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救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
悪役令嬢の新たな日々
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第13話 五月の出会い (1)

お待たせしました。

いよいよ本編に彼らが合流します。

 5月17日。快晴。ただし、私の心は曇り模様……。


 本来であればまだ平日であり、授業及び生徒会業務──5月のイベントである男子戦技会と女子魔法戦技会は大した盛り上がりもなく終了し、その後始末諸々──があるのですが、父から緊急の呼び出しがあり、こうして王都のガラティーン公爵屋敷に参った次第です。


 先日の一件以来心ここにあらずといった有様だったところに、アイリーンさんからの定期連絡がトドメとなり、グィネにすら『使えない』宣告をされたという事情もあります。

 ついでに2,3日休養がてら気持ちの整理をしてこいって事です。



「ただいまもどりました」



 馬車から降りて玄関に向かうと、家令が出迎えてくれていたので帰宅を告げます。



「お帰りなさいませ、お嬢様。旦那様がお待ちですが、如何なさいますか?」



 執事ではなく家令をわざわざ迎えに立たせていたのだから、今すぐに来いという事なのでしょうが……彼が私の意志を確認せざるを得ないほど、私って酷い状態に見えますか? 見えるんですね……。



「わかりました。すぐに向かいます」


「……畏まりました。ご案内致します」


「えぇ、お願いします」



 手荷物をメイドに預け、家令の案内に従う。

 荷物なんて、全部アイテムボックスに入れておけばとも思うのだけど、一応貴族、それも公爵家なんて大身ともなれば、人を使わないといけない。

 それが体面であり、積極的な雇用の創出でもあるのだから仕方がない。

 お金は溜め込むだけじゃダメ。って言うのは今世も前世も変わりないものね。


 って、あら?



「では、こちらでお着替え下さい」


「え、着替えってここは」


「お嬢様、失礼致します」


「え? え? え??」



 後ろから付き従ってきていたメイド達が二人、有無を言わさず連行するかのように私の脇を固め、残りのメイド達が脱衣所の扉を開く。



「いや、あの、なんでお風呂に??」


「……申し訳ありません、お嬢様。お叱りは後で受けますので、本日ばかりはご容赦を……やりなさい」


「かしこまりました」


「いやいや、お風呂入るくらい一人で」

「さ、参りますよお嬢様。本日は念入りに徹底的に隅々まで磨きますので」

「ちょッ!? 待っ?!」



 ◇ ◇ ◇



「うぅ……もうお嫁に行けない……」



 念入りに、徹底的に、それこそ余す所なく隅々まで洗われました……私は汚物ですか!?

 前世の記憶がある私は、一人でお風呂に入れる年齢になってからは、そこだけは死守(着替えはこちらが折れました……おのれ、雇用創出め)していたのですが……どういう訳か、今日に限っては一切耳を傾けてもらえませんでした。



「大丈夫です、お嬢様。お婿を貰いますので」



 誰がうまい事を言えと……それは、私はどの道お嫁には行けませんけれど……。



「それに、何なのですか、このドレスは? どこかの夜会にもでも出席するのですか?」



 そう。拾ってきた小犬を洗うかのように丸洗いされ、高級エステかのようなマッサージを施された後、私はメイド達の着せ替え人形かのように髪を整えられ、次から次へとドレスを着せられては脱がされていくという……あれ? 私は本当に公爵令嬢でしょうか?


 で、鏡に映った姿を見てみると……あー……やっぱりこの姿に行き着くんですね……。

 古式ゆかしいお嬢様キャラの象徴『縦ロール』に真紅(スカーレット)の豪奢なプリンセスラインドレス……。

 そこには、昔懐かしい悪役令嬢グレイシアの姿が映っていました。うわーーーん。


 それにしても、ゲームのグレイシアは『氷河』なんて名前の割にイメージカラーは赤ですし、属性も火と真逆もいいところ。何の皮肉なんでしょう?



