幕間 二人の姫 (下)
大変長らくお待たせしました。
そして、案の定1万字オーバー……。
おぅふ……。
「ふぅー。一時はどうなる事かと思いましたが、何とか山頂に着きました♪」
伸びを一つして、新緑の風香るカルボネック山の空気を思いっきり吸い込みます。
山頂に到着し、私の感知範囲内にはグリフォンらしき気配が三つ。
じーっと、こちらを伺っているようなので、警戒されないように一旦立ち止まります。
「や、やっと、着いた……も、ダメ……」
すると、すぐ後ろに情けない声を上げながらへたり込む金髪の女が一人。
やれやれ。だから、首輪を外すなと言ったのに……あれ? 「外すな」とは言ってなかったかも?
ま、どうでもいいか。
「はいはい、王女様がみっともなく地面に座り込んだりせず、しゃきっとする」
「む、無茶を、言わない、でよ……まだ、息も、整って……ないん、だから」
まさに息も絶え絶えといった有様で、何とか返事をする残念王女様。
そう言えば、シアちゃんも最初の頃は遠出しただけでグッタリしてましたっけ?
この子、この歳でこんなに体力がないとか、城が落ちた時なんかどうするつもりなんでしょうかね?
落ち延びるにも相応の体力が要るでしょうに……。
大人しく捕まって、侵略者の慰み者になる覚悟でもあるんでしょうか?
「私はどうなっても構わないから、民には手を出さないでー」みたいな?
私なら御免被りますねー。
そんな事態に陥る前に全殺しです。
敵は勿論、邪魔な味方も纏めて綺麗さっぱり……灰か肥料か魚礁にします。
あれですね、国が滅ぶ時って、大体敵より味方風な足手纏いの方が邪魔なんですよね。
まぁ、だから、そうなる前に第一騎士団の半分に当たる無能どもには戦死してもらった訳ですが……ま、それはさておき。
「2,500m級の山を一つ登ったくらいで大げさな。第一、あなたは戦闘にも参加していないんですから、楽なものだったでしょうに?」
「山一つ登ればこうなるわよ!? というか、平気な顔してこの山を登れるあなたの方が、貴族の女性としておかしいのよ?!」
「はて? リジーさんもこの山を登るくらいは普通にできたそうですが?」
「彼女はバーナード家の人間じゃないッ!?」
酷い言い掛かりですねー。
彼女は戦闘一族の中でも、特別に一般的な令嬢教育を施されていたんですけど……『特別』なのに『一般的』とはこれいかに?
「ま、それだけはしゃぐ元気があれば、もう歩けますよね? まぁ、歩けないと言っても放置するだけですが、その時は大人しくグリフォンのお昼ご飯になってくださいね?」
「ちょッ?! ま、待ちなさいよ!」
魔法士用の杖を本来の用途である杖として使い、どうにかこうにか立ち上がる金髪王女様。
あら、やだ。生まれたての子馬みたいに、脚がぷるぷると震えてる。
すっごく突きたい可愛さだけど、本当にやるとまた喧しいでしょうから我慢しておきましょう。
「それじゃ、私から離れないで下さいね。あ、いえ、離れても構いませんが、グリフォンに私の子分ではないと判断されても知りませんから。ちょっと遅めのお昼ご飯か、ちょっと早めのおやつに良いと襲われても責任を持ちませんので」
「んなッ!? せ、せめて責任は取りなさいよ?!」
そう悲鳴を上げると、私にすがり付いてくる残念お姫様。
「ちょっと、『責任を取れ』とか、やめてくれません? 私、あなたとそんな関係になるつもりはありませんし、そもそも女同士では子供はできませんよ? あと、馴れ馴れしくしがみ付かないでくださいません? 気持ち悪いから」
「そ、そういう意味じゃないわよッ!」
と、しがみ付いていた私の腕を、癇癪を起こしたお子様が物に当たるかのように、地面に叩き付けようと投げ放してきた。
痛くはないけどイラッとしますね。
「あと、『気持ち悪い』は本当にやめなさい! その気がなくても刺さるから! グッサグサ心に刺さるからッ!」
そして、目に涙を溜めて睨み付けながら抗議してきます。
やれやれ、美少女が瞳をうるうるさせて文句を言えば、男が引き下がると分かっていますね。流石です。
が、生憎と私は女なので通じません。
それにしても、彼女をからかうために散々誘導していた訳ですが……いい加減気付かないものでしょうか?
