第16話 五月の出会い (4)
大変長らくお待たせしました。
「理解はしてもらえたようだな」
「理由は分かりました。ですが、三つ……いえ、四つ、お聴きしたい事があります」
私がこの政略結婚の目的を理解したと見え、安堵の溜息とも取れないような息を一つ吐くお父様。
しかし、それではまだ解決していない問題があります。
「四つ、か? 言ってみなさい」
「はい。一つは、この資料に書かれている事が事実であるなら、人が住めない土地を賠償として支払っても、誰も納得しません」
一般的に貴族が領地を治める事で得られる物というのは、ずばり税収です。
そして、税収を得るには、税金を納めてくれる領民がいないとなりません。当然の事ですね。
では、人が住めない土地をもらって、税収を得られるでしょうか?
「うむ。当然の疑問ではあるが、その答えは資料に書かれている。まだ読んでいないようだがな」
「……そうなのですか?」
あらやだ。まだ目を通していないところに書かれているんですね。
「ロドリーゴ殿達が潜んでいた地は、加護喪失地帯にされてしまったようでな……。その時に魔女・酒月 聖、正確には魔女の姿をした木人形と遭遇……いや、追われたそうだ」
「は? あ、いえ、続けてください」
色々と衝撃的な内容を聴かされたものの、それがこの問題と何の関係があるのかと思い、疑問の声を上げそうになりましたが……続きを聞けば分かるのだろうと思い直しました。
「うむ。結果として、魔女の姿をしていた木人形は大木と化し、切り倒された後に根こそぎ消されたのだが、報告では加護が失われる結界のような物は消失したそうだ。そして、他の加護喪失地帯となっている場所の中心にも、不自然なほどに大木が聳え立っているという話だ」
「それは、その大木が加護を喪失させていた原因であり、それさえ除けば安全という事ですか?」
「おそらくな。まだ誰も派遣していないから、確たる情報ではないが……非常に信用度の高い情報でもある。同じように、各異常地帯にも、中心地に要となる不自然な物体があるそうだ。曰く、消えない火柱が立っている。曰く、尽きない水柱が立っている……とな」
それは、確かに大木が聳え立っているよりも不自然ですね……。
とりあえず、まだ確定した情報ではないですが、これらの土地を正常に戻す方策はあるという事ですね。
「なるほど。では、二つ目です。これらの土地を、どうやって魔族から解放するのですか? 加護を失い、武器を失い、魔法を失い、あまつさえ糧食まで失うとあっては、戦いにすらならないと思うのですが?」
「尤もな疑問だな。まず、最初に訂正するが、敵は魔族ではなく、モンスターの群れを率いる魔女だ」
「…………はい?」
え、どういう事ですか?
色々とおかしな事になってはいますが、現在の状況はゲームで言うところの魔王ルートですよね?
そうでなくとも、「人間対魔族」という図式は全ルート共通だったはずです。
それなのに、敵はヒロイン率いるモンスター群?
魔王率いる魔族軍+ヒロインではなく?
「まぁ、驚くのも無理はないが、魔族の軍勢は魔女一人の手によって壊滅したそうだ。これも、非常に確度の高い筋からの情報だ。そして、ウェストパニアを制圧した後は間違いなくブリタニアへ牙を剥くだろう。なにせ、我々に復讐したいそうだからな」
「なッ!?」
いや、それは、え、えぇッ?!
復讐? 誰が? 酒月 聖が? 誰に? 私に? 何故???
私が彼女を恨む事はあっても、彼女が私を恨む理由ってないと思うのですか?
事実上の追放を恨んだとか?
それだって、ほぼ全部自業自得だと思うのですが?
何より、私自身は彼女に対して全く歯が立たなかったんですが?
……全然自慢になりませんね……。
もしかして、ゲームの頃はキャストン・クレフーツといえばグレイシアの使い走りでしたから、全部私が仕組んだ事だと思われたとか?
