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つきこんにゃく

その日の夕飯は、山菜の炒め物、『塩引き』、豚汁、白飯、デザート代わりのリンゴだった。

『塩引き』というのは『塩引き鮭』の略で、けっこうしょっぱいから、ご飯がすすむ。


「なあなあ、前から思ってたんだけど、この微妙な太さのこんにゃくって……」


カイが炒め物に入っていたこんにゃくを箸でつまんで見せている。


「あ? 『つきこん』か?」


ノマが何が聞きたいんだ? という風に首を傾げる。

『つきこん』とは『つきこんにゃく』の略で、ところてん突きで突いたくらいの太さ、つまりところてんと同じ太さのこんにゃくのことだ。


「『つきこん』って言うのか! 糸こんにゃくとも違う太さだよなー」

「カイの家の方にはないの?」

「うん、見たことない」


アミが不思議そうに問うと、カイは当たり前というように答える。


「えー? 『つきこんにゃく』ってどこでもあるんだと思ってた!」


タキも驚いている。


「この辺だと、炒め物に使ったり、お盆に食べる『サンコのつゆ』にも入れたりすっから、普通だと思ってた」


ノマもビックリしている。


「んだよね~」


私もちょっと驚いた。

『つきこんにゃく』って、けっこう地域差があるんだなぁ……。


「屋根裏組にいると、面白い話が聞けるのねぇ」


ミサキさんが話に入ってきた。彼女は2日前から屋根裏組に参加している。

ちなみにタキもミサキって名前だから、どう呼び分けるかが現在の屋根裏組の課題となっている。2文字にこだわりたいカイとアミ、分かればどうでもいいじゃんというノマとタキ。私は中立を貫いている。

カイが「イノマタ」を略して「イノ」はどうかと言ったけど、ミサキさんが難色を示した。……うん、そうだよねぇ。「イノマタ」って「猪股」って書くから、「イノ」だと「猪」だもんね。女の子としては避けたいよね。


夕飯を食べ終え、厨房の片付けや食堂の掃除を済ませて、寮の部屋へ戻る。

お風呂の時間まで少しのんびりしようと、着替えやタオルなどの準備を済ませて寝床に転がる。

私と同室になったミサキさんは、慣れない仕事で疲れきっているようだ。部屋に入った途端に自分の寝床に倒れこんでいた。

忘れてたけど、ミサキさんってお嬢様だったから、私と知り合う前まで洗い物もお料理もしたことがないって人だった。

それなのに、これからお風呂に入ったら、最後に屋根裏組のみんなで大浴場の掃除をして片付けないといけない。ミサキさんの体力保つかなぁ……。まぁ、春休みに入ったし、授業がないのがせめてもの救いかも。

そんなことをつらつらと考えるでもなく考えてたら、少しうとうとしていたようで。


「お風呂に行こう」


アミとタキが迎えに来たので、ミサキさんを起こしてお風呂へ急いだ。


明日の午前中は、田んぼの土手でヨモギを摘んでくるのがお仕事だ。食堂のおばちゃんが草餅を作るって張り切っているから。いや、餅つきをするわけだから、草餅だけでは済まないのだけど。つまり午後からは餅つきがお仕事になるわけである。


「草餅はきなこと砂糖をまぶすでしょ。あと納豆とエビとあんことおつゆっておばちゃんが言ってた」


タキが湯船に浸かりながら、指折り数えて明日の予定を確認する。

あぁ、やっぱりそのくらいの種類を作るのね。

食堂のおばちゃんは、長期休業とかで人が少なくならないと食堂で餅をつかない。あと人が最も少なくなりそうな日は餃子だ。長年のおばちゃんの勘で「その日」を割り出し、メニューを決めているのだ。

お餅は好きだから、ちょっと大変だけどがんばろう。でも、また農場長が「ふすべ餅ー!」とか「生姜餅ー!」って騒ぎそうだなぁ。農場長用に生姜餅を少しだけ、おばちゃんに頼んでみようか。ふすべ餅よりは作るのが楽だと思うし。


そんなことをボーッと考えていたら、思いの外近くにミサキさんが接近していた。

慌てて目を細める。目の色を誤魔化すためだ。湯気でかすんでよく見えないとは思うんだけど。


「ヨモギ摘みって初めて! 明日はよろしく教えてね」


屈託なく笑いながらミサキさんが言う。大丈夫、目の色は気が付かなかったようだ。


「明日は天気が良いといいねぇ」


しばしの間、のんびりと湯船を堪能する。

明日も、仕事をがんばろう。



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