……あれ? この子、次期女王ですよね?
私相手にこんなにあっさりと言動を誘導され、挙句未だに気付かないとか……え、この国本当に大丈夫?
「はいはい。それじゃ、行きますよ」
ま、別にいいか。
この国がどうなろうと、私にとっては割りとどうでもいいですし。ダメそうならさっさと捨てるだけです。
愛国心? そういうのは愛される国を作ってから求めて欲しいものですね。
「ちょっと、待ちなさいよッ」
さっさと歩き出した私の後を、小声で文句を言いながらも着いて来るあざとい生物養殖界愛嬌門高貴綱金髪目美乳科妹属残念種。
「なんかいま、すっごく失礼な事を考えなかった?」
「大丈夫です。常にそう思っていますから」
「なお悪いでしょうが!?」
「はて? それよりも、グリフォンの巣が見えてきましたよ」
「え゛?」
視線の先には鳥の巣のように、木の枝やら何やらで作られたグリフォンの住処が……卵で生まれるそうですから、単位は頭ではなく羽なんでしょうか?
そして、その前に親グリフォンが陣取り、背後の巣を庇うように待ち構えています。
「ヒッ!?」
それを見て、またも私の腕にしがみ付くダメっ子王女。
ここでもう一度からかうと、腕は放してもらえるでしょうが、喚かれてグリフォン達を刺激してしまいます。
それではグリフォン達が可哀相なので、ここは私が大人になってグッと堪えましょう。
「私にそういう趣味はないので、放してくれませんか? 気持ち悪い」
うん、無理でした♪
ま、基本ですよね基本。
「んなッ?! あn」
「ピュィーーーーーーーーーッ!」
「はい、ゴメンナサイ!!」
おぉ、声を荒げようとしたところで、グリフォンが機先を制して威嚇してきました。
これが世に言う『ボケとツッコミ』という物ですか? いや、違うのは分かっていますよ?
「はーい。はじめまして。私はフレア・クレフーツよ。よろしくね。これはお近付きの印にどうぞ」
幸い、腕を解放してもらえたので、私は特に気負う事もなくグリフォンに近付きます。
ある程度近付けたところで、お土産として持ってきたグレートホーンブルという牛型モンスターの肉を出しました。
「ちょ、あなた、バカなの? 死ぬの?」
四つん這いで、まさに這う這うの体といった有様の誰かさんが、小声で失礼な事を言ってます。
それに対し、グリフォンは私の出した肉隗に驚いたものの、私と肉隗を何度も見返し、その匂いを確かめます。
「クキュゥ」
私の匂いを確認して納得できたのか、グリフォンは威嚇の為に広げていた翼を畳むと、嘴で肉隗を持ち上げて回頭。巣の方へと引き上げていきます。
これはあれですね。薬の材料を採りに、よくここへ来ているお兄様の匂いが私の身体に染み付いていて、グリフォンがそれに気付いたという事ですね♪
……うん、まぁ、自分で言っててなんですが、それはないですね。
そもそも、匂いが染み付くような事をした事がありませんし……。
まぁ、おそらくは、私に勝てない事。私に敵意がない事。そして、お兄様とお揃いの装備で匂いが同じだった事で、警戒を解いたのでしょう。
いや、絶対にそうだとは言えませんよ?
単に、お肉に釣られただけかもしれませんが、そこは本人ならぬ本グリフォンのみが知る事です。
ま、それはさておいて、いよいよグリフォンのお宅訪問です!
ふんふふ~ん♪ と、鼻歌交じりに後を着いていき、母グリフォンが先程の肉隗を引き裂いて小さくし、子グリフォンに与えているところを拝見させて頂きます。
はふ~、グリフォンも可愛いですね~♪
ま、うちの天ちゃんほどではありませんが。
うーん、それはそうと、そろそろクリフにも何か生き物の面倒を見させるべきですかね?
