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救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
悪役令嬢の新たな日々
91/103

幕間 苦労人と二人の悪童 (中)

大変長らくお待たせしました。


まさかの中編6,000字です……。

「ぜぇ……ぜぇ……」


「はぁ……はぁ……」



 親子ほどに年の離れた二人の男が、向かい合って荒い息を吐いている。


 あの後何があったかと言えば、感情論による言葉の応酬と言う名の罵りあいに始まり、何故かこちらにまで飛び火し三つ巴の口論に発展。


 色々と吐き出した後は、打って変わって地政学や経済学、この国が面している問題点などを理路整然と並べ立てての討論へと移行。

 王侯貴族と言うよりは、それはさながら商人達が交わす商談の様相を呈し、やっと結論が出るかと思ったところで最後の最後にまたしても、それでいて最大級の感情論がぶつかり合った。



「お二人とも、それでよろしいですな?」



 これ以上はなさそうだと判断し、私が口を挟む。

 正直に言えば、よくもまぁ手が出なかったものだと思う。



「えぇ、お互い、これ以上の妥協はできないでしょう……」



 若い分、キャストンの方が先に回復し、頷く。



「そうだな……ここらが落としどころだろう……」



 散々罵り合って喉が乾いたのか、水を呷ってから口を開く陛下。

 結局の所、どこに落ち着いたかと言えば……。



「叙爵は受けましょう。殿下の公務にも護衛兼教育係として、立太式を迎えるまでは協力しましょう。その代わり……」


「あぁ、王配は娘の希望を優先する」


「優先したけどやっぱりダメっていうのはなしですよ?」


「分かっておる。本人の希望通りとする。これでよいな?」



 という事になった。

 ただなぁ……この二人……。



「まったく、なにさり気なく最後の文言を有耶無耶にしようとしてるんですか? やり口がセコイんですよ」


「お前がそれを言うか?! あれこれと小細工を弄しおってからに……」


「そりゃ、一国の頂点をた・だ・の平民が相手にするんです。口八丁で言質を取らせないのは当然でしょうに」


「ぐぬぬ……」



 絶対、額面通りの決着ではないのだろうな……。

 両者ともに、腹の中にまだ一物も二物もある気がしてならん……。


 さて、このような落着点を見出したのには一応の理由がある。

 その最たる物は、『いずれこの国は割れる』という三者一致の見解によるところがある。


 多少の差異はある物の、三者が同じ結論に至ったのには、先程挙げた我が国が抱えている問題……現在の情勢が多分にある。


 例えば、我が国は主に主流派・反主流派・教会派と呼ばれる三つの派閥が存在するが、神子(魔女)が召喚されて以降、激しい主導権争いが起こっていた。

 それら一連の争いも、先の学園行事(舞踏会)を端に発する騒動で一応の決着となった。


 結果だけを見れば、神子(魔女)が召喚される以前と同じ勢力図となったが、グィネヴィア殿下が王位を継ぐ頃にはどうなっているか分からない状況となっている。

 何せ、当初予定していた後継者の内、生き残っているのはランスロットのみとなり、新女王の支持基盤は非常に弱体化する事が予想されるからだ。


 それだけならまだしも、西のウェストパニア教国領で異常な現象(加護の喪失)が観測され、それが徐々に拡大しているとあっては尚の事だ。


 我が国に限らず、大陸では神聖パニア教による加護の力で生活が成り立っているといっても良い。

 その加護の力が無くなれば、我が国建国以来、初の飢饉がおき、食糧を求めて国内が大いに乱れ……それどころか、社会秩序の維持すら無理となろう。


 無論、これを座して見過ごす訳にはいかんので、この異常事態を解決すべく準備を整えているところであるが……仮にこの事態を解決したとしても、それはそれで新たな問題が浮上してくる。


