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かぼちゃばっと

あの青い目を見ちゃった事件の次の週、またイノマタ家へお邪魔した。

いつものようにミサキさんとお料理を習っていると、なぜか厨房の隅っこにナツキさんもいる。

私たちからつかず離れずって感じで、ミサキさんとガールズトークをしているときも、試験に向けて勉強の教え合いっこしているときも、なぜか同じ部屋の中にナツキさんがいるのだ。

ガールズトークとか、勉強の教え合いとか、ナツキさんにはつまらないと思うんだけど。

……うーん、ナツキさん、私と話がしたいのかな? ナツキさんにとっては人生初の黒目じゃない仲間だろうし。確かに私もナツキさんと話をしたい気がする。でも、ミサキさんがいるところでは、ちょっと難しいかなぁ。ミサキさんには私の秘密は言いたくないし。

そう思ってたら、ミサキさんがお茶の準備で席を外したすきに、ちょっとだけナツキさんと2人きりになれて、話ができた。


「もう一回、お前の目が見たい」

「……少しだけなら」


眼鏡をはずして、ナツキさんに目の色を見せる。


「夢じゃなかったんだ。……俺、目の色が黒じゃないの、初めて見た。ずっと俺だけが変なんだって思ってた」

「うちの村は、そういう人が逃げこむとこなんで。だから、けっこういますよ、黒目黒髪じゃない人」

「そんなに多いのか?」

「うちの祖母ちゃんも空色の目ですし」

「そうか。お前の村、一回行ってみたいな……」


うん、いつか行けたらいいね。そこでなら、ナツキさんも目の色を気にしないで暮らせるよ、きっと。

ミサキさんが戻ってきて、ナツキさんとの会話はそれで終わった。


それから、イノマタ家への訪問は定期試験直前はお休みにしてもらった。

5位以内をキープしなくちゃならないし、がんばらないとね!



 ☆ ☆ ☆



試験が終わった翌日、私は朝、起きられなかった。

心配したアミとタキが部屋に押しかけてきて、それで目が覚めた。

慌てて眼鏡をかける。

ランプもついていない屋根裏部屋は薄暗いし、目の色がバレることはないだろうとは思うけれど、用心に越したことはない。


「早起きのリウが起きてこないから、心配で見に来ちゃったー!」

「……熱っぽそうだね」


タキが私の額に手をあてて体温を確かめる。冷たい手が気持ちいい。

どうやら風邪をひいたようだ。


「最近、忙しかったもんね」

「疲れがたまってたんだと思うよ。リウってがんばり屋だから」


あぁ、体調には気をつけてたのになぁ……。睡眠が足りていないのは確かにあるんだろう。

ここ数日だるいとは思っていたのだけど、寝て起きれば朝には動けたから、まだ大丈夫だと思ってた。


「ゲホッゴホッゴホッコン、コンコンコンコンコン……」


咳が出始めると止まらない。風邪をひくといつもこうだ。体力が落ちてくると咳が出るんだよね、私。


「……大丈夫?しんどそう」


アミが眉をひそめる。タキも心配そうな顔だ。

私の風邪は咳が続くから、傍で見てる人は切なくなってくるのだと祖母に言われたっけ。


「寝れば治ると思う。……大丈夫」


体力が回復すれば咳もおさまるはず。いつも、そうだったから。


「寮監さんとヌマクラ先生には言っておくから、ゆっくり休んでね」

「あとでご飯持ってきてあげる」

「……ありがと」


水で濡らした手ぬぐいを額にのせられ、気持いいなぁ……と横になったら少し眠ってしまった。

気がついたら、これから学校へ行く準備を済ませたアミとタキがおかゆをのせたお盆を持って来てくれていた。梅干しが小皿にそえられている。

おかゆが美味しい。ってことは体が弱ってるってことだね、うん。今日はおとなしく寝てよう。

水差しに水を入れてもらって、至れり尽くせりって感じだ。


「お昼にまた来るね~」

「ありがとう」


私は(とこ)の中から2人を見送って、またうとうとと眠った。


次に気づいたら昼の少し前らしく、寮監さんが私の様子を見に来てくれていた。

眼鏡をかけてなかったことにドキッとしたけど、部屋が薄暗かったから目の色には気が付かれなかったようだ。

寮監さんは食堂のおばちゃんと同い年で仲がいいらしい。

お昼は冬至に出そうかと思っているメニューの試作品を持ってきてくれるそうだ。試作品と言っても『かぼちゃばっと』で、昔ながらの料理なのだけど。

『はっとう』をお湯で茹でてザルにあげ、カボチャを潰したあんに絡めるだけ。同じように『あずきばっと』も作ることができる。

大人数の分を作るのに、昼の通いのおばちゃんたちと作り方の段取りを確認するらしい。


「風邪だらば、ビタミンを摂った方が良いがらねぇ」


そう言って、額の上のぬるくなった手ぬぐいを冷たい水で絞ってのせてくれた。

冬至にカボチャを食べると風邪ひかないって言うから、それで……かな。私はもう風邪ひいてるけど。

カボチャとかの緑黄色野菜には体の粘膜を強くするカロテンが多くて免疫を強化するって食物学で習ったなぁと熱でぼんやりした頭で考えて、冷たい手ぬぐいが気持よくて、また眠った。


「リウ、お昼ご飯だよー」

「少しは眠れた?」


気がつくと、タキとアミが『かぼちゃばっと』とうさぎりんごを持ってきてくれていた。


「うさぎりんごはノマとカイ作です」


フフッと笑ってアミがお盆を差し出した。うさぎりんごは2つあるから、片方がノマでもう一方がカイなのかな。男子は女子寮には入れないから、せめてうさぎりんごだけでもって気持ちがうれしい。

優しい甘さの『かぼちゃばっと』は弱った体にはちょうど良くて、するっと喉を通った。熱っぽい体には果物がうれしくて、美味しかった。


「あと、コマツ先生から」

「薬湯だよ」


薬湯は苦かったけど、体がぽかぽか温まって、私はまた眠った。


夜、熱が下がったようで体もだいぶ楽になったけど、ひゅっと冷たい空気を吸い込んでしまったときに咳き込んでしまって、まだ無理しないの! とアミに怒られた。夕飯も部屋に持ってきてもらった。

また薬湯をもらってぐっすり眠ったら、翌朝にはすっかり回復していた。咳も大丈夫そうだ。

いつもなら咳が続いて長引いたりするんだけど、今回はみんなのお陰で早く治ったと思う。


「リウ、もう大丈夫なの?」

「うん。みんな、ありがとう!」


笑顔でお礼を言ったら、みんなも安心したように笑ってくれた。

良い仲間に出会えたなって、しみじみ思った。



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