お兄様が私に天ちゃんの卵をくれたのは……あ、丁度エステルちゃんと同じ歳の頃でしたね。
なら、クリフも後二、三年ってところですか?
でも、今エステルちゃんにだけ何かを用意するとなると、拗ねかねませんねー。
ま、これは私だけで考えても埒が明きません。
お母s……もとい、家長たるお父様を中心に皆で考えるとしましょう。
それにしても、子グリフォンが前脚で肉を押さえ、嘴で懸命に啄ばんでますね~♪
癒されます。やはり、素直な動物はいいですね~♪
……人間と違って。
特に貴族はダメです。奴らは嫉妬と怠惰と強欲と虚飾と傲慢を煮詰めて凝縮させてヒトの形にしたような連中ばかり。
私の事をどう思おうと、どうぞご自由に。ですが、両親やお兄様を悪し様に罵る輩は燃やします。
……と、建前上思いつつ、やっぱりあの程度のブスどもに貶されるのは我慢ならないので沈めます。
というかですね、「はしたない格好で平民に媚を売るだなんて、親の顔が見てみたいですわ」とか言いつつ、秘かに貴族の娘達の間でも、スカートの丈が短くなっているのはどういう事ですかね~?
庶民の間で流行っている服装や、私の舞台衣装を「脚を見せるなんてはしたない」と罵りつつ、寮の自室で一人秘かに……本当、面倒臭い生き物ですねー。
「ちょっと、どうなってんのよ!?」
ものすごーく小声で怒鳴ると言う芸当を披露しながら、背後に立……ってはいないですね……足元まで何とか這ってきたどこかの王女様。
さて、この子はいったい何に対して怒鳴っているのでしょう? んー??
「何がですか?」
考えても分からないので、素直に本人に訊いてみます。
人間、素直が一番ですね。
「何がって、あなた……」
ふー、やれやれ……。
親子グリフォンの姿に心を癒されたおかげで、珍しく素直に尋ねたというのに……返ってきたのが絶句とは、本当に訳の分からない生物ですね。
もう少し眺めていたかったのですが、このおバカさんがいたのでは、グリフォン達も落ち着けませんね。
仕方ない。私達も少し遅めの昼食と参りましょうか。
折角なので、頂上まで行って、景色を見ながら頂きましょう♪
「イタタタタッ!? ちょ、痛いわよ?!」
「ほら、つべこべ言わずに行きますよ。怯えっぱなしのあなたがいたのでは、彼らもゆっくりできません」
彼女の脚を掴み、引き摺りながら巣から離れます。
「分かった! 分かったから放して!? 自分で歩くから!!」
「でしたらどうぞ」
少々形容し難い体勢になっていたようなので、掴んでいた脚を解放してあげました。
うん。他人事とはいえ、あんな格好を殿方に見られたら、流石に拙いですね。
何やらぎゃーぎゃーと喚いていますが、取り合うだけ面倒そうなのでさっさと頂上まで移動します。
見晴らしの良い場所に敷物を敷いて、腰を落ち着けます。
アイテムボックスから今日のお弁当を取り出し、手を洗ってからいただきm……。
「じー……」
「……なんですか?」
無遠慮にヒトの顔を凝視する金髪バカが一人。
「……私の分は?」
「…………は?」
いま、このおバカさんは私の邪魔をした挙句、なんて言いやがりましたか?
「だから、私のお昼ご飯は?」
「いや、知りませんよ。ご自分のアイテムボックスから、好きなのを出せばいいじゃないですか?」
「ないわよ?」
「…………え゛?」
いやいや。ないってなんですか? え? ないの? 食料が? アイテムボックスの中に?
いやいやいや。ないって事はないでしょう? アイテムボックスですよ? この500年、大部分の人間が利用している『女神の奇跡(藁)』ですよ?
