おがる
農場長からの指令。
「畑の草がおがってきたから、今日は草取り」
土曜日、今日は学校の畑に来ていた。雑草がだいぶ伸びている。
『おがる』というのは『育つ』という意味の方言だ。「草がおがった」だと「草が伸びた」という意味でいいと思う。
「ニドイモとダイズ、イモノコの辺りを学年ごとに分担すっこど」
『ニドイモ』は『ジャガイモ』、『イモノコ』は『サトイモ』のことだ。
1年生は大豆を担当することになった。
昨日の雨で土が柔らかくなっていて雑草が抜きやすい。
でも湿度が高いから汗がダラダラ出て、首に巻いたタオルで汗を拭きつつ作業をすすめる。
1時間くらいしたら農場長が「休憩」と言って、冷えた麦茶を飲ませてくれた。
屋根裏組が担当しているのは3種類の畑だけど、学校の畑には他にも作物が植わっていて、そちらの草取りは専門課程の先輩方が日々世話をする中で済ませていっているらしい。
ボーッとトウモロコシの畑を眺めていたら、
「トミギは夏になったらかせでやっから」
と農場長が言った。
カイは案の定意味が分からなかったらしく、きょとんとしていた。
「トウモロコシは夏になったら食べさせてくれるって」
とノマが通訳?していた。
確かに『トミギ』も方言だよなぁ…。『かせる』は『食わせる』が縮まったんだと思うけど。
休憩終わりに農場長が「日にとおされないように帽子かぶれよ~」と言って、みんなに麦わら帽子を貸してくれた。
『日にとおされる』というのは『日に通される』んだか『日にたおされる』んだか分からないけど、とにかく『日射病』を指す方言だ。
帽子のおかげか、その後は割りと快適に草取りを終えることができた。
☆ ☆ ☆
翌日の日曜日はまるまる休日となった。急ぎの作業が何もないから、ゆっくりできるようだ。
「明日、街に下りてみっかなぁ」
学校は小さい山の中腹にあって、田んぼとか街とかは麓の平地にある。そのせいか、街に行くのは「下りる」という表現になるのだ。
カイは背が伸びたらしく、そろそろシャツを買い換えたいと言う。制服や作業着はある程度大きめなものを用意していたけど、その下に着るシャツなどはピッタリしたものだったから、ちょっと小さくなってきたそうだ。
「カイもおがってたんだな」
「ふふふ。リウに追いつく日も近いぜ」
そういえば、入学したての頃は頭一つ分低かったカイと目線の高さが近くなって来たかも。
男子の成長期ってスゴいなー。
「え?カイたち、明日街に下りるの?」
「なら、私たちも一緒に行きたーい!」
アミとタキも街に行きたいと言い出した。
「リウも行こうよ!」
私は買いたいものがないから…と断ろうとしたけど、あれよあれよと言う間に押し切られて同行することになってしまった。ナゼだ。
☆ ☆ ☆
街ではウィンドウショッピングに徹した。
カイに付き合ってみんなで服屋さんに入って、女子は女子でスカートを見たり可愛い下着を見たりする。夏は薄着になるから、下着も気をつけないと…ということでリサーチに来たらしい。
その次はノマがノートを買いたいと言うので文房具店に入った。そこでアミとタキは可愛い便箋を買っていた。家に手紙を書くらしい。私は普通のがあるから要らないと言うと、2人から残念そうな顔をされた。ナゼだ。シンプルでいいじゃないか。
昼ご飯は、安くて量が多いと学生に評判のお店に入ろうかって話も出たけど、結局は用事も済んだし寮に戻って食堂で食べた。
午後はそれぞれのんびり過ごすことにする。
私は定期試験に向けて、少し復習をした。屋根裏部屋では少し暗いので、食堂の隅っこの机に陣取る。ランプの油がもったいないから、明るいところで勉強をするのは良いと思う。
山の神様の郷なら、電気もあって便利なんだけどな。
まぁ、ないものねだりをしても仕方ないし、山の神様の郷に入れる資格もあったのにそれを蹴ったのは自分なんだから…と思い直す。
集中、集中。
学費免除を目指してがんばるぞー。




