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救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
悪役令嬢の新たな日々
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第20話 血の雨降る六月 (1)

大変長らくお待たせしました。

待たせた割にほぼ説明回という……。

「ぎゃぁぁぁぁッ!」「う、うわぁぁぁぁッ!?」「に、逃げろぉぉぉ!!」

「馬鹿者ぉ! 逃げるな! それでも栄えあるガラティーン騎士団の一員かッ!!」



 それはまさに、阿鼻叫喚と呼ぶに相応しい有様でした。



「お嬢様! ぼさっとしてないで走ってください! 殿(しんがり)の副団長殿が持ち堪えている内に逃げ切りますよ!」


「うぅ……だから言ったのに……」



 こうなる予感はしていた。

 だから、副団長に指示を出したのに、私が侮られた……と言うよりは、副団長の方が私に侮られたと感じたようで、真に受けてもらえなかった。

 その結果がこの有様である。



「仕方ないですよ。ある程度覚悟していた自分ですら、これほどとは思わなかったんですから……。でもまぁ、これで確かに意識改革はできるんじゃないですか? ……生きていれば、ですけど……」



 振り返った先には、地面に対してほぼ平行に飛んでいく甲冑を着込んだ騎士達の姿が……。

 視線をずらせば、天高く聳える石柱の上に取り残された者達も……。

 ……あれ、生きているんでしょうかね……?


 本当に、どうしてこんな事に……。


 ▽


 六月に入ってから一週間が過ぎた。

 六月と言っても、ここは日本と違って梅雨はなく、特に雨季という訳でもない。たまに雨が降るくらいです。

 そして、この一週間は事態が加速したかのように、本当に色々とありました。


 まず、学園での授業が終わると、放課後は生徒会には行かず、ある講義を受ける事になりました。

 若干生徒会が心配でしたが、あと数ヶ月もすれば私とグィネは生徒会を引退します。

 後輩達も、そろそろ自分達だけで仕事をこなせるようにならなければなりません。

 それを考えれば、この期間はいい機会だったのかもしれません。


 さて、いったいどんな講義だったのかと言えば、以前お父様に言われていた、いつか来る隣国への侵攻を見越した『新しい魔法の使い方』に関する物でした。

 ……ただ、教わる相手はマーリン学園長だと伺っていたのですが、いざ蓋を開けてみると、教壇に立っていたのはキラキラと白銀に輝く髪を靡かせるフレアちゃんでした。それもアイドルモードの……。


 彼女がアイドルモードだった理由は単純で、講義を受けに来ていたのは私だけでなく、第二騎士団所属の魔法士達もいたからでした。

 ……多分、私だけだったら、アイドルモードではなく、スパルタモードだったと思います……。

 あぁ、でも、講義の進行自体は案の定スパルタモードで、おふざけの過ぎた方達は魔法(物理)的に沈黙する事になってしまいました。


 例えば──



「我々は大魔導師と名高きマーリン殿の教えを受けられる、と聞いてきたからこそここにいるのだ。貴様のような、小娘の相手をするためではない!」


「そうですか~♪ それでは、どうぞ、今の内にお帰り下さい☆ あ、他にも同じご意見の方がいらっしゃいましたら、どうぞ遠慮なく~♪ 真剣さの足りない方は、どうせ使い物になりませんので☆」



 と、彼女が教壇に立つ事を納得しない者には、営業(アイドル)スマイルで退室を促し(喧嘩を買い)──



「な!? 小娘の分zぎゃぶはッ?!」



 それでも指示に従わず、いきり立った魔法士が立ち上がろうとしたら、その男性の足元から突風が吹き荒れ、浮かされた男性は更に横からも突風に吹き飛ばされ、そのまま窓から外へと放り出されてしまいました……。