アイテムボックスに非常食の一つくらい入れておく、っていうのは常識でしょ? え? 知らない? 本当に? おう……。
「これだから王族は……」
「な、なによ?」
私が心底呆れている事くらいは理解できたのか、一瞬怯んだ様子。
「今まではどうしていたんですか?」
「え? それは、ランスロット様やシアが用意してくれていたわよ?」
絶句……していても埒が明きませんね。
「休憩中に水を飲んでいたじゃないですか? あれは?」
「そんなの、お茶を淹れる為に水を用意するのは当たり前じゃない」
「よーし、ここから突き落としちゃうぞ~♪」
きっと、それが世の為私の為です。
誰ですか、こんな残念な子を育てたのは!
「ちょっと?! なんでそうなるのよ!?」
「なんでも何も、あなたが私の想像を絶するほどに残念だからですよ……」
「え、えぇぇ……」
流石に冗談抜きで、零れ落ちるように告げたので、実感が篭っており、言われた当人も二の句が継げなかった模様。
「分かった。分かりました。分かった事にしておきます」
「それじゃあ」
「はい、あなたにはいま、四つの選択肢があります」
「……はい?」
1.王女は食わねど高楊枝。一食抜くくらい減量のうち!
2.木の根を齧って飢えを凌ぐ。次期為政者として、貧困に喘ぐ民の気持ちを理解しよう!
3.三回回ってワンと鳴く。自尊心? 何それ食べられるの?
4.お前の物は俺の物。 戦争とは即ち大義名分を掲げた略奪だ!
「さぁ、どれがいいですか?」
「う、うぅ…………ご、五番。税の徴収よ」
「ほう、それに気付きましたか」
「ふふん。当然よ。私を誰だとおm」
「では、税金を納める代わりに、国が民を守ってくださいね」
「って、へ?」
人が敢えて挙げなかった答えを見つけ出したところは褒めて上げます。
なので、すっぽりと抜け落ちている部分も追求してあげます。
「当然ですよね? 領主が民の税を徴収するのは、代わりに外敵から民を守る為なんですから。差し詰め、下山するまで私の代わりに、一人で魔物と戦ってくださいね?」
「あ、う、そ、それは……」
辺りを見回しても、誰も助けてくれませんよ。
「戦ってくださいね?」
「え、えと……」
涙を浮かべてもダメです。
「戦ってくださいね♪」
「あ、あぅ……」
◇
「糧を得るって、大変なのね……」
「頬にお弁当を付けたまま言っても、様になりませんよ」
こちらの指摘に、慌てて顔を拭くワンコ。
彼女がどの道を選んだのかは、彼女の名誉の為に言わないでおきます。
フフフ、無様可愛かったですよ♪
ま、山は降りる時の方が大変だって脅した以上、彼女の取れる道なんて一つしかない訳ですが。
いや、まぁ、『6.頭を下げてお願いする』という方法もなくはないんですけど、五番目を提示した後に自分からこれは選べませんよね~。まさに、どの面下げてってやつです。
「私って、何なのかしらね……」
「おや、これはまた哲学な……それとも、自尊心が磨耗しすぎて、記憶障害でも起きました?」
あらやだ、何か言い出しましたよこの子。
「違うわよ……恥辱に塗れ、それでもご飯は不思議と美味しくて……ふと前を見たらこの絶景……もう、色々とありすぎて、訳分かんなくなったのよ」
わー、素直で大人しいグィネヴィア王女とか、本気で鳥肌物なんですけど?
とはいえ、ここで茶化すのは敗北以外の何者でもありませんね。負けるなー、私の精神力!
