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雨の日

入学式も終わって、数日経った雨の日のこと。


「うー、キャッポリしたー!」

と教室に入ってきたのはノマ。

彼は背が高くてヒョロっとして、なんか草食動物な雰囲気があって、いつも男子がワラワラまとわり付いてる感じ。


「キャッポリって何のこと?」

まとわり付いてる男子の中の一人が不思議そうな顔をしている。


「え?水たまりとかでキャッポリしたことない???

靴の中まで水が入っちゃって、靴下がびしょびしょだよ~」

「何?水たまりにハマったの?」

「あぁそれ、俺んちの辺りではチャッポリって言う」

「俺んとこはキャッポリじゃなくてキャッパリ。ポじゃなくてパな」

「え?うちの方ではカッパ釣ったって言う」

「オラ方ではタコ釣っただな」

「タコって…」

「「お前んトコが一番ナゾだわ!!」」


男子たちの会話を聞きながら、『カッパ釣り』が『キャッパリ』になって、そこから『キャッポリ』や『チャッポリ』に派生したのかな~などとリウはぼんやり思った。

しかし『タコ釣った』はどこから来たのか、本当にナゾである。


今日は会話にツッコミをいれなくても大丈夫そうだ。

よしよし、目立ってない目立ってない。


…と思ったのに。


「ねぇ、替えの靴下持ってたりしない?」

油断してたら何故かノマから話しかけられた。


え?なんで???

どうして私?????


「リウは準備が良さそうだし、背が高いから足もデカイかと思って」

確かに私は女子の中では一番背が高いけど、ノマには到底敵わないのに。

「一応、新しい靴下はあるけど。私の足23.5cmだよ?」

「えっ!?27cmくらいあるかと思ってた」


……失礼な!!


怒りが湧いたものの

「バカの大足、マヌケの小足。で、私はマヌケなのよ~」

と流しておく。

「そっか。じゃ俺はバカの大足だな」

ノマはそう言って笑うと、窓から手を出してびしょ濡れの靴下をしぼった。

そして、窓辺の雑巾掛けの端っこに干した。


「で、リウの家の辺りではキャッポリは通じんの?」

席順は今のところ名簿順なのだが、背の高い者が前の席だと邪魔なので、ノマと私は後ろの方の席で隣同士になっている。

「あー、ばあちゃんがこの辺の出身だったから、キャッポリは知ってる。

 でもウチの村って色んな土地から人が入って来てたから、他の家は通じるかわかんない」

「そういう土地も珍しいよなぁ。けど、そのお陰でリウがカイの通訳してくれて助かるわー」

「おばちゃんの方言、キツイもんね~」

「うん。俺は普通に通じるから、カイになんて説明したらいいか逆に難しくてさ」

私は教科書を眺めるフリをして、ノマの目を見ないように(自分の目を覗きこまれないように)話をする。

カイはここからずーっと南の地方出身で、この辺の方言が全然通じない。

「あの人、『米うるかす』『水まかす』『ゴミなげる』からして通じなかったもんねぇ」

「『ゴミなげる』は『ゴミを捨てる』でいいんだけどな」

食堂のお手伝い初日に、おばちゃんから「米うるかしておいて」って言われた時のカイの表情(かお)を思い出す。

正解は米を水に浸けておけば良かったのだが、方言が通じないカイに伝わるわけもなく。

「お風呂に入って指がシワシワになって『うるけた~』なんて言わないのかなぁ?」

「それは『シワシワになった~』って言うんでないべか」

2人でクスッと笑う。


「あー、ノマとリウが仲良くしてるー!オレも混ぜて!!!」

噂をすれば影。カイが話に混じってきた。

「カイは『水まかす』って言葉、使えるようになった?」

ノマの椅子をカイが半分横取りして、2人で窮屈そうに座っている。

「バケツとか花瓶を倒したりして、水をぶちまけるって感じだろ?

 使えないけど意味はわかるようになったぞ」

なんだかちょっと自慢気だ。

「わかんない方言があっても、たぶんリウが教えてくれるだろうし、そこは心配してない」

「リウって割りと物知りだよな」

…え?なんか目立たないようにしてたつもりなのに、努力の甲斐が見られないような気がするのは何故~!?

ノマとカイが私を頼りにしてるっぽいのがすごく不安なんですけど~!!!


2人には悪いけど、これからでも遅くない。目立たないようにして、頼りにされないようにしなくちゃ…だわー。


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