花見
4月中旬を過ぎると、この辺でも桜が咲く。
私が生まれ育った村はここより北だったからか、4月の終わり頃に咲いていた。
「種まきも終わったし、明日は花見すっつぉー!」
農場長が張り切っている。稲の種まきが終わって、ちょっと一息というところ。息抜きには最適だろう。それに明日は土曜日だ。
「食堂のストウさんには話しておぐがら、屋根裏組で『ごっつぉ』作ってけろなぁ」
『ごっつぉ』と言うほどのご馳走はできませんが、いなり寿司と太巻き、あげいも、鶏の唐揚げ、きんぴら、おでん……って感じでどうだろうか? 材料費は農場長ほか、先生方有志が出してくれるらしい。
七輪があればおでんの鍋も温められるし、まだ冷え込むことがあるからあったかい料理は良いと思う。敷物を敷いてても、座ってるとお尻が冷えちゃうしね。
☆ ☆ ☆
2年生になって、私は植物系の方へ進んだ。カイとアミも植物系だ。カイは実家が果樹園だから、アミはジャムなんかの食品加工を狙ってのことらしい。
タキは酪農を学びたいと言っていただけあって家畜系。アミにほんのり好意を寄せているノマは散々迷った挙句、家のことを考えて家畜系に決断した。
ミサキさん……お嬢は植物系。カツヤさんとこの温室や庭の植物の世話をしたいらしい。あの温室、珍しい植物が多かったもんね。
花見の席では、新しく学び始めた学科のことなんかが話題に出て、3年生の先輩方からのアドバイスも聞けた。
この学校を卒業すると、家畜系だと畜産なら飼育方法や食肉加工などの技術、酪農なら乳製品の加工なども学べるから、大きな畜産会社の食品部門なんかにも就職しやすい。それに専門課程まで進めば授精師の資格も取れて、高給取りも夢じゃないらしい。
植物系なら、農業会社の技術者として優遇されたり、食品加工で一旗揚げたり、薬草師の資格を取って地道に稼いだりできる。
私は薬草師になりたい一心でこの学校に入ったから、そういう道もあるんだなって驚いた。……まぁ、私のような目の色が黒じゃない人間には、会社に雇われるとか無理だけど。
「お前ら、そういう話っこもいいけど、花っこも見でやれ~。せっかくの花見なんだがら」
農場長がリンゴのジュースを注いで歩きながら言う。
気がついたら、先生方は七輪を増やしていて、密かに焼き肉をしていた。
「あーっ! 先生、私たちにも肉―!!」
それを見つけた肉食系なタキが大騒ぎだ。
「ジンギスカン、食うか?」
「食う食うー」
羊肉ですか……。あれ? 学校の農場に、羊いたっけ? 確かに数匹はいた気がするけど……。
「毛糸の加工用の羊が少しいたんだけど、もう毛糸の方は繊維会社に全部技術を受け渡したから、羊さんはサヨナラーってことになったんだよ」
首を傾げてたら、コマツ先生が教えてくれた。
そっか、学校も流行り廃りじゃないけど、そんな風に少しずつ変化して進化するんだね。
なんてしみじみしてたら、鶏の若いオスをつぶしたとかで串刺しを命じられ、あれよあれよと言う間に焼き鳥が始まった。
何でもありか!
食べて騒いで、楽しい時間が過ぎていった土曜日だった。