「そうですか。ま、時間はまだあるので、一つ一つ整理してみては?」
「そうね……。私さ、言うまでもない事だけど、あなたが嫌い。すっごく嫌い。腸が煮えくり返るくらい嫌い」
はっはー、言ってくれやがりますね、この子。
まぁ、お互い様なんですけどね。
「理由は……正直に言うとよく分かんない。何でだろ? 私の事を嫌っているから? そんなの、そこいらの貴族令嬢にだって沢山いるわ。幾ら私でも、誰からも愛されているなんて寝惚けた事は思っていないもの」
流石の王女殿下も、そこまでお花畑な頭ではなかったようです。
ま、権謀渦巻く王宮育ち。否が応でも狸と狐の化かしあいに触れざるを得ませんか。
その辺は、正しく哀れであると思いますよ。
「それじゃあ、私に従わないから? うーん、それも何か違う気がする……。うぅん、むしろ……」
しばし、沈黙が辺りを支配します。
山頂付近はグリフォン達の縄張りなので、魔物は勿論、普通の鳥獣もいないので静かなものです。
時折通り抜ける風が非常に心地好いですね。
「ここってさ、凄く高い場所にあるわよね」
「地上から2,500mほど離れているそうですからね」
「海抜だともっと高い数字になるんだろうけど、そこまでの測量技術がないから具体的な数値は分からん」とはお兄様の言です。
「いつもより空が近くに感じられる……。ここまでさ、私、自分の足で登ったのよね……こんな高い所まで。お城よりも高い場所に、自分の足で……。見渡す景色も、お城の塔から見下ろす城下よりも、もっと遥かに先まで見える……あはは、明日は確実に筋肉痛で寝込むわね」
空を見上げて、地平線を眺めて、そして、瞼を閉じて独白し続ける。
「あなた、前に言ったわよね。兄様が嫉妬していたって。それね、実は私もなのよ。シアが凄く羨ましかった……。私達は城から外に出る事ができないのに、シアだけキャメロットの街で楽しい事をしているんだと思ったら……。どうして私は一緒に遊べないんだろう、って何度も思ったわ」
いや、まぁ、遊んでいた訳でもないんですけどね?
むしろ、遊んでいなかったんですけどね。
そこは言わぬが花という事で、大人しく黙っておきます。
「それにね、シアの事が羨ましいのは、その点だけじゃないの。うちの両親。国王夫妻。世間では理想の王と王妃だって言われているけれど、実際はそんな事はないのよ。そうね、お母様は確かに理想的な王妃ね。涙が出るくらい理想的よ。何せ、お父様の事をこれっぽっちも愛していないのに、まるでそうは感じさせないのだもの」
あー、これは極一部では知られた話ですね。
現王ウーゼルと王妃イグレインは完全な政略結婚で、イグレインには好きな男がいたが、その相手は王家によって暗殺された……と、極々一部では噂になっています。
流石に、こんな醜聞の類が娘である彼女の耳に入る事はなかったようですが……確か、真相は全然? 少し? 違うってお兄様が言っていたような?
確か……「いやー、男と女って、脳の構造上、基本的な考え方が違うってのはよく聞くけど……そりゃ、すれ違って当然だわな」とか何とか……。
うん。『脳の構造』とか平然と出てくるお兄様すげー、って事しか覚えていませんでした。てへ♪
「それが普通なんだと思っていた……。けどね? シアってば、バカみたいにアーサー様が、アーサー様がって、兄様の事ばかり話したがるのよ? あぁ、これが本当に恋をする女の子なんだなーって、羨ましかった」
思い出したのか、おかしそうに笑う王女様。
ま、確かに素直なこの笑顔は評価しても良いと思いますよ?
「……だからね、私も同じようにしてみようと思った。そうすれば、両親みたいな夫婦にならずに済むんじゃないかと思った……ホント、ランスロット様にしてみたら失礼な話よね。そのせいで、彼を殺しかけたわ……本当に、碌でもない女ね」
「そうですね。女なんて大抵は殿方にとって碌なものじゃないそうですよ」
逆も然りですけどね。
「ぷ。あなただって女でしょうに」
「いえいえ。私はまだ少女です。中身は兎も角、物理的にはまだまだ女の子なんですよ。それに、女とて、お化粧で少女の仮面を被れば良いのです」
「何よそれ? それって、やっぱり酷くない?」
笑いながら言っても、説得力がありませんね~。
「結局、私はランスロット様を愛していたのかしら? ランスロット様に愛されていたのかしら? 大事にはされていた。それは確かよ? でも、大事にされていただけで、結局はお母様と同じように、籠の中に囲われていたのよね……」
彼女達の教育方針として、王城の外に出さないようにしたのは王妃だったようです。
理由はとても単純で、「城下で遊び呆けると、ウーゼルのようになる」との事だそうで……嫌われたものですね~。
同じように、固定パーティを組んだものの、決して冒険はさせなかったというランスロットは、王妃の甥、つまりは弟の息子に当たる訳で……アロンダイト家の血のなせる業でしょうかね?