 それは海と鉱山だ。


 我が国は東西南の三方を他国に囲まれているが、北には海が広がるばかり。

 そして、その海に面した領地は全て王家の直轄領となっている。

 つまり、塩の流通を王家が直接差配する事で、少数派である王家を軸とした派閥が主流派を名乗っていられるのである。


 だが、この異常事態の原因と目される魔女を討ち果たしたとして、最早政府機能の無い教国領をどうするかと言えば、当然ながら我が国の支配下とするより他にない。


 そして、教国領はただでさえ我が国より広い領土を有し、我が国にはない鉱山と、そして、これまで王家が独占していた海がある。

 今一度、これらを王家が独占する事は叶わないだろう……。


 塩と鉄。二つの戦略物資を得た者達が、これまで通りに大人しく従っているか……。

 おそらく、新女王の御世に反旗を翻すだろうというのが、私と陛下の見解であった。


 キャストンにいたっては、もっと早い段階で事が起こると見ているようだが、結局の所、国が割れると言う結論は同じであった。


 その対策として、後の王配となる殿下の婚約者には細心の注意を払って選出すべきだと思うのだが……。

 ここで見事に意見が分かれ、両者の妥協によって先の落着となった。


 因みに、陛下は「どうせ割れるのであれば、再統一が出来るよう英雄となれる者を据えれば良い。ほれ、神馬(スレイプニル)を従えているとか、資格十分だろ?」と言い出し……。

 その資格十分と言われたキャストンは「いやいや、どうせ割れるんだから、女王陛下がやる気を出せるよう、好いた男と結婚させた方が良いですよ」と言い出す始末。


 お前ら、割れないようにと努力する方向には行かんのか?



「それにしても、何故そこまで愛人を持つ事を拒否するのだ?」



 人心地ついたからか、さも不思議そうに陛下が尋ねる。

 「王配となってからでも、侍女という形で好きな女を傍に置けばよい」と、陛下が説いたのだが、この男はそれを頑として受け入れなかったのだ。



「あんた、父親として、自分の娘が陽の目を見られない立場になっても良いのかよ?」


「む……それは……」



 まぁ、散々「俺の娘が嫁じゃ気に入らねぇのかッ!?」と啖呵を切っていた以上、頷く事は出来んわなぁ……。



「ま、男親の意向なんざどうでもいいんだがな……そもそも、男親からしてみれば、娘婿なんざ娘泥棒みたいなもんだし」


「まー、そうだなー……」



 王として、貴族として、娘を政治の道具と見なければいけない事はある。

 だが、決して不幸になっても構わないとは思わない……辛い所ではあるが……。



「だがなー……俺は独占欲が強い。今更アイリを手放すなんざどだい無理だし、他の男がアイリに触れるとか……」



 その後、しばしの間、間男を如何に処分するかを暗い口調で語る赤毛の男。

 そのあまりの内容に、顔色を悪くするメイドが続出したため、彼女らを下がらせる。



「まったく……我が家の使用人ともなれば、士爵家や男爵家、子爵家の令息令嬢だった者ばかりなのだぞ? 少しは考えて喋らんか」


「やー、毎度ご迷惑をおかけします。ともあれ、それくらい独占欲が強いのに、相手には独占させないとか、筋が通らんでしょう?」


「はぁ……わかったわかった」


「第一、あんたら二人とも愛人自体作った事がないでしょうに」


「「う」」


「自分がやってもいない事を勧められたって、そもそも説得力が無いんですよ」



 まぁ、確かに私も陛下も、そして、ここにはいないがバンの奴も、愛人なぞいたためしがない。

 というよりも、大抵の貴族には愛人なぞいない。


 愛人がいたり、女遊びが激しい者はだいたい出世ができん。

 何故なら、それを弱みとして握られ、足枷になるからだ。


 その辺を理解せずにはしゃぐバカが目立つが故に、貴族とは総じて女癖の悪い無法者と誤解されるのだ……。



「あー、もうこの話はやめだ。それよりも、本来の話をしようではないか」


「「…………」」



 これには流石の私も開いた口が塞がらない思いである。

 言い出せば限がないので、キャストンも敢えて口にはせず、大人しく本来の用件を切り出す事にしたようだ。



「はぁ……ま、見ての通り、器物喪失地帯でも喪失しない装備を一通り揃えました。武器に防具、鎧下などの衣類一式に携行食糧。その他容器類や医薬品、火口など野営に必要な物等々、こちらの書類に纏めて記載してあります。まだないのは紙や筆記具でしょうかね?」



 と、差し出される書類を受け取りながら聞く。



「これだけ揃えておきながら、紙類がないというのも……」


「いえー、本来でしたら、武器・防具ができた時点で第一次報告をと思っていたんですがねー?」


「あ、うむ。分かった。皆まで言わずともよい……」



 うむ。この話題は溝を掘るだけなので、しない方が良いな。



「ま、効果のほどは後々確かめるとして……アイテムボックスに収納できないというのは?」


「教国領に入れば、いずれアイテムボックスも使えなくなります。なら最初から使わなければ良いという発想……と、同時に、『アイテムボックスにしまうな』と言っても、絶対に言う事を聞かずにアイテムボックスに収納し、いつの間にか取り出せなくなったと騒ぐド阿呆が出てくる事は目に見えています」



