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救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
悪役令嬢の新たな日々
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第17話 五月の出会い (5)

大変長らくお待たせしました。

今回は久方振りの5,000字オーバーです。

「それはつまり、お父様の代わりに私が騎士団を率いよ……という事ですね?」


「うむ」



 あぁ、やっぱり……。

 尤も、これは遅かれ早かれこうなっていた事ではありますが。



「我が家の事だけを考えれば良いのであれば、私が従軍する方が良いのだが、事が事だけにそうも言えん。すまんが、犠牲になってくれ」



 はっきりとそう告げると、お父様は頭をお下げになられました。


 それほど重要でもない戦であれば、家中の人間が率いなくても、騎士団の士気はある程度保てたでしょう。

 ですが、これほどの規模、そして、これほどの犠牲を我が家に仕えてくれている騎士達に強いる以上、公爵家の人間が率いない事には(まか)り通りません。


 では、誰がその立場に就く事が出来るかと言えば、現当主であるお父様と次期当主(予定)である私の二人のみ。

 そして、私とお父様、家の為にどちらを残すかと言う話になれば、断然私という事になります。

 まぁ、この先どちらが子供を、跡取りを作る可能性が高いかと考えれば、自ずとそういう答えになるからなんですけどね。


 ところが、お父様は現在宰相という役に就いています。

 当然ながら、戦場になど出ようものなら、国の政務が滞ってしまうのは必至。

 それに、『二大公爵家』、『ブリタニアの両翼』などなど、多大な恩恵・権威・権力を与えられている以上、「跡取りを死なせるのが恐くて戦に出せません」なんて事は通りません。

 ……ま、これはこれで、「自分が戦場に行きたくないから、娘を身代わりにした」と揶揄する人もいるでしょうけどね……。


 それでも、戦場に立つだけで加護(LV)を、魔法を、アイテムボックスを失う……そんな理不尽な場所に行けと命じる以上、率先して本人、或いはその係累が行かなければならないのです。



「……わかりました。一先ず、ロドリーゴ様の訓練と、騎士団を率いての出征は参加いたします」



 何より、私が跡取りという事になった時点で、いずれ我が領軍を率いて初陣を済まさなければならないのです。

 以前にも申し上げた通り、貴族とはそもそもが王に代わって領地をよく治め、領地を守り、いざ事あらば兵を率いて戦に参じる者の事ですから。



「それと、マーリン学園長から新しい魔法を教えてもらっておきなさい」


「……はい?」



 え? あれ?

 これから開発するのではないのですか?



「我々も、他国の人間から情報を貰っているだけではない。少なくない犠牲を出したが、ある程度の情報は掴んでいた。そんな、既知の現象に関しては対抗する術がないか、既に学園長には依頼していたのだ」


「では、何故それを?」



 先程はこれから対策を練るかのように仰っていたという事は、この話は娘である私にも言えない機密情報であったはず。

 それを突然教えてくれた理由……それは──



「お前が従軍を承知したから情報を解禁した……というのもあるが、私とて人の子だ。大事な娘が生き残る可能性を、少しでも上げたいと足掻きもする……」



 ──純粋に私を心配しての事でした。

 まぁ、そうですよね。

 何せ、私は一軍を率いるような知識を全く持ち合わせていませんからね……。


 一応、王妃教育の中には戦略論もあったのですが、こと軍事関係は王の代理として、戦略上の意思決定をする……機会がもしかしたらあるかもしれない……という程度です。

 王妃が直接戦場に立ったり、戦術を考えなければいけないなんて状況は、既に国として敗亡していますから。

 そんな事になる前に、外交で被害を最小限に抑える……というのが王妃の役割です。


 であれば、せめて生き残れるように個人の戦闘能力を上げさせたい。というのが、お父様が示せる精一杯の愛情表現でしょう。



「わかりました。お心遣いありがとうございます」


「……すまんな。お前にばかり苦労を掛けて……。これで、残るは装備に関してだが……これに関してはどうなるか分からん。担当者がいやに自信ありげだったが……最悪、生命喪失地帯と器物喪失地帯を避けるように侵攻する事になるだろう。他に比べると、この二つは見た目で判断がつき易いからな」



 ……やはり、未だに兄ガウェインの暴挙はお父様に重く圧し掛かっているようです。

 もしも、最初から子供が私一人だけであったならば、「お前にばかり」という言葉は出てきませんから。


 それはそれとして、五つの異常地帯の内、最も厄介である『生命喪失地帯』。

 これは草一本生えない不毛の地と化しているそうですから、不自然な砂場や剥き出しの地面を避ける事で踏み込まずに済むそうです。


 次に『器物喪失地帯』ですが、こちらは長い棒などを使い、その先端が削られるように消滅する事で特定できるそうです。

 勿論、戦闘中にそんな悠長な事は出来ないので、新装備の完成が望ましいですが……こればかりは蓋を開けてみないと分からないそうです。


 はぁ……本当に、予想以上に大変な事になりました……。

 本音で言えば、従軍なんて嫌ですけど……これまで、領民を守る事と引き換えに、税金で暮らしてきた身としては、否とは言えませんよね……。

 あー、その論法でいくと、政略結婚も否とは言えませんわねー……はぁ……。


 元が乙女ゲームだったからか、単に私がお間抜けだったからか、この世界の「貴族も恋愛結婚が主流」という点に、大した疑問を抱いていませんでしたが……領民の血税で養われているくせに、割と好き勝手に振舞えると言うのは、今考えると相当歪ですよね?

