【閑話】鵜浦修の言い分1
リウの叔父ウノウラシュウの視点です。
方言が多すぎると説明が多くなりすぎるので、方言バリバリの叔父ですが、標準語になっております。
内容は、少し下品かもしれません……。
俺は今、めんこい姪っ子から事情聴取を受けている。
なんでも、現在の男子寮では、俺は「伝説の男」と化していて、かなりの有名人らしく、俺の姪っ子である理宇まで有名になっているらしい。
……それはマズい。
理宇には目立ってはいけない理由がある。目の色が黒くないのだ。
俺の母親は目の色が空色だった。そのために、学校の創設者一族である猪股という名家に生まれたのに、その家にいられなくなった。もちろん俺の母親を産んだ祖母もずいぶんと責められたのだという。それで、俺が生まれ育った北のノコギリ谷に2人で逃げてきたと聞いている。
俺のせいで俺の姪っ子がー! というか、俺が有名になったのは半分以上、小松のせいだ。その小松は今、理宇の副担任をしている。
「それで? なんでお風呂の更衣室を水浸しにしたの?」
理宇の厳しい声が俺を追求する。
☆ ☆ ☆
小松と出会ったのは、屋根裏組の顔合わせの時だ。あんまりキレイな顔だから、最初、女かと思ったら男だった。
俺と小松は寮では同じ部屋になった。
どうやら小松は薬草とか香草が好きすぎて、それでこの学校に入ったらしい。俺は薬草師になりたかったから、四六時中一緒にいることになる小松から薬草の話が聞けるのはラッキーだなと思った。
ところが、だ。
「これはボクが育てた薄荷の薬液なんだけど、薬効が強くなってるはずなんだ。これを撒けばダニも寄ってこなくなるよ」
今では方言バリバリのアイツも、出会った頃は気取った喋り方だったな……と、どうでもいいことを思い出す。
「へぇ、ダニがねぇ……」
霧吹きに入ったそれを布団や作業着などに散布して見せた小松は、俺にも「どうぞ」と言って霧吹きを差し出してきた。
そのとき、小松は何かに躓いてコケた。そして、薬液が入った霧吹きの瓶の中身をぶち撒けた。俺の体に……。
考えてみて欲しい。薄荷と言えばスースーするアレだ。その薬効成分を強めた(たぶんどうにかして濃縮したんだろう)それを服の上からたっぷりかけられてしまったのだ。当然、ビリビリと痛いくらいの刺激が俺を苛む。薬液が染みこんだ服を脱いでみたが、体に付着した薬液によって、空気ですら刺すような刺激が……。ヤバい。体のあちこちが敏感になってしまっている。
その上、近くに置いていた着替えが入った風呂敷包み(まだ荷解きしていなかった)にまで薬液がかかっていて、着替えがダメになってしまっている。床にも布団にも……。あちこちに飛んだ薬液を拭き取ろうとドタバタしていたら、なんと入浴時間がきてしまった。空気に触れるだけでも刺激になる状態で、みんなの前で全裸になるとか……!! しかし、体に付着した薬液を洗い流さないことには、もうどうにもならない。
それでサラシを巻いての入浴となったわけだが、その話に尾ヒレがついたようだ。
いや、しかし、面白がった小松がサラシを剥ぎ取ろうとするから、それを阻止しようと逃げまわって更衣室を水浸しにしてしまったかもしれない。それどころじゃなかったから、よく覚えてないが……。
そう言えば、その後から、寮監の先生が風呂場に張り付くようになったんだった……。
スマン、後輩たちよ。
☆ ☆ ☆
「ふーん……。小松先生と、ね……。」
理宇は学校で小松に絡まれているという。「姪っ子ちゃん」と呼ばれて……。
ア・イ・ツーーーーー!!!
理宇の父である蒼兄ちゃんから、くれぐれも理宇を守ってくれと頼まれてるのに、小松のヤローめ!
守ってくれって言うのは、学校関係の相談にのってやってくれというのもあるが、変な虫がつかないようにって意味も含まれててだな! お前のせいで蒼兄ちゃんがお怒りになったらどうすんだよ!! 蒼兄ちゃんは怒ると半端ねえんだぞ!!
俺が若気の至りでイタズラしたら、お仕置きとして唐辛子水を俺の下着に霧吹きで散布するという暴挙に出る人なんだぞ!!! デリケートな場所に唐辛子水の刺激は悶絶モノだった。アレは思い出しただけでも涙がにじむ。知らずに身につけて大変な目に遭った。蒼兄ちゃんは大声で怒鳴るとかない分、本っ当に、怒らせたら大変なんだぞー!!
あぁ、想像しただけでオソロシイ……。
……ちなみに、唐辛子より薄荷の方が、まだ体は楽だった、というのは小松には内緒にしておこう。




