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救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
悪役令嬢の新たな日々
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第14話 五月の出会い (2)

大変長らくお待たせしました。

「いいですか、グレイシア。王妃たる者、一に微笑み、二に微笑み、三四も微笑みで五も微笑みです。喜怒哀楽全ての感情を微笑みの仮面の下に隠しなさい。喜怒哀楽全ての表情を微笑みの仮面で表現しなさい。何故なら、私達が相対するのは童歌を歌う童女ではなく、魑魅魍魎、狐狸妖怪の化生どもです。決して、こちらの心意を、感情を読まれてはなりません。なに、今すぐに身に着けろとはいいません。あなたが学園に入学するまでの10年の内にものになれば十分です。それでは、最初の訓練として、これからあなたを擽ります。一瞬でも長く、微笑みを浮かべていなさいね」



 はッ!?

 あまりの事態に、過去のトラウマ(王妃修行)が脳内を占め、辛うじて顔合わせを微笑みを浮かべて乗り切りました。

 尤も、その代償に私は自分が口にした事も、相手が口にした事もあまりよく覚えていませんけど……。


 それにしても、私が10年掛けて身体に刻み付けられた(教え込まれた)アレやコレやを、酒月 聖はどうやってクリアするつもりだったんでしょうかね?

 因みに、擽り地獄の後は、激辛料理を汗一つかかず、表情一つ変えずに食べるという、テーブルマナーも兼ねた更なる地獄でした。皿だけに?


 と、話が逸れました。



「それで、お父様。これはいったいどういう事なのでしょうか? お父様の深慮遠謀のほどをお聞かせいただきたく思います」



 そう。いま大事なのはそこです。


 顔合わせを済ませ、お父様の執務室に移動した後、椅子に座るお父様の正面に立って問い質します。



「わかった。今からちゃんと説明するから、その王妃様仕込の威圧は止しなさい」



 私だって、怒る時は怒るのですよ。まったく……。



「さて、まずは何から話したものか……そうだな、我が家のおかれている現状からとするか」



 そう前置きしたお父様が明かした我が家の現状とは以下の通りでした。


 まず、兄ガウェインが引き起こした事件の経過に関してですが、教会旧派のペリノア子爵家とジャギエルカ伯爵家が取り潰され、それぞれの領地を解体。いくつかの教会旧派の家に新たに下賜されました。

 そして、その新たに領地を与えられた貴族というのが、あの事件における教会旧派の被害者達の実家です。


 とは言え、貰った貴族としてはそれらの領地は飛び地となるので、そのままでは領地を治めるのに支障があります。

 そこで、新たに分家として男爵家を興す許可も与えられました。

 つまりは、被害に遭った娘達を女男爵とする事で、新領地を彼女らの嫁入り道具ならぬ『婿取り道具』として、有利な条件で婿探しをする事も可能となった訳です。


 これにより、修道院に入る事になっていた二人の被害者を含め、教会旧派の被害者達への賠償は一応の解決となりました。

 同様に、ライオネル司教をはじめとした、イーストパニア法国に内通していた教会新派貴族達の家も取り潰しとなり、それらの領地を教会新派に属する被害者達の家に割譲。同じ手順で教会新派への賠償も解決する目途が立ちました。


 これで、残るは主流派と反主流派の被害者への賠償となる訳ですが……残念ながら、こちらの方はまだ目途が立っていません。

 特に敵対派閥である反主流派への賠償が問題です。

 何せ、今の所は取り潰されたり、領地を取り上げられるほどの失態を犯した反主流派貴族がいないので、同じ手法が使えません。


 本来であれば、我がガラティーン公爵家やエクトル侯爵家をはじめとした、加害者を出してしまった家の領地を取り上げるのが筋なのでしょうが、それをすると折角隠し通せた被害者達の事も明るみに出てしまいます。



「そこで、割譲する土地がないのであれば、新たに獲得してそれを優先的に配すれば良い……という訳だ」


「新たに獲得って、戦争をするおつもりですか?!」


「少し違う。これを見なさい」



 元日本人として、侵略戦争に忌避感のあった私は思わず身を乗り出して問い質してみるも、お父様は落ち着いた様子で執務机の抽斗から書類を取り出されました。



「これは?」


「グレンデス殿達が提供してくれた情報だ」



 そこには、ウェストパニア教国の地図が描かれており、その大半が小さな円に囲われています。

 その円の縁に数パターンの斜線や点を施す事で、いくつかに区分けされているようです。

 この円は何でしょうか?



「見ての通り、教国は風前の灯と言った有様でな……仮に今すぐ教国に十分な援軍を派遣して、たちどころにこれらの領地を奪還したとしても……人がおらんのだ。特に為政者がな」


「な!? それほどに状況は悪いのですか?!」



 ……いや、ゲームでの展開を考えると、これはそれほど大げさな話ではありませんね……。

 ゲームでは、神子が学園を卒業した辺りで、魔族のブリタニア侵攻が始まります。

 つまりは、今から約1年後には教国の制圧が完了しているという事。


 流石に、それで教国の人間が一人残らず死に絶えたとは思えませんが、それでも大陸一の大国であった広大な国土を、問題なく治められるかと問えば……。


 そして、ブリタニア王国が援軍を派遣して国土を回復したとなれば、当然それ相応の対価を払う必要があります。

 となれば、治めきれない土地で支払うという事になるでしょう。

 ……ここで、教国が支払いを渋れば、派遣した援軍がそのまま侵攻軍に早変わりするでしょうね。


 まぁ、全部取らぬ狸の皮算用ですけどね。



「うむ。見ての通り、教国の大半が人の住めない土地となってしまった」


「……は?」


「そして、その領域は今もなお拡大の一途を辿っている。このままでは、遠からず我が国にも同じ現象が起こる可能性がある」



 いや、いやいやいや、何を仰っているんですか??