それにしたって、結局はハーレムルートで攻略対象全員と……その、ただならぬ関係になった自業自得だと思うのですが……。
「そういう訳で、一連の不可解な現象が『女神の天罰』などと言われぬ内に、『魔女の呪い』として国内流入前に終息させねばならん。そこまでは分かるな?」
「は、はい。しかし……」
それは更なる理由であって、具体的な解決策ではありません。
精神論で戦争はできないというのは、日本人の痛い教訓です。
「無論、対策はある。先程も言ったように、ロドリーゴ殿は既に加護を失っているのだが、それでもなおダイアウルフを一刀両断したそうだ」
「……え゛?」
いやいや、待って下さい。
ダイアウルフって、あのダイアウルフですか?
ゲームクリア後のおまけステージに出てくる大きい狼系のモンスター。
あれって、LV50はないと話にならないモンスターだったと思うのですが、それを一刀両断? LV0で?
あら、こんなところにも化物が……。
「まぁ、驚くのも無理はないが、他にも加護のない25人だけで、魔法もなしに野生のワイバーンを討伐した事例もある。鍛え方次第で、加護がなくとも戦えるというのがロドリーゴ殿の論だ」
ワイバーンって、空を飛んでいるドラゴンみたいな魔獣ですよね?
あれも、ゲームでは大型ボスだったんですが、魔法なしLVなしでどうやって?
25人と、ゲームのパーティ人数よりもはるかに多いですが、それにしても……。
「なので、第二騎士団と我がガラティーン騎士団の団員を彼に鍛え直してもらう事で、加護を失っても戦闘が可能な軍を編成する。他にも、マーリン学園長をはじめとした各方面に、これらの事態に耐えうる新魔法・新装備の研究、開発を依頼する。更に、アイテムボックスの問題も、輜重隊の編成と補給路の確保で解決を図る。これにより、件の異常地帯のうち、生命喪失地帯以外は通過できるようになる見通しだ」
「待って下さい。魔法と装備に関しては、些か希望的観測が過ぎるのではありませんか? いえ、剣聖様による騎士団の再訓練も、この500年の間に失われた輜重隊という部隊運用も、少なからぬ希望が含まれていると思います」
神聖パニア教国が大陸を統一できた背景には、輜重隊の廃止というものがあります。
アイテムボックスを全国民が所有出来るようになり、物資輸送の概念が吹き飛んだからですね。
そして、大陸統一から500年近くが経ち、輜重隊の運用ノウハウは綺麗さっぱりなくなっています。
「うむ……まぁ、そうなのだが……グレイシア。ここで一つ、お前に非常に心苦しい事を命じなければならない……」
「は? あの、それはいったい?」
突如、本当に申し訳なさそうな表情でお父様が私を見ます。
いや、勝手に婚約者を決められる事よりも心苦しい事って何ですか?
「剣聖殿の施す訓練は非常に厳しいものになるらしい。それはもう、これまでの訓練など、ただのお遊戯だと言い切られたほどだ。第二騎士団やガラティーン騎士団の精鋭と言えど、少なからず脱落するだろうと言われた……」
「は、はぁ……」
「その訓練にな……」
あ、この流れは本格的に危ない奴です……。
「お前も参加して欲しい」
ほらね……。
拙い作品にお付き合いくださり、ありがとうございます。
ここ最近、人型兵器SFモノを書きたいなーと思い、世界観や設定を練っていたのですが……人型って、戦闘機や戦車と比べて、兵器としては非効率的なんですよね……。
特に足回りが絶望的。
これを覆すほどの利点がない事には、兵器として人型にする理由ってないんですよね……。
精々、新技術模索のための、試作実験機小隊を作る程度?
某宇宙世紀の不思議粒子や、某ハイマニューバファンタジーの人工筋肉&人間のブラックボックスみたいな理由付けがない限り、SFで人型兵器ってロマンでしかないのでせうか……。




