収穫祭
10月の終わり、収穫祭が開催された。
収穫祭と言っても、ただ飲み食いして騒ぐだけ。
料理は広場に特設のかまどを作り、『らずもねぇ』くらいでっかい鍋に芋の子汁。それからバーベキュー。傷物のリンゴを絞ったジュース、ブドウのジュースもある。カボチャの煮物、きんぴらごぼう、いなり寿司、おにぎり、鶏の唐揚げ、根菜類の煮物にはゆでたまごが入っていて味がしみてそうな色になっている。
これでもか! ってくらい、たくさんの料理が並んでいる……ていうか、作ったよ屋根裏組も手伝って。
芋の子汁は材料を切って渡したら、手が空いた先輩方や先生方が喜々として作ってた。バーベキューも農場長を中心として焼きまくっている。
野菜も肉も卵も、全部学校の施設で作られたものだ。
「それでは、今年も自然の恵みに感謝して! カンパーイ!」
みんな、ジュースとか麦茶とかで乾杯だ。先生方も火の始末があるから、アルコールは収穫祭が終わるまで禁止らしい。
「芋の子汁、旨いなー」
「んだべ?」
カイが芋の子汁をすすって、しみじみ呟いている。大勢で外で食べる芋の子汁は最高だ。
なんとなく屋根裏組で同じクラスな3人はいつも一緒になってしまう。
「ねぇ、あなた、名前は?」
根菜類の煮物に入ってた味のしみた大根を堪能していたら、突然声をかけられた。
すっごくキレイな女子だ。肩口でそろえられた髪の毛はストレートでサラッサラ。色白ですべすべのお肌。神様の御業かと思うような目や鼻の絶妙なライン。
「えっ? あ、の……」
見覚えがない人に声をかけられて、戸惑うばかりの私。
……まぁ、自分の秘密がバレないように、あまり人と関わらないようにしていたからなぁ。同じクラスの人でも、名前も覚えてない人がけっこういるし。
「私はイノマタミサキ。で、あなたは?」
「ウノウラリウです……」
「そう。ウノウラさんね。突然だけど、今度うちの別邸に来ていただきたいの」
「は?」
ちょっと待って! 全然、意味がわからないんですけど!
「別邸と言ってもお祖父様の家なのだけど、そこに顔を出していただきたいの」
待て待て待て! 混乱して固まる私をよそに、どんどん話を進めていくミサキさん。
あの、なんか、私には拒否権がない感じなんですけど、その強引な感じってどうなんですか?
「そうね、今度の週末なんてどうかしら?」
日取りまで決められちゃったよ! ど、どどど、どうしたら良いの、コレ。
何も言えないでいると、話は決まったとばかりに「では土曜日に……」といって去っていくミサキさん。
え? え? え? 意味がわからないんですけど―!?
「えええ? 何、あの人……」
「この学校をつくった一族の人」
「へっ!?」
呆然とつぶやく私にノマの声が聞こえた。
学校の創設者一族って、この地域の有力者ってこと!?
なんで? そんな人が私に何の用なのよ~。
目立たないように生きてたはずだったのに、どこで目をつけられたの!?
「リウ、知り合いじゃないの?」
「全然! 向こうだって私の名前知らなかったし」
「何か、気になったんだべなぁ……」
気になったって、どこが!?
普通に地味に生きてただけなのに……。
「まぁまぁ、気にしないで唐揚でも食べな」
「そうそう。週末になったら分がるべがら、気にしねぇで! 俺が切ったゴボウで作ったきんぴら旨いよ」
「いや、そのゴボウ、太すぎるだろ! 歯の弱い年寄りなら噛めないレベル」
「若げぇんだし、噛みごたえあった方が良いべっちゃ」
カイとノマが料理を取り分けて、気を取り直そうとしてくれたけれど。
それからは何を食べても味がよく分からなくて、せっかくの収穫祭が台無しになってしまった。
いや、それは私だけで、他のみんなはすっごく楽しんで飲み食いしてましたけどね。
☆ ☆ ☆
約束の週末まで気をつけてみれば、ミサキさんは隣のクラスの人だった。
……仲の良い友人もいるけど、なんというか、みんな一歩引いているというか、一目置いている感じ?
凛とした佇まいで、精一杯生きてるっていうか、努力を惜しまない人っていう印象。
寮の食堂で見かけると、姿勢が良くて、食べてる姿もキレイっていうか。育ちがいいんだろうなぁ……と思う。
ただし強引美人だけど。
「姪っ子ちゃん、最近、イノマタさんに熱い視線を注いでるみたいだねぇ」
出た、コマツ先生。
「今週末、お屋敷に招待されただけですぅ」
ちょっと素っ気なく言ってやる。
「へぇ~。ウノはそのこと知ってるの?」
「え? 叔父には何も言ってませんが」
どうして叔父に言う必要が?
それに連絡するって言っても、連絡手段って手紙しかないし。わざわざ手紙にするのって、なんか億劫。
「ふーん。よかったらボクがウノに教えとこうか? この地域の有力者様のお宅に行くわけだし」
あぁ、確かに何か粗相があったときに、保護者っていうか大人の出番ってことはあるかもしれない。私の常識ってあの村の常識だから、普通の世間の人とは違うかもしれないし。知らずに粗相をしちゃう可能性だって考えられるわけだしね。
「……それなら、お願いします」
「任せといて~」
軽い先生の返事に、なんとなく一抹の不安を抱えつつ、週末を迎えることになったのだった。




