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なます

「おばちゃーん!バッケとって来たよー」


朝食後から学校の裏山へ出かけて、昼前には5人で籠に1つずつフキノトウを採って食堂へ帰ってきた。


学校と寮の間にある食堂は、全寮制の学生たちはもちろん、学校の先生や職員も利用する。

用意するべき食事の量も大変なことになる。


私たちのように寮の屋根裏部屋に部屋をもらい、朝晩の食堂の手伝いやら風呂場の掃除やら学校の植物園の世話など、様々なことをして寮費を免除してもらう学生を「屋根裏組」という。


今年の新入生である私たちの屋根裏組は5人。

この学校がある街の隣村出身のノマ。

ずーっと南の方の出身のカイ。

北の方の出身のタキとアミ。

ただし、タキの方がアミより北の方に住んでいたらしい。

そして北のノコギリ谷出身の私、リウ。


2年生や3年生の屋根裏組は、今日は寮の大掃除が仕事だった。

明日が新入生の入寮式で、その5日後には入学式がある。

普通の新入生はこれからだけど、屋根裏組は既に校長先生やら寮長さんやら先生方と簡単な式を済ませている。

屋根裏組は春休みが終わる前から屋根裏組の仕事が始まっているのだ。


「あらあら、いっぺぇ採ってきたごど。

 そこの台さ置いでで。ありがとね~」

食堂のおばちゃんは激しくなまっている。

さすが地元民。


私はばあちゃんがこの辺の出身だから、なんとなく方言がわかるけど。

カイなんかは、わからない言葉が多いみたいだ。


「お昼作ってあっから、食べらしぇやぁ~」

「はーい」


昼ご飯のあとは食堂の食器洗いを手伝い、その後はちょっと休憩してから夕飯の下ごしらえのお手伝いとなった。


最初は大量の玉ねぎの皮むき。

次は、これまた大量のにんじんの皮むき。

男子は料理の経験が少ないらしく、皮むきにも四苦八苦していた。

おばちゃんも危なっかしいと思ったのか、野菜の切り込みは2・3年生に任せることになった。


どうやら天ぷらはバッケの他に、玉ねぎ・にんじん・沼エビのかき揚げ、サツマイモ、ちくわ、椎茸を予定しているらしい。


野菜の皮むきが終わると、おばちゃんから次の司令がきた。

「1年生は、なます作ってけらいね」

と大根が入った箱を渡される。


「なますって、大根だけで…?」

と頭に疑問符を並べている様子のタキ。


「天ぷらだから、なますがあった方がいいべ」

普通だろ?という顔のノマ。


「いやいや、普通にんじんとかも入れるんじゃないの?」

とアミは大根を手にとって思案顔。


カイもアミに同意してウンウン頷いている。


…あー、コレはあれだな。おばちゃんとノマの言う『なます』は『大根おろし』のことで、他のみんなは『せん切りなます』のことを言ってるんだな、たぶん。


「うちのばあちゃん、この辺の出身だから知ってるんだけど、この地方で『なます』って『大根おろし』のことでしょ?みんなが言うのは『せん切りなます』のことで…」


実は私の祖父母が結婚したばかりのとき、祖父ちゃんが近所からきゅうりをたくさんもらってきて、「これでなますを作れ」って言ったら、ばあちゃんがすごく変な顔をしてきゅうりをすりおろして出した…というのは定番の笑い話になっている。


ばあちゃんは『なます』といえば大根おろしのことだと思ってたから、きゅうりで『なます』って言われた時に「きゅうりをすりおろせばいいのか???」と考えて、そんなものどうやって食べるんだろうと思ったらしいのだ。


そんな話をすれば、みんなビックリした顔をしている。

ノマは『なます』と言えば大根おろしだと当然のように思ってたから『せん切りなます』というものにビックリし。

他の3人は大根おろしを『なます』というってことにビックリし…。


…あ、やばい。また目立っちゃった???目立たないようにって思ってたのに~ぃ。

ま、まあ、アレだ。眼鏡の奥の目をマジマジと見られなければ、きっと大丈夫、だよね?…たぶん。


この特別製の眼鏡、暗いところでは普通に透明のレンズだけど、明るいところではうっすら色付きになって、多少目の色は誤魔化せるんじゃないかなー?ってヤツだし。


前髪をもう少し伸ばし気味にして、なるべく普段から笑った顔にして目を細めて、目の色が分かりづらいように気をつけなきゃ…だわー。


あー、卒業までの3年間、なんとか目の色がバレませんように!!!

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