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おれさま

突然ザーッと雨が降り出した。

確かに降り出しそうな雲行きだった。でも、思ったより降り出すのが早くて焦った。

作業小屋の中で雨宿りしていたら、ピカッと光が瞬いた後にゴロゴロゴロと音が聞こえてきた。


「あー、『おれさま』鳴ってるなぁ」

と農場長が呟いた。

『おれさま』というのは『カミナリ様』のこと。『俺様』とはイントネーションが違うので区別がつく。


さすがにカイも雷のことを言っていると分かったようで、何も聞いてこなかった。

激しい雨はバケツの水をひっくり返したよう。

私が生まれ育った北のノコギリ谷では、こんなに激しく雨が降ることはなかったから、ちょっと新鮮だ。


果樹園で、樹の根元から生え出した若い芽を切ったり折り取ったりの作業中。そこに降り出したので、近くの作業小屋に逃げ込んだところだった。

頭や作業着についた水気をタオルで払っていると、また光が瞬いて雷鳴が轟いた。早く止んで欲しい。

タキは怖いのか情けない顔をしていて、フワフワして可愛い感じのアミはイメージに反してワクワクした表情で空を見ている。

タキの方が男前で動じない感じかと思ってたが、雷はまた別なのかもしれない。


作業小屋と言っても、収穫時期には果実のカゴでいっぱいになるからか、かなりの広さがある。

今の時期はそろそろサクランボの収穫が始まるらしい。雨が降ると実が割れてしまうそうなのだが、大丈夫なんだろうか……。


「1回の雨で3割くれえの実が割れっからなぁ。この後しばらく雨が降らねえばいいんだが」

「はぁ、そうなんですか。3回も降ったら、ほぼ全滅ですねぇ」


この学校の果樹園は品種改良の研究もしているらしく、早生から晩生までいくつかの品種が植わっているそうだ。

早生の品種は、早ければあと数日で収穫予定だと言っていた。


「その収穫って、やっぱり……」

「うん。あんだだぢにもお手伝い(おでってぇ)してもらうがら」


思った通り、収穫作業には屋根裏組は強制参加らしい。


「そん代わり、割れた実ッコなんぼがかせてやっからよ」


割れた実なら、少し食べさせてもらえると聞いて、現金にもちょっと顔が緩んでしまった。

まぁ、割れた実はほぼジャムに加工してしまうみたいだから、あんまりたくさんは食べさせて貰えないみたい。お手伝いした分の特別待遇で少しだけってことなんだろう。


世の中に電気ってものがなくなって、冷蔵庫や照明なんかがなくなった。

冷蔵庫の代わりに、今は地下室や洞窟みたいなひんやりした穴の中で保存したり、冬に降った雪を倉庫に貯めこんでおいて野菜などを冷蔵するようにしている。

山の神様の郷へ行けば冷蔵庫なんかも使えるよって、隣に住んでたお姉ちゃんから誘われたけど、結局この学校で学びたくて断ってしまった。

あの郷には、今でも電気があるのだ。地熱でハツデンしているとかなんとか言ってた。

ただ、あの郷に住むのは色素が薄い人間であることが条件付けられている。黒目・黒髪の人の間では生きていけない人々の隠れ里のようなものなのだ。

北のノコギリ谷は海側には黒目・黒髪の人々が住み、谷川の上流である山の方、奥へ行けば行くほど色素が薄い人が増えていく。その一番奥の奥、山の中に山の神様の郷があって、私が生まれ育った村はそのすぐ下にあった。

色素が薄い子は、ある程度の年齢になるとそのまま村で過ごすか、山の神様の郷へ上がるか選択させられる。郷には電気など昔の技術が残っており、私の特別製の眼鏡も郷に残る技術で作られたものだ。

この学校で黒目・黒髪の人ばかりの中で生活してみて、本当にあの谷は変わったところだったんだと思わされた。……というか、自分もこの学校の人たちから見れば変わった人間なんだろう。ここでバレたら、きっと山の神の郷か、その下のあの村で隠れるように生きていくしかないのだ。


「あ、虹!」


誰かの声が聞こえ、ぼんやりと考え事に沈んでいた意識を浮上させると、雨が止みそうになっていて虹が見えた。

『おれさま』もとっくに聞こえなくなっている。


「今日の夕飯、何かなぁ?」

「その前に、もう一仕事すっぺえ」

「えー!?」


お腹が空いたと文句を言うカイを宥めつつ、夕方までの時間をまた作業に費やすのだった。



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