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夏休みの終わり

「今夜は焼き餃子にすっから!」


その日の昼過ぎ、食堂のおばちゃんが、なんというか『死刑宣告』をした。


「えぇー!?」


焼き餃子とはアレだ、野菜のみじん切りと挽肉をこねて、小麦粉で作った皮に1つ1つ包んで焼いたやつ。

寮の食堂で食事するのは普通に学校がある日であれば約300人。

今は夏休みももうすぐ終わろうかって時期で、帰省してまだ戻ってない人も多いから120人くらいかな……?


「1食分は6コで」


……えっ!? それはつまり全部で720コは作るってことですね。


「今日の夕方戻ってくる人がいっから、多めで800コぐれぇがな?」


さらなる『死亡宣告』が……。屋根裏組も全員そろってないのに。通いのお姉さま方は、夏休みは午前中で帰ってしまうし。

今いる屋根裏組は全学年で8人。一人アタマ100コですか、そうですか。


「あと、キュウリもみ、お盆過ぎたけどサンコのおつゆ、それと白飯ね~」


『サンコのおつゆ』とはお盆のときに食べる醤油味の汁物で、細切りにした豆腐・こんにゃく・油揚げの3種類が入っている。いわゆる精進料理……なんだろうか? この辺の風習だと思う。

うちでもお盆に祖母が作ってくれたのを思い出す。

キュウリもみは酢の物ではなく、この辺だと薄切りにしたキュウリを塩もみして水分を絞ったものって感じだ。浅漬に近いかもしれない。


「キュウリもみとおつゆは2人ずつで担当して。餃子は4人で」


あぁ、一人アタマ200コになった……。

そうは言っても、始めなければ終わらない。

けど普段より総量が少ない分、なんとかなるのかもしれないし。

まずは野菜のみじん切りからだ。

キャベツ、ニラ、ネギなどをみじん切りにしていく。ニンニクや生姜はすりおろし。

小麦粉を練って餃子の皮を作り、乾燥しないように固く絞った濡れ布巾をかぶせておく。

農場からもらって熟成させてた豚肉は塊なので、ひき肉にする機械に入る大きさに切り分け、ひき肉にしていく。

そんな作業を分担してこなしていく。


「『たまな』は刻んだら塩しといて。水が出はったら絞ってな」


『たまな』はキャベツのことである。

キャベツはみじん切りにしたら塩を振ってしばらく置き、水分を出す。絞ってから大きめのボウル幾つかに分けて入れる。他の材料も分けて入れ、混ぜあわせる。

隠し味に味噌と蜂蜜を少し入れる。おばちゃん家ではタレ無しで餃子を食べるから、味噌を多めにするんだとか。

具材をよく混ぜたら、少しおいて味をなじませる。

それから皮に包んでいくわけだが、膨大な量にちょっとうんざりしてたりする。

しかしノマとかカイとか、不器用そうな男子がいなくてよかったのかも知れん。いたらいたで上手く包めないとか皮が破れたとか大騒ぎしそうだし。

キュウリもみとおつゆの準備が終わった人たちも加わって、みんなで黙々と包む作業をする。

ご飯はおばちゃんがヌカ釜で炊いてくれている。……ヌカと言っても米のもみ殻のことで、羽釜から煮立った湯気が出てきたら、ヌカの入り口を金属製の板で閉めて、ヌカの量を減らすだけ。でも120人分よりは多めに炊かないといけないから羽釜もけっこうな数で、それぞれの様子を見守るだけでも大変そうだけど。


夕飯の時間が近づいてきて、餃子を焼き始める。

でっかいフライパンを何個も出して、焼色がついたらお湯をさしてフタをして蒸し焼き。水分が少なくなったら香りつけにごま油を少し垂らして、水分を飛ばしてカリカリに仕上げる。

焼き上がった分から皿に盛りつけて、取りやすいようにカウンターに並べていく。ご飯や温めなおしたおつゆもだ。

キュウリもみは既に盛り付けが終わっていて、トレーの上に小鉢、その上にトレー、さらにその上に小鉢……という感じで重ねられている。一番上にはホコリよけのふきんが被せられていた。


「今日は餃子かー!食堂の餃子、うめぇよな」


家畜の世話をしてきたらしい2・3年生の男子御一同様がどやどやと入ってきた。

実は食堂の焼き餃子は長期休みの終わりごろに出る定番メニューらしく、先輩方はその味を知っているのだそうだ。

具材の分量とか隠し味は、おばちゃんの秘伝らしい。


「おばちゃん、餃子のおかわりないの?」

「今のところないよー!ご飯とおつゆはおかわりあっから我慢してけで」


夜、ほとんどの人が食事を終えた後、余っていたら食べてもいいことになっているので、そこまではおかずのおかわりは無しだ。漬け物や調味料は各テーブルに常備されてるので、漬け物丼とかソース丼とかで腹を満たす食べ盛りの男子も多い。


「ぜってー夜に来ないとな!」

「んだんだ」


食べ盛りの男子が残りの餃子に群がる様子が容易に目に浮かんだ。

作ってるときはいつ終わるか……と思うくらい大変だったけど、こんなに喜んでもらえるならいいかぁ~なんて思う。最初聞いたときは『死刑宣告』のように感じたけど。

ほとんどの人が食事を終え、あとは食器洗いと片付けだけになった頃、屋根裏組のみんなも夕飯にありついた。

先輩たちの言う通り、食堂の餃子は美味しかった。


「コレ食べると、休みも終わりだなぁーって思うのよね」


3年生の先輩がしみじみと呟いた。

明日にはカイが戻ってくる。明後日にはノマが。


もうすぐ夏休みが終わる。



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