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あたらしきもの……?

ちょっとヘロヘロになりながら乗り切った定期試験も無事終わり、先日もらった成績表を見たらなんとか5位に引っかかっていた。

よかった、ホッとした。屋根裏組の仕事との両立は大変だけど、授業中に集中するのが本当に重要で、授業中にどれだけ頭に入れられるかってことが鍵になるんだなと今回のことで実感した。

気を抜かずに、次の試験もがんばらねば。


さて、あとは夏休みを待つばかりとなった7月中旬。今日は1年生みんなでジャガイモ掘りだ。

地上に出ている茎の部分は邪魔なので刈り取ってしまい、鍬で畝の横からイモを傷つけないように掘り起こしていくと、育ったジャガイモが土の中から顔を出す。あとはそれを拾って集めていくのだ。

やっぱり収穫作業は楽しい。

集めた新ジャガの一部はすぐに塩茹でしたのをお皿にもらい、ホックホクのところを箸で割って口に運ぶ。農場で作ったバターやマヨネーズも用意されていて、本当に最高である。

夜は新ジャガを使ったコロッケだった。

新ジャガは皮が薄くてこすっただけで皮がむけるし、ちょっとくらい残っていても気にならないから、大量に処理する食事の準備も楽でいい。

季節の味を寮の食堂で他の学年の人達も含めて皆で味わう。しみじみ美味しかった。


夏休みは7月21日~8月20日。ほぼ1ヶ月。

農場には牛や鶏などの家畜もいるから、世話の都合で寮が空っぽになることはないし、屋根裏組は学生というよりは「仕事」って意味合いも強いから休みがもらえるのは5日ほど。全員が同じ日に休むと大変なことになるので、休みに入る前に日にちの希望を聞かれた。

私は家が遠いので帰省はしないし、もらった休みは近くの街で見習いをしている叔父のところで過ごすことにした。

夏休み中は学校で授業がない分、屋根裏組の仕事時間には余裕があって、夏休みの課題なんかもじっくり片付けられる。人が減った分、家畜や畑の世話の手伝いを頼まれることもあるから、普段の仕事量とどっこいどっこいかもしれないが。


しかし、それでもやっぱり夏休み。空いた時間で何をしようか……と浮かれた話も出てくるワケで。

みんな家に帰るとか、海へ遊びに行くとか、そんな話をしていた。


「リウは家に帰らないのー?」

「うん。ちょっと遠いし。山奥だから行くのが大変なんだ」

「そしたら、お休みの間もこっちにいるんだ?」

「んー、叔父さんのとこに行ってみるつもり。薬草師のお仕事とかお手伝いできたらって思って」

「そっか、リウって薬草希望だっけ。そしたら来年は植物に進むんだね」


この学校では1年生では植物や農業の基本を学び、2年生になったら植物系と家畜系に分かれる。


「オレは果樹に行きたいから植物」

「あたしは酪農希望だから家畜だな」

「俺は3年で作物か畜産か迷ってる」

「私も作物にしようかどうか迷ってるわ~」


作物なら植物系だし、畜産なら家畜系だ。

なんだかんだ言っても、みんな先のことをちゃんと考えてるんだなぁ。

そりゃそーか。みんな家が農家だっていう人ばっかりだし。


「そう言えば、夏休み初日の作業はジャガイモ畑の整理らしいよ」


明日は夏休みの初日。

ジャガイモ畑の整理とは、掘り残したイモがあったら回収し、次の作物が育てられるように耕し直して整地することだ。


「今年はだいぶ小芋が残ってっから『あったらもの』だ~」


食堂に来ていた農場長が話に加わった。昼食を済ませたところらしい。


『あったらもの』というのは『もったいない』という意味の方言。

何かの古典文学で『もったいないもの』という意味で『あたらしきもの』という話があるらしいけれど、この方言はそこら辺からきているのかもしれない。


「がんばったらご褒美あっから、稼げよ~」


農場長はニカッと笑って去っていった。



 ☆ ☆ ☆



次の日は屋根裏組みんなで朝から小芋を拾いまくり、畑を耕して、固まっていた土をふんわりとさせた。

小芋は大鍋1つ分くらいはあって、農場長はそれを水洗いして乾かすように言った。


「よし、揚げるぞ~!」


キレイになった小芋は農場長が用意した簡易かまどに設置された鍋で油で揚げて、塩を振って食べる。揚げたては本当に旨い! いくらでも入ってしまう。


「うめ~!!」

「コレ、放ったらかしだったら、本当に『あったらもの』だったなー」


ホント、こんなに美味しいものを放っておくなんて、もったいない!

ホックホクの揚げたてと冷えた麦茶、最高です!!


「これは本当にご褒美ですねー」

「ほんと! 屋根裏組の特権よね」


ちなみに麦茶は井戸水で冷やしてあったものだ。


「そういえば、リウは暑さに慣れたみたいね」


言われてみれば、いつの間にか体が暑さに慣れたようで、食欲も戻っている。

旬の食材に囲まれて、元気をもらってるのもあるのかもしれない。


「せっかくの旬の恵みを食べられないなんて、ホントに『あったらもの』だしね」

「そうだよね~」

「こんなに美味しいものだもんね!」


そう言って、みんなで笑いあった。



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