まぁ、無謀な冒険は阿呆の所業とは思いますが、自身の加護上げを蔑ろにしてまで婚約者を保護するというのは……流石に本人の意思なんでしょうかね~?
「ま、それも一つの見方ではありますが、同時に、彼の御仁もあなたの面倒を見ている間、全く成長する事ができなかった訳ですから、お相子じゃないですか?」
「!! そう、か……そういう事だったのね……」
「? 何です突然?」
まるで雷にでも打たれたかのような……いえ、雷に打たれたら普通死にますよね?
ま、とにかく、何かに気付いたのか、前触れもなく様相が変化する残念王女。
はい、神妙さは消え失せましたねー、物の見事に。
「べ、別に何でもないわよ……ただ、お父様の真意がちょっとだけ見えたってだけよ」
「はぁ、それは良かったですねー」
「えぇ……その……と」
「は? 何ですか?」
耳は良い方なんですが、聞き取れませんでした。
何だって?
「だから! その、ぁ……と」
「え? 突発性崖から飛び降りたい症候群ですか?」
つまりは、ここから叩き落すぞという意味ですが……。
「なんでよ!? だから! 『ありがとう』よ! ここへ連れてきてくれて、あ・り・が・と・うって言ってんのよ!! 察しなさいよ?!」
「はぁ?! なんですか、それ? え、ごめんなさい、鳥肌が立ちました。気持ち悪いんで、殊勝な態度とか、本当にやめてもらえません? ここ最近で一番の深手です」
「なんでよ?! 私がお礼を言うのが、そんなに変だって言うの!?」
「はい、有体に言ってその通りですよ?」
「むっきぃーー! やっぱり、あんたは嫌いッ!」
「ほ」
「本当に安堵しやがったわ、この子!?」
「えぇ、心の底から……ほ」
「うがぁーーーッ!!」
◇
「と、まぁ、帰りはこんな感じで、行きとは別方向のぐっだぐだ振りでした」
「……儂から頼んでおいてなんじゃが、本当に何やってんの?」
「え? ただの実習ですが?」
所変わって学園の研究室。
会話の相手はこの研究室の主である、マーリン学園長その人です。
「いや、それは……うーん……まぁ、とりあえず、殿下が身の丈に合わん格好で、実習に出る事はもうないんじゃな?」
「ないと思いますよ? まぁ、それでもバカをやらかすなら、もう死んでも良いのではないでしょうか? むしろ、その方がこの国の為になるのでは?」
まぁ、学園長が言うように、今回私があのポンコツ王女様と同道したのは、彼女のポンコツっプリを何とかして欲しいと、学園長に依頼されたからです。
はぁー、本当に面倒臭かった……。
「いやいやいや、流石にそれは拙いんじゃよ!?」
「政なんて、結局誰がやっても同じだと思いますけどね? 誰が玉座についても、結局は官吏が好き勝手するから……と、お兄様はおっしゃっていましたし」
「痛すぎる指摘じゃの!? というか、陛下はあれでもマシな方じゃぞ?! 大分大分マシな方じゃぞ!? 儂が言うのも何じゃが……」
まぁ、そうですね。
ウーゼル王はその辺大分とマシな王ではあります。
まー……それで苦労するのは真っ当な官吏達なんですけどね……。
ま、それもお給料の内です。
働け、馬車馬の如く♪
「えぇ、研究したいが為に、実家をまるっと潰した学園長が言えた台詞じゃありませんね、とは言わないでおきつつ」
「言ってる、言ってるぞい……」
「それはそれとして、じゃーん♪」
と、取り出だしたるは今日の戦利品♪
「……なんじゃい、それは?」
「何って、グリフォンの羽ですよ、グリフォンの♪」
「ほぅ……って、グリフォンを仕留めたのかの!?」
「え? そんな訳ないじゃないですか? グリフォン達が餌を食べている間に、巣の中から大量に抜け落ちたのを拾ったんですよ♪」