「申し訳ありません、お嬢様。その答えをお伝えする権限を有しておりません」



 まぁ、その回答は予想の範疇でしたので、特に思うところもありませんでしたが……。

 ふむ……やはりここでしたか……。



「お嬢様をお連れ致しました」



 先導するメイドがノックしたのは応接室の扉。

 屋敷に呼び出し、帰ってくるなり徹底的に身嗜みを整えさせられたとあっては、どこかの夜会に連れて行かれるか、大事なお客様がいらっしゃったかのどちらかくらいなものです。

 ……家庭内限定ファッションショーのモデルをやらされたのは子供の頃くらいで、流石にこの歳になってその可能性はないはずです。



「入りなさい」



 お父様の許可をえて、メイドが扉を開いて私に道を譲る。

 それにしても、ここまでするお客様って誰かしら?



「お父様、ただいま戻りました」



 応接室の中にはお父様の他にお客様もいらっしゃるので、カーテシーをして帰宅した旨を伝えます。

 ちらりと視界に入ったのは60代ほどの老紳士がお一方と、中学生くらいの子供がお二方。



「うむ。お客様にもご挨拶なさい」


「はい。初めてお目にかかります。ロット・オークニー・ガラティーンの娘、グレイシア・ガラティーンと申します。どうぞ、気軽にグレイシアとお呼び下さい。弱輩ゆえに至らぬ点も多々あると思いますが、何卒よろしくお願いいたします」



 お父様の対面に座っていらっしゃるお三方に向き直り、続けてカーテシーをしてから口上を述べさせていただきました。

 あ、因みに、オークニーというのは『魔剣ガラティーン』を下賜されるよりも以前から持っていた家名であり、当主が名乗る正式な名の一つです。普段は省略するんですけど、相手がどのような立場の方なのか分かりませんでしたから。



「ひゃい! こ、ここここちらこそ、よ、よろしくおねがいします!!」



 すると、男の子の方が緊張しながら立ち上がり、つっかえつっかえ返事をしてくれました。

 はて? 何故にここまで緊張されているのでしょうか?


 そんな男の子の姿を見て、女の子は呆れたような溜息をそっと吐き、老紳士は微笑とも苦笑ともつかない笑みを浮かべ立ち上がると──



「これはご丁寧な挨拶を賜り、おそれいります。私はロドリーゴと申します。家名はありませんので、遠慮なく名でお呼び下さい。隣国ウェストパニア教国より参りましたが、縁あって今はお父君のガラティーン公爵閣下のお世話になっております。こちらこそ、他国の者ゆえ不調法があるとは思いますが、何卒お目こぼしのほどを賜りたく思います」



 ──と、見事な挙手の敬礼で答礼してくださいました。

 ……はて? ロドリーゴ?

 どこかで聞いたような……?



「同じく、隣国ウェストパニア教国から参りました、アウロラ・グレンデスと申します。故あって田舎暮らしであった為に、何かと目に付くと思いますが、何卒ご容赦いただきたく思います。どうぞ、お気軽にアウロラとお呼び下さい」



 続いて、女の子が立ち上がり、同じくカーテシーで答礼してくれました。

 って、グレンデス?

 確か、教皇サンチョ2世猊下の家名もグレンデスだったような?



「さ、先程は失礼致しました。アウロラの弟、クレメンテ・グレンデスと申します。そ、その、どうぞ、クレメンテとお呼び下さい。あの、この通り不束者ですが、末永い目で見ていただきたく思います……」



 最後に、男の子が慌てたように忙しなく挙手の敬礼で答礼し、お二方のフォローと最初の無作法を恥じたのか、顔中を真っ赤にして最後の方は消え入りそうな声になりながらも挨拶をしてくれました。

 髪といい顔の造詣といい、女の子とそっくりだから兄弟だと思ってはいましたが、本当に姉弟だったようです。



「さて……今日お前を皆さんに紹介したのは他でもない」



 お三方が着席し、私も父の隣に座った後に二、三軽く言葉を交わしたところで、父が口を開きます。

 それにしても、クレメンテ君は何故にモジモジしているのでしょうか? お手洗い?



「実は、クレメンテ殿をお前の婚約者にと考えているのだ」



 あぁ、なるほど。これは所謂お見合いって事ですねって、はいィィィィィィィィッ!!??

拙い作品にお付き合いくださり、ありがとうございます。



という訳で、廃スペック爺さんご一行の本編合流です。

実は、この5月のお話、大筋の結果は決まっているのですが、細かい部分は全然決まっていません!

なので、更新速度はちょっと遅くなるかも……。


そして、次話はまたもや別視点!

本当にすみません。

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