「他に、自分の足で歩く事ができない方はいらっしゃいますか~?」



 ──あれは、天使の笑顔を浮かべた悪魔でした……。


 私自身も王妃修行で鍛えられたアルカイックスマイルを顔に貼り付け、極力目立たないようにやり過ごしました。

 ……でないと、不意に噴出したりした日には……おそらく、精神(社会)的に黙らされる事になったと思います。


 そして、肝心の講義内容と言えば……これ、多分、私聞いた事ありますね……。

 理論は兎も角、実践はキャストンさん達の『強制パワーレベリングツアー』の時にやっていました……。


 そのパワーレベリングの方法はというと──


1.大物モンスターをキャストンさんが生け捕りにして拘束します。

2.ノーダメージで身動きが取れないモンスターに対し、私が水球(ウォーターボール)の魔法を唱え、それを撃たずに維持したままモンスターの頭部を覆う。

3.モンスターが窒息死、或いは溺死するまで維持し続ける。


 ──という方法だったのですが、パーティーを組まない事で、倒した?モンスターの経験値が全て私の物になりました。

 これを私のLVが50になるまで続け、それ以降は……私、よく生きていますね……。


 コホン。

 それはさておき、この一連における行動の中で、何が実践に当たるかと言うと、水球(ウォーターボール)の魔法を維持し続けたという点です。


 通常、魔法は『呪文を詠唱』すると『MP(魔力)が必要な分消費』され、『魔法が定められた効果を発揮』するんです。

 水球(ウォーターボール)の魔法ですと、バケツ一杯分の水が球状を成し、即時標的に向かって直線に飛ぶ事になります。

 間違っても、任意の位置に保持したまま、飲まれたり蒸発させられたとしても一定量を維持し続ける……なんて事が出来る魔法ではありません。


 これを今回教わった理論を基に説明すると、魔法というのは『魔力を特定の形状にする事で発現する現象』であるらしく、分かり易い所だと魔法陣なんかがまさにそうですね。

 魔法陣が格納された魔導具に魔力を流す事で、様々な現象が発現しますから。


 そして、私達が普段使っている魔法というのは、私達の中に書き込まれた魔法陣に、MP(魔力)を流す事で発現していたんだそうです。

 つまり、『呪文を詠唱』する事で、『使用する魔法陣の選択』と『魔法陣の稼動に必要なMP(魔力)の消費』が自動で行われているのだとか……。

 これらを可能としたのが、神聖パニア教第一の秘蹟(サクラメント)・入信の儀式を通して授かる加護(LV)だというのです。


 であれば、現在、教国領で起きている怪現象。

 『加護(LV)喪失地帯』と『魔力喪失地帯』のどちらかにでも足を踏み入れた者が、魔法を行使できなくなるのも道理というものです。


 魔法陣が格納されている加護(LV)を失えば、いくらMPがあったとしても意味がありません。

 また、MPの回復や自動装填といったMP(魔力)を無意識に扱う能力を失い、最大MPが0となってしまえば、そもそも魔法陣に流すMP(魔力)がないという事。

 どちらも、原因は違えど魔法が使えなくなるのも当然という話です。


 では、そんな状態からどのようにして魔法を使うのかというと……。

 非常に乱暴な言い方をすれば、自前で『MP』ではない魔力を用意し、それを用いて自力で魔法陣を描く。

 ……というものでした。


 実はこの方法、『新しい魔法の使い方』等では全くなく、むしろ非常に古い魔法の発動方法なのだとか……。

 というのも、パニア教が広まるよりも前、500年以上昔の方法だという話です。


 当時は魔法を使える者は極僅かで、魔法士の数が戦局を左右するとまで言われるほど貴重だったそうです。

 そんな時代に、兵士全てが同時に魔法士でもある『神聖パニア教国』が大陸を統一するのも、頷けるというものですね。


 っと、話が少しずれましたが、ただでさえ知る者の少ない魔法の使い方。

 そこへ、手軽な方法で魔法が使えるようになるパニア教が布教され、更に廃れていくのも止むを得ない話。

 もっとはっきりと言うと、自力でこの方法に辿り着いた者だけが『魔導士』の資格を得られるのだそうです。


 つまり、フレアちゃんによってこの方法を教えられた私達は、今後どう頑張っても『魔導士』の資格は得られないという事です。

 まぁ、講義を始める前に、『魔導士資格』の取得を目指している人は退室するように、と言われてましたし、後は自己責任とも言われましたから、特に不満は出ませんでしたが……。