 それが宗教上の理由で許されるとか、宗教って本当に怖いですね……。


 と、話が逸れてますね。



「とりあえず、ある程度可能性の目途が立っている事は理解しました」


「うむ。侵攻経路の選定と輜重隊の編成はアシュフォード軍務大臣を中心に行う。……輜重隊とその護衛に、各被害者達の実家を宛がい、軍功とさせる事になる。流石に、アイテムボックスを失う状況下で、輜重隊の担う重要性とその貢献度を理解できん貴族はいないだろうからな」



 む? 何やらフラグが立った気がします……勘違いでありますように。

 あー、でも、私には直接関わってこないような? はて?



「これで、二つ目の疑問には答えられたと思うが?」


「え、あ、はい。お答え頂き、ありがとうございます」



 おっと、いけません。よく分からない第六感は横において、残りの……特に不安な点についてどうするつもりなのかを効かなければ。



「それでは三つ目。キャストンさんについては如何なさるのですか?」



 そう。元々は彼を我が家の婿養子にするという目論見があったのです。

 ……幸か不幸か全く前進していませんが……。

 ……はい、まぁ、概ね、いえ、ほぼ全て私のせいで前進していなかっただけなので、全く自慢になりませんけどね。


 それはそれとして、あの事件における被害者達の中でも、マージョラム伯爵家のセリーナ様──被害当時、三年生だったため、既に学園を卒業なされています──をはじめ、幾人かは冗談抜きで「愛人という立場でも良いので、どうか彼の傍に置いて欲しい」という声が上がっているそうなんです。


 というのも、いざ実家に戻ったは良いものの、ほぼ全ての被害女性が父親とすら顔を合わせる事が出来ず、部屋から一歩も外に出られない状態に陥ったという話です。

 しかし、キャストンさんの治療を受け始めると、徐々に、ですが確実に快方に向かったようで、中には屋敷の外に出て、領民とも普通に接する事が出来るようになった方もいらっしゃるそうです。


 そして、そういう方ほど、恋焦がれるかのようにキャストンさんの傍にいたがるようです。

 アイリーンさんやブリジットさんがまさにその先駆けであり、典型と言えますね……。


 さて、こういう方達が、「領地をあげるから、これで代わりのお婿さんを探してね」と言って納得してくれるでしょうか?

 まぁー、ほぼ確実に不満が残るでしょうねー……。


 また、それとは別に、極々単純に人材の流出を避けたいという目的もあります。

 ほら、キャストンさんですから、まず確実に官吏として出仕したりしませんし、聞くところによると、既にクレフーツ男爵家の相続権すら放棄したとの事。

 着々と、国から距離を置こうとしています。


 まかり間違って、他国に流出……なんて事にならないように、首輪とまでは言いませんが、錘くらいは付けておきたいのがブリタニアの心情です。



「うむ。それなのだが……後は、陛下にお任せする事となった」


「…………は?」



 え? どういうこと?



「あの男にも思惑はあったのだろうが、相続権の放棄はこちらにとってもありがたい話であった」


「それは、どこかの名跡を継がせるというお話ですか?」


「そうだ。公爵家に婿入りさせるには、最低でも伯爵家の名が必要だ。だが、陞爵させるにも男爵位からでは少々無理がある。そこで、断絶した家から襲爵させようとしたのだが……あやつめ、それを察して登城命令を受け取らぬように逃げ回っておった」



 えぇー……。

 それって、逃げ回れるものなんですか?

 ……まぁ、この一件特有の事情を鑑みれば、不可能ではない……かしら?


 薬の配達と治療を行うために、被害者達の下へまさに国中を駆け回っているキャストンさん。

 普通ならそんな事は不可能ですが、神馬(スレイプニル)という移動手段を知られた以上、使わない理由はなく、不可能を可能にしました。


 その反面、彼のスケジュールはおそらく国でも把握しきれないほどに厳しいものとなっているでしょう。

 何せ、材料集めから製薬・配達・治療と、全てを一人でやる訳ですから……よくも過労で倒れませんね……。


 さて、そんな状況下、例えばクレフーツ男爵家に使者をやり、彼に「いついつまでに登城せよ」と言伝たとします。

 ま、期限の日が過ぎるまで、その言伝を聴かなかった事にするでしょうね……。

 そして、理由は何にせよ、登城命令に従わなかった以上、王家は彼を、加えてクレフーツ男爵家を罰せざるを得ません。

 はい、きっと大手を振って国外退去するでしょうねー……。

 領地のない身軽な男爵家だからこそできる芸当です。


 あ、因みに、期限を定めなければ、きっといつまでたっても登城しないでしょうね。


 そういう結果が分かっているから、国側としては何とかして彼に直接登城命令を伝え、了承させなければならなかったんでしょう。

 王の代理人たる使者に「行きたくない」なんて抗命する事は、流石に分が悪過ぎて出来ませんから。

 抗命罪は最悪死罪なんですよ……。



「そして、お前の婚約者が新たに決まった以上、あやつが逃げ回る理由はない……表面上はな」


「表面上、ですか?」



 うぅん? あれ? これって、もしかして……?



