はったぎ
秋、そろそろ稲刈りか…という頃。
久しぶりに屋根裏組としての仕事がない日曜日。ノマに誘われて田んぼに来ていた。
他にアミもタキもカイもいる。つまりアレだ、1年生の屋根裏組全員だ。
持ち物は水筒と昼食のおにぎり、それと布袋に竹筒を括りつけた道具。
昨夜、ノマが「明日、田んぼさ『はったぎ』捕りに行ぐべ」と言い出したのだ。
案の定カイが「『はったぎ』って?」と聞くので、それはバッタのことで、今の時期に田んぼに行くならイナゴ捕りだろうと教えた。
街中の酒屋さんで、イナゴを「1kg当たり500円で引き取る」と書かれた張り紙が出たというのだ。もう少し時期が後になれば1kg700円とか値上がりするらしいけれど、その頃は屋根裏組の仕事が忙しいかもしれないし。まぁ、ちょっとしたお小遣い稼ぎである。
田んぼに着くと、あぜ道を歩きながらイナゴを捕る。近寄ると飛び出すので分かりやすい。
イナゴを捕まえたら、竹筒にイナゴの頭から入れてやれば、勝手にピョンと袋の中に入っていく。布袋の入り口が折れるように竹筒を垂らせば、イナゴは出て来られない。
たまにショウリョウバッタが捕れることがあるが、それは逃がしてやる。それから極稀に背中が赤っぽいイナゴが捕れる。本当に珍しいので、ちょっとラッキーと思ってしまう。
イナゴは稲の葉をかじっているので、静かにしてジーっと稲をよく観察すれば見つけられる。
本当は朝早くの気温が低い時間帯だと、もっとおとなしくて捕まえやすいらしいが、葉っぱの裏に隠れていることも多いから見つけにくいかもしれない。
5人全員で同じ田んぼにいるとイナゴが逃げてしまうので、ちょっとバラけてイナゴを捕った。
昼頃に広い農道に集合して昼ご飯を食べる。
袋の重さを比べてみたら、思いがけずタキが一番重かった。
「ノマが誘ったから、ノマが一番捕ってると思ってた」
カイがみんなの気持ちを代弁してくれた。
「あー、そんなに得意ってわげでもねえんだ。基礎学校の頃、炊事遠足の材料代をみんなで『はったぎ』捕りして稼いだから、今の時期になっと捕りたぐなるんだぁ」
「へぇ。炊事遠足って、どんなの作るの?」
「芋の子汁だ。材料は切って持ってって、あとは煮るだけ。みんなで食うのが旨くてさ」
「いいねぇ」
秋の「芋の子汁」は定番だ。
私も村の基礎学校の子たちと一緒に、秋の遠足で河原で作って食べたことがある。野外で大勢でワイワイ食べるのは最高だと思う。
ただ、カイだけは「芋の子汁」の魅力が分からないらしく、微妙な顔をしていた。
食べたことないと分からないだろうなぁ。
「そのうち食堂でも出てくると思うよ。時期だし」
「でも外で食べるのは、また別物よね」
「んだんだ」
昼ご飯の後、疲れたから帰ろうか……という話になって、酒屋さんに行った。
それぞれ量ってもらってお金を受け取る。1kg近く捕れたのはタキだけだった。
朝早くから捕ってたらもっと捕れたかもしれないけれど、まぁ、みんなで外で食べた昼ご飯も美味しかったし、遠足みたいで楽しかったし、いいかぁって笑いあった。
「来週は『ほんにょ』を立てる作業があるかもな~」
『ほんにょ』とは稲を干すための木の棒で、太い棒に細い横棒を括りつけて、そこに刈り取った稲をのせていく。あぜ道には去年『ほんにょ』を立てた穴が残っているところもある。
私も『ほんにょ』は見たことがなかったので、ノマの説明を聞く。
「リウでも知らないことってあるんだなぁ」
「うちの祖母ちゃん、うちの村に来るまで農作業ってあまりしたことなかったらしくて……」
まさか祖母が目の色のせいで屋敷の奥で隠されて育ったとも言えず、当たり障りのない答えを返す。
「午後は何するー?」
「オレは昼寝する」
「俺は課題を片付けっかな」
「あ、アタシも一緒に課題やる!」
「それなら私も混ぜて!」
「リウはどうする?」
「……私は家に手紙を書こうかなぁ。夏休みも帰ってないし、せっかく切手代も稼げたし」
家のみんな、目の色のことがバレてないか心配してるだろうなぁ。
「そっか、それもいいね。この辺の風景を書いた絵葉書でも買ったらいいんじゃない?」
そのアミの言葉で、なんとなくみんなで文房具屋さん兼本屋さんに行って、絵葉書を選んでから寮へ戻ったのだった。