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夏休み前半

私は夏休み前半でお休みをもらった。

後半にはお盆があって、お休みをもらいたい人が殺到していたし、私の家は遠すぎる…というか山奥でけわしい道のりのため、どうしても日数がかかってしまうのだ。

曾祖母の体調が危なくなってきたとき、連絡をもらった叔父が急いだにも関わらず、ギリギリ間に合うかどうかってくらいだった。近くに住む叔母たちと違って、遠くの叔父には早めに知らせを出したのに。

だから最初から家に帰るのは諦めて、近くの街で薬草師見習いをしている叔父のところへ行くことにしていた。


叔父がお世話になっている薬草師さんのお店兼ご自宅は、1階がお店と作業や事務仕事をする場所で、2階が居住空間になっていた。

叔父はそのお店の近くにアパートを借りていて、私はそこに寝泊まりし、昼間はお店のお手伝いをさせてもらうことになっていた。


「ウノウラくんの姪っ子ちゃん、めんこいなや~」


叔父の師匠である薬草師さんはミウラさんと言って、40代に見えた。がっしりした体つきで、髪は角刈り。山に薬草を採りに行くこともあって、よく日に焼けていた。師匠の奥さんは師匠と同い年らしいのだが、可愛らしい雰囲気の人でずっと若く見えた。ストレートの艶やかな髪の毛を一括りに結っていて、キレイな布が結んであった。お店の売り子と事務方を担当しているそうだ。


「雰囲気がウノウラくんに似てっこど」


いやいや、奥さん。私は叔父のようなキレイな感じじゃないですよ。整った顔じゃないって自分で分かってますからね。目とか眉毛とか、1コ1コのパーツは似てるかもですが……。


「ウノウラ リウと言います。これから数日だけですが、よろしくお願いします」

「リウちゃんか~。うちの娘になっか?」

「師匠、兄貴に怒られっから、やめてください」

「冗談だー」


あっはっは! と大きな声で師匠が笑った。けっこう本気に見えましたよ、師匠。

師匠夫婦の子どもは息子さん2人で、けっこう大きくなってて、今は他所の街で修行してるらしい。お兄さんの方が薬草師見習いで、弟さんの方が家具職人を目指してるんだとか。


「あいつらも俺もリウちゃんと同じ学校出身だから、リウちゃんの大先輩になるわけだな!」


師匠の下の方の息子さんは学校で林業を学んで、そこから木工細工に目覚めて、家具職人になりたいと思ったそうだ。


「どっちかの息子の嫁に来てけでもいいがらな」

「だから、俺が兄貴に殺されそうになっから、やめでけで~」


叔父が真っ青な顔をしている。

叔父さん、そんなに父さんが怖いんだ……。

まあねー、私の目の色のことを考えたら、他所の土地にお嫁には出せないしねえ。

ここでもバレないようにって叔父から事前に釘刺されたし、これから数日間、気をつけて過ごさなくちゃ。



 ☆ ☆ ☆



私の仕事は薬草の乾燥と仕分け、それから店番のお手伝いだった。

調合済みの煎じ薬を出して、代金を受け取るくらいの簡単な店番ならできる。調合済みでない「これこれこういう病状にあった薬草が欲しい」と言われたときは、奥にいる叔父か師匠を呼べばいい。

薬草の乾燥は学校でも少しやっているから分かる。乾燥した薬草を仕分けるのがちょっと難しかった。

干している間に混じってしまった薬草の見分けをつけないといけないのだが、乾燥して縮んだ薬草の葉っぱは見分けるのが難しいのだ。

いや、完全に違う葉っぱの形をしてるなら簡単だよ? でも、似たような大きさの葉っぱで、葉のつき方も似てて…となると判断が難しいのよ。

作業スペースが広いなら完全に混じらないように分けて乾燥できるのかもしれないけれど、狭いスペースを最大限に活かして陰干ししているから無理が出てくる。ひっくり返したり向きを変えたり、乾燥にムラがないようにしていると、どうしても隣の薬草と混じってしまうことがあるわけで。

叔父は「匂いでも判別できる」と言って、ひょいひょいと仕分けていく。

見てるだけなら簡単そうに見えるのになぁ……。


「慣れれば簡単だぞ?」


やはり、こういうのは経験値がものをいうらしい。


「はっぱり見分けつかないわー。おんちゃんスゴいねぇ」


『はっぱり』は『さっぱり』の方言で、『葉っぱ』とかけたダジャレではない、決して!

『おんちゃん』は『おじちゃん』の意味。


気をよくした叔父はご機嫌で、いつもより作業が(はかど)ったと言っていた。



 ☆ ☆ ☆



夕飯は師匠の家で、奥さんの手料理をご馳走になった。

私もお手伝いしましたよ。

裏の畑でとったナスを使ったナス炒りは、シソの大葉で香りを出した。シソがあるかないかって大きな違いだと思う。あとは、これまた裏の畑でとってきたきゅうりを入れたポテトサラダ。チーズを小さな角切りにして混ぜてあって、いいアクセントだ。枝豆はちゃんともぎたてを茹でた。

豆腐は豚肉と玉ねぎを入れて煮込んで、あまからの味付け。

叔父と師匠はビールを飲んでご満悦。奥さんと私は麦茶で乾杯だ。


「リウちゃんがいると助かるわー」

「やっぱり嫁っこさ来てけで~」

「もは、やめでけらいー」


『もは』というのは『もはや』から来ているのか、『もう』を強くしたようなニュアンスだ。

酔っぱらいは適当にあしらっておくのが吉かな。


「またお料理教えて下さいね」


私は師匠の奥さんにそう言って、酔っぱらい2人の話は聞こえなかったことにしたのだった。



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