カイです(鵜浦理宇という人物について)
主人公とは別視点です。
植物農業学校に入学して、一番困ったのは方言だ。
食堂のおばちゃんが言ってることが聞き取れないし分からない。
「ゴミなげで来て」
は? ゴミを投げ飛ばすのか? と思った。『なげる』とは『捨てる』という意味だったが。
万事が万事そんな感じで、「米うるかす(米を水につける)」「水まける(水をこぼすとかぶちまける)」「風呂うめる(熱い風呂に水を入れる)」なんて、どんどん知らない方言が出てくる。
同じクラスで、屋根裏組で一緒の野間と理宇がいなければ、オレは暮らしていけなかったかもしれない。
そうそう、最初に屋根裏組で集まって自己紹介したとき、網、瀧、野間、甲斐ときて、理宇だけ鵜浦で4文字。どうせなら2文字で揃えようなんて話になって、理宇は苗字じゃなくて名前で呼ぶことになった。
鵜浦だから略して「ウノ」って呼ぶって話もあったんだけど、この学校の卒業生でもある理宇の叔父さんが在校時に「ウノ」って呼ばれてて、先生方にも寮監さんにも知られてる有名人だったために、理宇を「ウノ」って呼ぶのはやめようって決まった。
いやホント、ウノさんは男子寮では伝説の人だったからな!
風呂に入るのに大浴場は恥ずかしくて嫌だって駄々こねて、最終的にサラシを巻いて大浴場に入ったそうで。風呂からあがったとき、そのサラシをとるのにも散々恥ずかしがって、濡れたままダラダラお湯を垂れ流しで更衣室をビチャビチャにしてしまい、それ以来、寮監さんとか生徒指導の先生とか、誰か彼か大人が更衣室に張り付くようになったんだって。
だから寮監のイワブチ先生が更衣室で「恥ずかしがるな―! お前らの成長をつぶさに見せろー」とか言うようになったんだな、きっと。
他にも、校舎の中を一輪車に小松先生を乗せてウノさんが疾走したとか、腹減ったからって農場の畑に夜中に入り込んで作物盗んで学生証を落としてくるとか、まぁ、いろいろやらかしてる。
だから、理宇が入学してきたとき、男子寮の方では「ウノさんの姪っ子ってどんなやつだ!?」って大騒ぎだったけど、理宇は恥ずかしがり屋で、顔を俯かせてることが多くて。なるべく目立たないようにしてるみたいだった。
オレが方言のことで助けられたとき、お礼を言って顔を覗き込もうとしたらサッと下を向いて目をそらされたり、あまり人の近くに寄らないように気をつけてるみたいで、そっと離れたところからみんなの様子をうかがってたり、他人から一歩引いて関わってる感じがした。
でも、俺は気づいてしまったんだ。
理宇は自分の目のことを気にしてるんだって。
ふとした時に、理宇の目の色が不思議だなって思って。気をつけて観察してたら、目の色がよくある黒とか焦げ茶じゃないって分かった。理宇が隠したいものはコレかって思った。
野間に聞いたら、野間も気づいてたみたいで、網も瀧も分かってた。
それから、理宇がいないときにこっそり話し合って、屋根裏組みんなで理宇をガードしようって決めた。
それなのに。
理宇は猪俣美沙希に目をつけられた。
頻繁に猪俣家へお邪魔してる。
屋根裏組は、みんなでヤキモキしている。
理宇は、大丈夫なんだろうか?




