「が」と「ガ」……?
屋根裏組のみんなで話をしながら夕食の片付けをして、朝食の仕込みをしていたときのことだ。
カイが不思議そうにポツリと言った。
「なぁ。『がんばる』の『が』と、『見学』の『ガ』では発音が違うのか???」
へ?
『がんばる』と『けんがく』??平仮名で書くと同じ『が』だけど、何か違うっけ???
よくよく考えてみる。
ノマやタキは発音してみているようだ。
「『ご馳走様』の『ご』と『国語』の『ゴ』とかさ、なんか微妙に違うだろ?」
そうかな?どっか違うだろうか…。
私も口に出してみる。
「あと、『飽ぎだ』の『ぎ』と『ねぎ』の『ギ』とか?」
「あっ、分かる気がする~。なんか違うよね」
とアミ。
んー、なんとなく分かってきたかも。
最初の方はハッキリとした濁音で、後ろの方は音の前に小さい『ン』が入ってるような発音って言えばいいのかな。よく聞いてみるとカイには難しい発音みたいで、全部ハッキリとした濁音で発音している。
「それはね、『鼻濁音』って言うんだよ」
突然、声が割り込んできて、驚いてそちらを見るとコマツ先生がカウンターのところにいた。
「ハッキリとした濁音じゃなくて、やわらかく発音する濁音っていうのかな…。そんな感じ」
へぇ~、そうなんだ。さすが先生というか、年の功というか。物知りだなぁ。鼻濁音なんて初めて聞いたワ。そういう言葉があるってことに驚いた。
「昔の人はね、鼻濁音を半濁音と同じように『゜』をつけて表現しようとしたり、工夫したみたいだよ。まぁ、それも一部の人だけで、一般的には濁音も鼻濁音も同じ『゛』で表してるけど」
えっ!?「まる」って、それはつまり『ねき゜』とか『けんか゜く』とか書くってこと???
想像して、そして何だか脱力した…。
『き゜』とか『か゜』って、なんか力抜けるワ~!!
うん、普通に『ねぎ』と『けんがく』でいいよ書き方は。
「そっか、鼻濁音って言うのか。…発音、難しいですよね?」
「カイくんは鼻濁音がない地域から来たのかな?だったら難しいかもね~」
今まで普通に鼻濁音を使ってきた側からすると、鼻濁音がない地域があるってことに驚くんだけど…。
確かにこの学校って、けっこう遠くの地域からも来てるみたいで、カイのようにこの辺の方言が通じないコもいるもんなぁ。
「特に『ねぎ』の発音が難しいです」
「そうなの!?『ねぎ』って普通に言えると思うけど…」
コマツ先生に語るカイの言に、タキが吃驚している。
うん、私も驚いた。言われてみれば『ねぎ』の『ギ』は半濁音だけど、そんなに発音難しかったっけ?
「ボクの同期もそんなこと言ってたよ。やっぱり他所の地域の人には『ねぎ』は難しいんだねぇ」
「あと、どこで鼻濁音?を使うのか、その辺の使い分けがよくわからなくて…」
カイ的には真剣な相談なのかもしれないけど、そんなに難しく考えなくてもいいと思うなぁ。
要は慣れだと思うし。カイが鼻濁音を使えてなかったとか、今まで全然気にしてなかったし。
「カイが今まで鼻濁音を使ってなかったとか、私は全然気がつかなかったから、あまり気にしなくて良いと思うよ。それに、あとは慣れだと思うから、焦らないで」
そう言ったらカイが驚いた顔をした。そしてヘラっと笑った。
「…そうか。うん。リウ、ありがとう」
あ、ヤバい。カイの注目が怖い。
「そうそう。俺も気づいてなかったから、気にすんなよカイ」
「そう言われれば私も気づいてなかったよ!大丈夫よ、カイ」
ノマとアミが口々に言って、カイがそっちを向いた。
…あー、良かった。セーフ?よね、きっと。
マジマジと見られたら、目の色とか簡単にバレそうで気が気じゃない。
でもランプの灯りじゃそんなにハッキリは見えないだろうし、気にし過ぎかな?
いやいや、バレないようにしないといけないんだから、気をつけるに越したことはないし…。
「リウって天然よね…」
タキが何か言ったようだけど、よく聞き取れなかった。