 さも見てきたかのように吐き捨てるが……ま、そうだな。

 そういう事をやりそうな連中の顔が、私の脳裏にもありありと浮かぶ。



「……なら、最初からアイテムボックスに収納できないようにしておけばよい……という事だな?」


「はっはっは。人の話を聞かない奴というのは、どうしても一定数出てくるからな。……なんだ、その目は?」


「「いえ、別に」」



 確かに、陛下の言う通りで、人の話を聞かない者というのは出てくる。

 何せ、本人が言うのだから、これほど信憑性のある話もあるまい。あっはっはっは……はぁ……。


 それはそれとしても、隣国へ本格的な出兵となれば、他の貴族達も兵を出す事になるだろう。

 だが、反主流派の貴族達が、どれだけこちらの忠告に従うか……はぁ、奴らの分の物資もこちらで用意せねばならんな。

 まぁ、その分連中の取り分を減らせるから、それはそれで構わんのだがな。



「どれ、私も一つ確認させてもらうとするか」



 提出された内訳書を手に、実物を確認すべく荷台に寄る。

 剣を手に取り、アイテムボックスに収納しようとするが、やはり手の中にはずっしりと重い剣が残ったままだ。



「ふむ。確かに収納できんな?」


「だろ? いったいどうなってんだか?」


「その辺は当然ながら秘密です。その代わり、そこいらの剣よりもよほど高性能だと保証しますよ」


「なに? うぅむ……おい、これは……」



 陛下が鞘から剣を抜いてみて、剣身を検分してみると、なにやら唸りだした。



「どこで手に入れた鉄だ? 一見しただけで我が国で流通している鉄よりも良質だと分かるぞ? ガリアか? いや、密輸入できる鉄はここまで質は良くないからな……」



 確かに、私も手の中にあるので分かるが、明らかに我が国で使っている鉄よりも重い。

 少し抜いて剣身を検分してみたが、斬れ味も鋭そうだ。



「原材料、及び製法は秘中の秘とさせていただきます。ま、探れるもんなら探ってみろや」


「ぐぬぬ」



 まぁ、ここまで言うからにはどうあっても教えないだろうし、防諜体制も十分なのだろうな……。

 ただでさえ貴重な密偵達に無駄な損害を与える訳にはいかんから、これは手を引いた方が良いな。



「お? この一振りだけ鞘や柄の拵えが違うが?」



 歯軋りしていた陛下の目に何か留まったらしく、他に比べて多少装飾が施されている一振りの剣を荷台から取り出した。



「あー、それですか……それはちょっと訳ありというか……」


「ふむ? 見た所、装飾以外はそう違わんと思うのだが?」



 新たな一振りを抜き、矯めつ眇めつ眺めながら言う陛下。



「指揮官用に装飾性を与えたという訳ではないのか?」


「いえ。その一振りは完全に別物でして……ま、一万聞は一行に如かずって事で実際に使ってもらいましょうか」


「「は?」」



 私の問いにも要領を得ない回答が返ってくるばかり。



「陛下。その剣を鞘に戻して、剣礼をするように胸元で構えてください」


「うむ? こうか?」


「そうです。それで、魔法詠唱における起句のように、命令形の一言の後に、その剣の名を告げてください。あ、その剣はまだ名がありませんので」


「ふむ? つまり、私にこの剣の名を付けろという事か? ふぅむ……」


「直感で良いですよ。その方がうまくいきます」


「む? そうか? では、何故かこの剣を見た時から頭に浮かんでいた物を……」



 そういうと、陛下は息を吸い込み……なんだろう、嫌な予感しかしないのだが?



「あー、陛下。しばしおm」

「輝け! コールブランド!」

「ちをって人の話をッ!?」



 人が止めるのも聞かずに、言われた通りにする直感バカ!