「うむ。実はな、前々から陛下がグィネヴィア殿下の婚約者にあやつを宛がおうとしていたのだ」



 あぁ、やっぱりそこに繋がるんですか……。



「ですが、殿下にはランスロット様がいらっしゃるのでは? それに、イグレイン王妃様も反対なさるのではありませんか?」


「ぐ……」



 ガラティーン公爵家の娘という立場では反対できませんが、幼馴染としてはまた別という事で、言うだけ言ってみます。



「……王侯貴族としての見方で言えば、グィネヴィア殿下とランスロットの婚姻はない。アロンダイト公爵家の力が強くなりすぎる。私達の代は良いだろう。お前達の代もな。だが、その子、孫の代ではどうなる? 最悪、国が割れる可能性もある」



 あああああッ!?

 ま、まさかここで騎士ランスロットと王妃グィネヴィアの不義で、円卓が割れるという元ネタが出てくるとは……。

 ど、どうしよう……ただの元ネタと気にしないでおく?



「バンの奴もそれが分かっている。それでなくとも、元々ランスロットに後を継がせるつもりだったのだから、極力ランスロットをアロンダイト家に戻したいと思っている。その為の準備も進めているしな」



 まぁ、バン小父様も難しい立場ですよね……。

 親としては息子を応援したい気持ちもあるでしょうが、後を継いで欲しいという思いもある。

 そして、アロンダイト公爵という立場からすれば、息子の恋愛を応援する訳にはいかない、と……。



「では、ランスロット以外に婚約者として相応しい者と言えば……残念ながらもういない。一人、いるにはいたが、先走った挙句その資格も失ったしな」



 あー……はい、そんなのもいた気がしますです、はい。



「対して、あの男であれば、実家はしがない男爵家。当主である父親にも野心はなく、その立場を利用して政治に口を挟まれる心配もない。そして、あの(女傑)がいる以上、何処かの派閥に取り込まれて利用される心配もない。はっきり言えば、毒にさえならなければ、王配の振りをしてくれれば構わないのだ」


「ッ! お父様! それは流石に酷すぎるのではありませんか!?」



 王配の振り……それはつまり、生まれてくる子供の父親でなくとも良いという事で、それが意味するのは……。



「無論、これは私個人の極論だ。陛下は二人が真に夫婦となる事を望んでいらっしゃる。……まぁ、自分に出来なかった事を子供達に望むのはどうかと思うがな……」


「? それはどういう……?」



 自分に出来なかった事?

 ここでいう「自分」とは陛下の事で、話の前後から察するに、陛下はイグレイン妃殿下と真の夫婦になれなかったという事?

 あ、これ、多分知らない方が良いって類の案件です。



「いや、何でもない。とにかく、複数の貴族令嬢を侍女として召抱えさせるにも、王配という立場は良い隠れ蓑になるし、何よりもあの神馬(スレイプニル)だ。ブリタニア建国のきっかけとなった神馬(スレイプニル)を従える者が、伝説の神獣騎士と同等とも言える存在が王配となれば、それだけでグィネヴィア女王陛下に箔がつく。これは今後のブリタニアにとって、容易に手放して良いものではない」


「それは……はい、その通りです……」



 過去、ブリタニア王国に女王がいなかった訳ではありません。

 だからこそ、割とすんなりグィネの女王即位は受け入れられています。

 ですが、それはあくまで王が早世したため、緊急措置としての女王即位でした。


 今回も多少形は違いますが、似たようなものであり、グィネの権力基盤は弱いと言わざるを得ません。

 特に、それを支える両翼たる二大公爵家の片方を同じ女である私が継ぎ、アロンダイト家に至ってはどうなるか分かりません。


 これは確かに、伝説の神獣騎士なんてジョーカーがあれば欲しくなりますよね……。

 あれです。時代劇で言うところの「この紋所が~」ってやつです。


 ……はぁ、そんな納得している場合ではありませんよ、私……。

 これ、本当にどうなるんでしょう……お願いですから、キャストンさんがキレて、キャメロットが火の海になったりしませんように……。

拙い作品にお付き合いくださり、ありがとうございます。



遂に10月も下旬。

肌寒い季節となりました。

そして、更新開始からもうじき1年。1年です。


……1年経ってまだこことは……orz

本来なら、数ヶ月で終わらせるはずの習作だったのに、色々と書く内容が増えたり、逆に執筆時間が減ったりで、終わりがまだ遠いです!

本当にごめんなさい。


とりあえず、今後の予定としては、5月の話がもう少々。

そして、6月・夏季休暇・9月と続いて、いよいよ最終章の戦争突入です。多分。

10月から戦争までの話はほぼほぼ戦争の準備期間ですしお寿司……。

こう、ね? 日常のらぶいちゃシーンとか書けぬですよ……てへり。

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