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冬休み

定期試験はなんとか5位に引っ掛かった。無事に学費免除を獲得して、ホッとしたところで冬休み。

ちなみに、冬至には『かぼちゃばっと』がデザートとして提供された。

冬休み、年末年始はさすがに寮も閉鎖になるらしく、農場の生き物の世話は通いで来られる先生方や生徒たちで持ちまわるのが通例とのこと。

私は帰省するにも遠すぎる……というより、時間がかかりすぎる不便な山奥だし、冬は雪道で余計に時間がかかれば旅費だってバカにならない。学費免許を勝ち取って、屋根裏組で仕事までしてる自分に、そんなに余裕はないのだ。そんなわけで、私は村に帰るのを断念した。なんなら卒業まで帰らない勢いだ。

夏休みの時のように、また叔父のところに行こうかと算段していたら、ミサキさんからお誘いが。


「帰省されないのでしたら、お祖父様のお屋敷に行っていただけませんか?」


なんでも、ミサキさんがカツヤさんのお屋敷に出入りするのをミサキさんのご両親はよく思っていないらしい。今年は私を連れて行くためにだいぶ入り浸ってしまったので、ご両親のご機嫌取りのために年末年始は本宅で過ごさなければならないそうだ。

お屋敷の使用人の人たちにも年末年始のお休みをあげるので、そうするとカツヤさんとナツキさんの2人になってしまうし、毎年さみしい年末年始になってしまうのだという。

さすがに古参の使用人で料理担当のおばちゃんは、娘さん夫婦も遠くに住んでいて帰省する家もないから、お屋敷に残ると言っているみたいだけど。

私はどうしようかと迷う。叔父のところに行くのがすじのような気もするし、でもナツキさんとゆっくり話す機会ができるかもしれないし……。


「ご迷惑じゃないかなぁ?」

「祖父に言ったら、歓迎するって言ってましたよ」

「ん~、カツヤさんとナツキさんのお邪魔では……」

「ナツキには『絶対来て欲しい』って言われました。ナツキがそんなこと言うなんて、今までなかったので、祖父も驚いていて。是非来ていただきたいんです」

「……叔父さんと相談してみるから。返事はそれからで良い?」

「もちろん」


叔父に相談があると手紙で連絡すると、次の週末には寮まで来てくれた。『青い目』の話をするには、手紙では不安だったから、すごく助かった。

他人に聞かれてはマズいナツキさんの『青い目』の話をするために、人気のない場所に移動した。それからナツキさんの話と、年末年始の予定を相談する。


「そのナツキさんって、苗字なに?」

「イノマタさんって言って、この学校の創設者の一族らしいよ」

「……」


『イノマタ』って苗字を聞いて、叔父はなんとも複雑な顔になった。そしてしばらく何か考えこんでいたと思ったら、突然とんでもないことを言い出した。


「俺もお邪魔したらダメだべか?」

「へっ!?」

「んだって、そのお屋敷、男だけなんだべ?」

「いや、料理人のおばちゃんもいるし、大丈夫!」

「そんでも、姪っ子(めっこ)がお世話になってるのに、顔を出さないってのも……なぁ」


そんなこんなで、ミサキさんに頼んでカツヤさんに都合を聞いてもらって、なんだか叔父がお邪魔する件についてはカツヤさんが大変乗り気で快諾していただけた。

寮が閉鎖になる29日当日は叔父のところで過ごし、30日からは叔父も仕事が休みになるのでイノマタ家へお邪魔する。年始はカツヤさんに挨拶にくる人が2日から多くなるというので、2日の朝に叔父のところへ戻るという予定になった。



 ☆ ☆ ☆



30日、昼過ぎにイノマタ家へお邪魔すると、その日は餅つきをすることになった。

蒸かした餅米を杵と臼でついて餅にする。

鏡餅用とのし餅用、それから今夜はつきたての餅を食べることになったので、あんこ餅、納豆餅、エビ餅、じゅうね餅、おつゆ餅を作る。

『じゅうね』というのはゴマの一種なのかな……。『エゴマ』と呼ばれるものらしい。いつも『じゅうね』って言ってたから、他の呼び名はよく分からないし実感が無い。

『じゅうね』を炒ってすり潰して醤油と砂糖で味付けして餅にからめたのが『じゅうね餅』。

餅をつくのは男性陣、ついた餅を鏡餅用に丸めたりなんだりするのは料理人のおばちゃんと私だ。

それから『みずの木』の大きな枝が用意されていたので、その枝々に小さい餅をつけていく。枝の根本の方には餅をねじりつけた。これは米がなっている稲をあらわすとかで、小さい餅をたくさんつけた方が豊作になると言われている。とりあえず餅をつけるのに近くの柱にくくっているけど、仕上げに色とりどりのモナカの皮みたいなものでできた飾りを糸で飾り付けたら、神棚の近くに飾るのだ。

夜はつきたてのお餅を堪能する。


「『なます』も食べると、消化に良いがら」


カツヤさんがそう言って大根おろしをすすめてくれた。

そのうちお酒が入ったカツヤさんと叔父さんは2人で話し込んで盛り上がってきて、私とナツキさんは部屋の隅に置かれていた小さなテーブルでお茶を飲みながら話をしていた。


「お前の目、灰色だからあんまり違和感ないよな。パッと見には分がんないし」

「よく見られたら、変わった色だってバレますけどね」

「あの叔父さんってのは、お前の目のこと知ってんだよな?」

「はい。父さんと叔父さんは兄弟だけど歳が離れてて、私が小さい頃は叔父さんも一緒に暮らしてましたし」

「じゃあ、俺の目を見ても、変だって言わないんだろうな」

「祖母ちゃんが空色の目ですからね。叔父さんにとっては私の祖母ちゃんは『お母さん』なわけですし」

「……ところで、敬語やめてくんない?」


そう言えば、つい敬語で喋ってたなぁ。


「名前も呼び捨てで良いがら」

「……努力しま……努力する」


また敬語になりかけて、言い直す。

ふと叔父たちの方を見たら、なんだか2人で泣いている。……何があったの?


「おんつぁん、これがらもリウのごど、お願いします~」

「分がった。(まが)せでおげ。お()もまた来んだぞ」

「はい~」


いつからカツヤさんが『おんつぁん(おじさん)』と呼ばれるようになったのやら。2人はなんだか分からないけどおいおい泣いている。


ありゃ(あれは)、もうわがらね(だめだ)な」

「んだね」


叔父とカツヤさんは、泣き疲れたのかそのまま眠ってしまった。寝床まで運ぼうかと思ったけど、私とナツキでは無理で、せめて……とばかりにソファに横たえて毛布をかけ、ひと仕事終えた私とナツキは「また明日」と言ってそれぞれの部屋に入ったのだった。



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