 案の定、剣が強烈な光を放ち始め……。



「陛下ッ!?」「公爵様ッ!」「きゃあッ?!」



 と、護衛達がその身を挺して主の盾となろうと飛び出してくる。

 そう時をおかずに光が収束すると、私の眼前には護衛や密偵達が壁となり、陛下の周りには尻餅をついている王家の密偵達の姿があった。

 そして、元凶であるキャストンはというと……。



「君も懲りないね~?」


「は・な・せーーーッ」



 何故か我が家の密偵の一人が、地面に縫い付けられたかのように背中を踏み付けられていた。

 おそらくは、あの光の中、キャストンを拘束しようとして返り討ちにあったのだろうな……。



「おぉ!? なんだこれは? どうなっているのだ?」



 という陛下の声が聞こえたので、今一度陛下の方に視線を戻すと、その手の中には先程よりも立派な剣が存在していた。



「それがその武器の本当の姿です。使用者を登録する事で、その持ち主に合わせた形状に変化します」


「おぉー……何だか、不自然に軽いのだが?」



 片手で軽々と振るうが、その風切り音はとても軽そうには聞こえない……。

 それも当然の事で、2m近い肉厚の大剣で、それを陛下が軽々と振っている事が理解できん。



「登録者限定で軽くなるようになっているだけで、他の者にとっては見た目相応の破壊力と重量なので扱う際にはご注意を」


「どれどれ?」



 物は試しと言わんばかりに、刃先を床に着ける陛下……って!?



「何をやっているんですか陛下!?」


「おぉ……確かに凄い音がしたな……」



 あろう事か、剣を手放す陛下。

 結果、切っ先が自重で床を多少貫いた後、横倒しになってズドンと重い音をさせて転がった。



「おい、ロット。お前持ってみろよ」


「えぇい、はしゃぐなって重ッ!?」



 さらにはひょいと持ち上げたかと思うと、こちらに無理矢理押し付けてくる。

 なんだこれ!? 見た目以上に重いぞ?!



「敵に奪われた場合を想定して、登録者以外には非常に重くなるようになっています」


「ば!? おま、腰! 腰がーーー!?」



 いきなり重い物を持たされたせいか、腰が悲鳴を上げた……。



「すげーな、おい! 仮に西で使えなかったとしても、東側で配備すれば」

「あ、無理なんでそれ」


「……は?」



 のたうちまわるこちらを余所に、話を続ける二人。

 薄情すぎやしませんかね!?



「『量産品』と指示したのに、最初に完成したのはこの通りの怪物武器で、製作費用も化物価格ときて……とても量産できる代物ではありません。……作った奴からしてみれば量産品かもしれませんが、こんな怪物誰もがほいほい作れてたまるか!」


「……因みに、一本お幾ら?」

「ざっと……ってところです」

「おぅ……それはちと……団長格に一振りずつ、というのも厳しいのう」

「ま、そういう訳なんで、その一振りで諦めてください」

「仕方ないのう……って、このコールブランドはどうするのだ?」

「あぁ、『戻れ』と念じれば最初の長剣に戻りますよ」

「お、本当だ……って、そうでなく」

「もう使用者登録しちゃいましたし、献上品って事で。お代、払えないでしょ?」

「んぐむむ……確かに、俺の個人資産で払うには……」

「では、貸し一つという事で、毎度あり~♪」

「ぐぬぬ……恐ろしい、死の商人マジ恐ろしい……」



 護衛達に腰を擦られながら立ち上がり、途中から声を潜めて会話を続けている二人に憤りを込めて声をかける。



「お主ら、本当は仲良いだろう?」


「「いや、全然」」



 よーし、その喧嘩買ってやろうではないか!?

拙い作品にお付き合いくださり、ありがとうございます。



色々と削って仕上げてみれば、それでも11,000字オーバー……。

これはいかんという事で、上中下の三本仕立てに変更となりました。


その代わり、(下)はほぼ出来ているので、数日中には更新できます。



~闇に葬られた1シーン~


「おい、なんだこれは?」


「え、何って、下着ですよ下着。女性用の。騎士や密偵にも女性はいるでしょう? まさか、宰相閣下は女性は下着を穿くなと? それとも、軍事行動中は同じ物を着続けろと? 流石にそれはないわー」


「誰がそんな事を言ったか!? そうではなく、何故に、その……こんなに派手なのかと……」


「え? いや、だって、それ、おたくの密偵が穿いていた物と同型ですよ?」


「は?」


「ほら、以前、こちらに密偵を送り付けてきたじゃないですか? こちらは好きなだけ調査させてあげたんですから、見返りに調査し返すのも道理でしょう? という訳で、密偵14名分の趣味思考から好きな異性の特徴、服の好みから入浴の際にはどこから洗うのか、その他色々事細かに調べさせてもらいました。この下着はその際に得た資料を基に作った物で、ひm」

「もういっそ殺してー!!」

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