 え? 人が住めない? え? どういう事? 砂漠化してるとか?



「お父様、こちらの書類を拝見させて頂いてもよろしいですか?」



 何やら前提となる情報が大きく食い違っているようなので、執務机の上に出された資料を精査する許可を得て、改めて内容を確認します。

 それによると、先程の小さな円は、以下の五種類の地域に該当する箇所を分類しているようです。


加護(LV)喪失地帯:この領域に入った者は加護(LV)を失い、各種能力(ステータス)が0になる。魔女(酒月 聖)にそっくりな木人形が目撃されていた。


・器物喪失地帯:この領域内ではあらゆる『命』なき物が存在できない。武器・防具・衣類・食料の区別なく、討伐されたモンスターのように光の中に消える。更には、死骸の類も残されていない。但し、植物は枯れない限り無事な模様。


・生命喪失地帯:この領域内ではあらゆる『命』ある者が存在できない。先の器物喪失地帯とは真逆とも言える領域。人間など、生ある者は肉体が徐々に光となって消えていく。植物が一切生えていない為、外から見分けるのは比較的容易。


・アイテムボックス喪失地帯:この領域に入った者はアイテムボックスを失い、収納する事も取り出す事も、二度と出来なくなる模様。


・魔力喪失地帯:この領域に入った者は魔力を失い、生活魔法・戦闘魔法・回復魔法の区別なく、二度と魔法を使用する事が出来なくなる模様。


  追記

 なお、加護(LV)・アイテムボックス・魔法、そのいずれもが再度洗礼の秘蹟を受けても戻らず、現時点では回復の見込みがありません。



 ざっと要約すると、このような事が書かれていました。

 ……って、なんですかこれは!?

 この世界を根底から覆す事象ばかりじゃないですか?!


 モンスターが存在するこの世界において、LVは戦闘力その物として必須ですし、アイテムボックスは物流の要。

 この世界にはトラックも貨物列車もありません。


 魔法にいたってはインフラと言って間違いありません。

 王都のように上下水道が整っているところなんて、都市部以外にはありませんし、場所によっては完全に個人の生活魔法頼りな場合もあります。


 他の二つにいたっては、そもそも生きる事自体が成り立ちません。



「な、なんなのですか、これは?」


「教国のお三方と……我が家の密偵達が命と引き換えにもたらしてくれた情報だ。これを見よ」



 更に二つの箱が机の上に取り出されました。



「これには、王家とアロンダイト家にそれぞれ仕えていた密偵達の遺品が収められている。誰が持ってきたか、分かるな?」


「それは……教国のお三方ですか?」



 話の流れからすると、そう言わせたいのだと思います。



「同様の物が我が家にも届けられた。この情報と一緒にな」



 あー、これは……おそらく嘘は言っていないけど、こっちが勘違いするように誘導されています。

 何故って、私の回答にお父様は肯定も否定もせず、話を続けましたから。

 でも、貴族って大体こんな風に明言を避けて、自分に都合が良いように相手を誘導するんですよね……。



「これらを手土産にすれば、バンのやつも彼らの滞在に異は唱えないだろう」



 ……はい? 何故ここでアロンダイト公爵のお名前が出てくるのでしょう?



「バン小父様が異を唱えるとはどういう事ですか? それに、教国の状態は分かりましたが、それと彼、クレメンテ様を私の婚約者にするというのと何の関係があるのですか?」



 そう。結局の所、この世界に異常事態が起きているのは分かったけれど、肝心の新しい婚約者候補を擁立する理由が見えてきません。



「……いや、何を言っているのだ? 剣聖ロドリーゴと言えば、先代アロンダイト公爵とは因縁浅からぬ関係だというのは、軍事に疎い者でも、我が国の人間なら知っているだろう?」



 …………え? 剣聖、様? 誰が? え、あの老紳士が?

 あの、20年ほど前の戦争で、追撃するブリタニア軍を少数で押し留め、国境を死守したという、大陸最強の騎士?

 えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?

拙い作品にお付き合いくださり、ありがとうございます。



TRPGにおいて、GMを経験した事のある方ならお分かりいただけると思いますが……言質を取られないようにプレイヤーと会話するのって、基本ですよね?

そして、プレイヤーを経験した事のある方ならお分かりいただけると思いますが……GMの怪しい発言は必ず言質を取りにいきますよね?


ですが、現実ではこういう場合、「空気を読め」って合図だったりする事もあります。

まったく……そんなのが読めるんだったら、ぼっちなんてしていません。

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