内に入らないと、学費は免除されない。

なのに。



 ☆ ☆ ☆



「ねぇ~、お茶でも飲みましょ」

「あとで」

「そんなに勉強ばかりしなくても、リウは成績優秀じゃないの」

「……」

「お話、しましょうよ~」


お嬢が鬱陶しい。

私が勉強していると、もっと自分にかまえとばかりにちょっかいをかけてくる。

この人は、私が学費免除を勝ち取るために必死だって、本当に分かってるんだろうか……。


「はいはい」


私は軽く返事をする。ノートと教科書から目を上げない。

ただでさえ屋根裏組の仕事で忙しく、学年でギリギリ5位に入ってる感じなのに、余裕なんてあるわけ無い。

それなのに、お嬢は簡単に余裕だろうと言うのだ。そして、お茶を飲みながら話をしようと誘ってくる。

お嬢が喋りたい、というか聞きたいのは、私が生まれ育った谷のことや家族のこと。やはり、遠くの土地の話というのは珍しいのだろう。


「お茶っこ、いれてけっから~」


だんだん業を煮やしてきたのか、お嬢が訛り始める。

普段はお上品さを意識して訛らないのだが、感情がたかぶってくると訛ってくるのだ。


「あーとーでー」


今日はあと少し進めておきたい。それが終わったら、休憩してお茶をするのもいいだろう。

そう思って答えたのだが。


「んもう! あとで『ばり』で、さっぱ終わんねんでねーの!」


『ばり』というのは『ばかり』が訛って省略されているのだと考えている。

お嬢のしつこさに、うんざりする。この人は私の苦労をなんだと思ってるんだ。


「『せずね』! 勉強の邪魔っこ『ばり』しねえでけらい!」

「昨日も一昨日も勉強してだもの、少しぐれえ()がべっちゃ!」

「はあ? オラに余裕なんてあるわげねえべ!? 学年5位に入んねぇど学費免除にならねのに! 今までだって屋根裏組の仕事と両立させでギリギリ5位だっつーのに! 家の負担こ無ぐすべぇとがんばってんのに、何(かだ)ってんの!? お嬢は学費免除なんか関係ねえべけども、オラにはガッコさ行ぐどぎの親との約束なんだ! お遊びでねえんだ! おだってんなよ!!!」


方言バリバリで(いか)ってしまった。

お嬢は肩を竦めて私の言葉を聞いてたけど、終わると部屋をスッと出て行った。


『せずね』というのは『うるさい』という意味の方言。『しずね』とも言う。元は『静ね』かなと思う。


あぁ、なんかもう。感情に任せて言ってしまったけど、もう少しやんわり言うこともできたんじゃないだろうか……。でも、私の本気を分かってもらわないと、あのお嬢はまた同じことを繰り返しそうな気もする。


そんな風に考える時間が惜しい……と頭を切り替えて勉強に専念しようとするものの、興奮した頭はなかなか鎮まってくれない。


コンコン


ノックの音が聞こえて、タキが顔を出す。


「お嬢、反省して、こっちの部屋に来てる。リウが必死だってこと、ちゃんと言い聞かせたし、分かってくれたみたいだよ。……あと、リウに『ごめん』って。今は顔を合わせるのが恥ずかしいから、頭を冷やすって言ってたし、大丈夫だよ~」

「……私もちょっと言い過ぎたかも。あとでお嬢に謝るね。ありがとう」

「うん。でも、たまには少し厳しいくらいに言わないと、お嬢はお嬢だからね」


お嬢にとっては、屋根裏組の仕事すら遊びの延長というか「興味本位でやってます」って感じが見え隠れする。どこか本気じゃないのだ。

タキも他のみんなも、お嬢以外の人間が屋根裏組にいるのは、寮費を免除してもらうためだ。少しでも家に負担をかけないように……とがんばっている。

そういう人間から見れば、お嬢の態度は不愉快なものと受け取られる。お嬢はこの学校の創設者一族の人間で、家だってお金に困っているわけじゃない。寮費免除も学費免除も、お嬢にしてみれば大した問題じゃないのだ。

それでもお嬢ががんばって仕事してるから、屋根裏組の面々はなんとかお嬢を受け入れている……というところ。

お嬢のそういう「お金の問題は大したことじゃない」って態度に、今回は同室にいる私が晒されたわけだけど、いつ何時(なんどき)、他の人にそういう態度を見せないとも限らない。そうしたらお嬢は屋根裏組から総スカンになるだろう。

根本的な考え方の違いってのを、お嬢に実感してもらわないとダメなんだろうな……と思う。


その後、お風呂の時間になる頃にはお嬢も落ち着いたようで、私たちはお互いに謝罪しあって仲直りしたのだった。



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