 それでも、この方法を昔から広めていれば、魔導士の数は今よりも多く、魔導具などは更に発展していたはずなのに、どうして広めないのか? という不満は各自から見受けられました。


 これらの不満に対し、フレアちゃんはというと──



「そんなの、既存の魔導士達が自分達の権益を守る為に決まっているじゃないですか~♪ 全体の幸福よりも個人の幸福を追求する……浅ましい人間の常套手段ですよね☆」



 ──と、営業(アイドル)スマイルと毒を振り撒いていました……。

 ただ、続けて──



「……無論、中にはどこかの学園長みたいに、現状を打破しようと足掻く方もいらっしゃいますが、『賢聖』、『大賢者』、『大魔導師』と称えられる個人でさえ、組織的な圧力を跳ね除けるのは容易ではありません。人間の浅ましさと英知。さて、どちらが勝つのでしょうね?」



 ──そう言った彼女の笑顔には、いつもの打算だったり計算だったり、特定の個人のみに対する敬愛だったり親愛だったりというものはなく、どこまでも底の見えない妖しさがありました……。



 ところで、先程からちらちらと出てくる『魔法士』と『魔導士』という単語。

 この二つは似て非なる物であって、簡単に言うと『魔法士』は魔法を主力とした戦闘職であり、対して『魔導士』は魔導具の開発や製作、新しい魔法の開発・研究などといった研究職に当たります。

 なので、騎士であり軍人である彼らは、魔導士になれない事にはさして不満はなかったという訳です。



 さて、大まかな理論はおおよそ理解できましたが、いざ実践するとなるとこれまた難しいものでした。

 何せ、私達はいまだ加護(LV)はありますし、MP(魔力)もちゃんとあります。

 詠唱すれば勝手に魔法は発動しますし、MPも自動で回復・消費されます。

 早い話、練習のしようがなかったんですね。


 そこでフレアちゃんの無茶振りがきました。

 その内容はと言うと、無詠唱での魔法使用と、MPを使い果たしてからの魔法発動でした……。


 まず、基本となる魔法陣を寸分違わず覚え、そこにMPを注ぐ訳ですが……もう既にこの段階で感覚の世界になりました。

 どういう事かというと──


Q.MPを注ぐってどうやるの?

A.詠唱すると勝手に減るから、何度も詠唱してMPが消費される感覚を掴んで。但し、個人差あり。


Q.魔法陣に注ぐってどうやるの?

A.砂絵を描くように、掴み上げたMPで暗記した魔法陣を描く感覚。但し、個人差あり。



 ──だいたいこんな感じです。

 いえ、擬音満載の説明に比べれば、それは非常に理解し易いですが、ほぼ個人の感覚頼りという……。

 そりゃ、大昔には魔法が珍しかった訳ですよ……。


 尤も、私はこれより一歩進んだ『既存魔法の改変』を経験済みなので、暗記できた魔法陣を無詠唱で使用するところまでは出来ました。……まだ、数は少ないですけど……。


 後は、『MP』とは別の魔力……もっと言えば、MPに変換される前の『体内魔力(オド)』と呼ばれる魔力を使えるようになれば良いそうです。

 まぁ、私にはこっちの方が難しいようで、一週間では形になりませんでしたけど……。

拙い作品にお付き合いくださり、ありがとうございます。



遂に作中では六月となり、終章目指して加速し始めました。

まー、試練はまだまだこれからで、その一端を冒頭に持って来た訳ですけれど、今回はこの世界における『魔法』に関して説明しました。


気付いた方はいると思いますが、細かい矛盾点があります。

当然の如くわざとです。

「火薬の作り方を知らなくても銃は撃てる。上手くもなれる」の精神で、魔法士達には奮闘してもらいましょう。

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