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たんぶぢ

3月の終わりには屋根裏組の新入生も入って、自分たちもとうとう先輩になった。


「バッケって何ですかー!?」

「『フキノトウ』だー。山の上の方ならまだ『ほげだ』ばっかりだべがら」

「山さ行ぐぞー」

「え? 『ほげだ』って……?」

「『ほげる』は『生える』って意味だ」


そんな会話が聞こえる。

1年前のカイを彷彿とさせるような新入生がいて、なんだか懐かしい気がした。



そうそう、結局ミサキさんの呼び名が決まらなくて、そのうち、なんだか「お嬢」という呼び方で定着してしまった。もちろん、本当にお嬢様だった彼女は、屋根裏組の仕事もおぼつかないところがあり、「これだからお嬢様は……」という気持ちから「お嬢……」とため息をつく人が多く、そのまま呼び名となったのだった。


ちなみに2年生の屋根裏組の最初の仕事は『たんぶぢ』だった。もしくは『たんぶづ』と訛る。『田打ち』とか『田起こし』といえば分かるだろうか。もちろん2年生の屋根裏組だけでは足りず、3年生や専門課程の先輩方、馬さん・牛さんのお手伝いもあるのだが。

田んぼの土を掘り返し、細かく砕きながら肥料などを混ぜ、水を入れてしろかきをするのだ。

あと、稲の種まきの準備として、種もみを水につけておいたり、箱と呼ばれる苗床に土を均等に入れておいたり、などの作業もあった。

苗床になる箱へ入れる土は細かい方が良いので、ふるいにかけていく。大きい塊は砕いたりする。種まき後にかぶせる土も必要になるので、土は多めに用意しなければならない。

様々な作業をこなすのは結構な肉体労働だ。故郷の谷だと、山の神様から機械を使わせてもらって楽をしたりもできるが、電気がないこの世の中ではそういうわけにもいかない。バッテリーなんてものも存在しないし。すべてを人の手で行うのは大変だった。

チネツハツデンとかいうもののお陰で楽してた山の神の郷はすごかったんだなーとか、筋肉痛の痛みにしみじみ思う。


寮の大浴場でのんびりするのが最近の癒やしだ。

体の疲れもほどけていく気がする。


「リウせんぱーい!」


更衣室で抱きついてきた後輩はエミちゃん。

なんでか私に懐いている。あまり近寄られると、目の色がバレそうで困るのだが……。


「まーたアンタはっ!」


アミやタキ、それにお嬢がエミちゃんを引き剥がしにかかる。


「リウは私のっ!」

「なっ!? お嬢のものじゃないでしょ!」

「リウ先輩は私の癒やしです!」

「はいはい、リウは誰のものでもないからね。離れた離れた」


最終的にタキが割って入って、ヒートアップしていた3人を落ち着かせる。

なんだろう……。最近、モテモテな気がする、女子限定で。

食堂の通いのおばちゃんなんて、1年生が入ったのに、まだ私にくっついてくる。……あれか、胸が育ってないのが敗因か……泣ける。


「はーい。戯れてないで、風呂掃除しちゃうよー」


3年生の先輩に言われて、みんな慌てて動き出す。

はー……。私のリラックスタイムがどんどん削られていきそうな予感。

今年1年、どんな事になってしまうんだろう……不安だ。



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