「え? そんな話はしておらんかったような?」
「別に、報告するほどの事でもないじゃないですか?」
「いやいやいや、貴重品じゃぞ!? そんな方法で入手できるのなら、学会に」
「報告なんてしませんよ? グリフォンが怯える程度の実力がなければ、そんな事出来る訳ないじゃないですか? というか、あのアバズレ神子に父親を殺された彼らの生活を、邪魔させるつもりなんてありませんよ? 焼きます? まるっとこんがりに?」
「お、おう、そうじゃ、な……で、何故にいまこれを?」
「え? そんなの、この羽の山を実習の成果として提出するので、それを基に今回の成績を算出してください、って事に決まっているじゃないですか? いつまでも、あそこの最優秀者を、あのアバズレのままにしておく訳にもいきませんので」
あのグリフォン親子のお父さんが、あのアバズレ神子に殺された。
その際の戦利品により、カルボネック山における成績最優秀者はあの……名前なんだっけ? とにかく、アバズレ神子が成績優秀者となっている。
「うん? それならば、審査課に……あぁ、そういう訳にもいかんか。わかった、そのようにしておこう」
当然、正規の手段で提出すれば、大騒ぎになる。
さっきも言ったように、全員まるっと焼き尽くしても私は構わないのだが、そうすると更に騒ぎ出すバカが後を絶たないので、こうして学園長を通して、大量得点の内訳を隠すのだ。
「ありがとうございます♪ ではでは、私は本日の観察に向かいます!」
「あぁ、うむ。……変な事はせんようにな?」
「な!? ななな、なぬを根拠にそにょような……」
「…………」
刺すような視線ががが……。
「変ナ事シナイ。約束約束、ダイジョブダイジョブ」
「……頼むぞい?」
「はーい♪」
「本当に大丈夫かのう?」という台詞を聞き流して、研究室の奥に向かう。
私が学園長の研究を手伝っているのは、それが飛び級で卒業するための条件だからである。
……というのもある事はある。
お兄様が飛び級する際、成績を理由に反対した教師が相当数いた。
お兄様は学園では目立たないように、わざと成績最低の教室に所属していたのだから、そこまでおかしな話ではない。
ま、それでも、気付いていた教師達もいて、特に反対していなかったのだから、お察しと言えばお察しである。
で、まぁ、成績を理由に反対であるというのなら、それぞれの担当教科で教師と一騎打ち! みたいな事をした結果、少なからぬ教師が退職したんですよねー。
と、いう訳で、同じ事をされては堪らないという理由で、私の飛び級には学園長の研究を手伝い、明確な成果を残す事という条件を付けられるに至った次第である。
が、これが私にとっては幸運だった。
何故なら、学園長はお兄様の依頼で、一つの研究を行っていた。
これが、私にとってはまさにご褒美だった!
学園長はここから派生した分野で、新しい義肢を作るのだそうで……えーと、誰だっけ? 何処かの貴族の子弟を実験台に忙しいという事で、丸々私に任せてくれる事になった。
ふふふ、やっほ~♪
「待ってて下さいね~、お兄様♪」
拙い作品にお付き合いくださり、ありがとうございます。
何とか、ギリギリで年内に書き上げられました。
本当にギリギリで、書き終わった後の校正もできておりません!
後書きで書きたい事も一杯あったのですが、正直なところ、眠くて倒れそうです。
どれくらい眠いかと言うと、もう些細な事で笑い出したくなるくらいテンションがおかしい状態です。
……これでまだ、年末進行なんだぜ?
年度末進行じゃないんだぜ? 笑っちゃうよな? うひゃひゃひゃひゃ!
という訳で、私は寝ます。
皆様も良いお年を~。




