表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
悪役令嬢の新たな日々
74/103

幕間 帰ってきた男

お待たせしました。

ちょっと長めの4000字オーバー。

そして、幕間という事で、グレイシア以外の視点です。

 長い廊下を歩く。

 最後にこの廊下を歩いてから4ヶ月程が経っているが、懐かしいとは感じない。

 それはそうか。そんな感傷に浸る資格なんて、俺にはないのだから。


 それにしても、俺のいなかったこの4ヶ月で、王都も大分様変わりしたと言えよう。


 先月には、教会新派の一部がイーストパニア法国と内通していた事が発覚し、大騒ぎになった。

 俺がこうして再び学園の廊下を歩いていられるのも、それが関係していると言える。


 その後にも、ウェストパニアへの援軍が神子の裏切りにより壊滅し、王子を筆頭に多数の戦死も発表され、神子──今では魔女と改められている──を召喚した教会旧派の責任が追及され、ボールス枢機卿も失脚した。


 今月に入ってからも色々とあったようで、反主流派貴族は水面下で内輪揉めのまっ最中のようだ。

 今では主流派の春かと言えなくもないが……まぁ、主流派は主流派で問題がない訳でもなさそうだ。


 そうこうしているうちに目的の部屋に辿り着き、おとないを報せようと右手を挙げたところで義肢が目に入り、思い出す……もう、右手はないのだと。

 早く慣れないとな、と思いつつ、左手で扉を叩く事四度。



「どなたですか?」



 室内から誰何を返しつつ、扉が開かれて一人の男子生徒が顔を覗かせる。



「え……リオネス、先輩?」



 俺の顔を見て驚きに染まる後輩の顔。

 しかし、意外に思ったのはこちらも同じ事。はて、こいつよりも先に生徒会へ誘われる家の人間がいたはずだが?



「グィネヴィア殿下とグレイシア様に面会を申し込みたいのだが、繋いでくれないか?」



 尤も、そんな疑問はおくびにも出さず、用件を伝える。



「あ、いや、でも……」



 まぁ、「はい、分かりました」とすんなり通される訳も無い。

 今ならそれほどの事を仕出かしたという自覚はあるし、何よりあちらは生徒会の業務を行っている最中だろう。

 後で結果を伝えてくれれば良いのだから、一先ずの目的は果たしたと言える。



「後で面会日時を伝えてくれれば」

「入りなさい」



 「良い」と続けようとしたところで、奥から凛とした声が聞こえてきた。



「……どうぞ」



 後輩と無言で顔を見合わせ、おそるおそる室内に招き入れられる。

 聞こえてきたのは殿下の声だったが、あからさまに不機嫌そうだったからな。

 俺のとばっちりでいらぬ勘気を被りたくはないのだろう。



「久し振りね、トリスタン・リオネス」



 応接室に通され、さして待つ事もなくグィネヴィア殿下が席に着かれた。

 後ろには、ここまで案内してきた男子生徒が一人いるだけで、グレイシア様はいらっしゃらない。



「この度は寛大にもお目通り頂き」

「あぁ、そういうのはいいわ。『ご機嫌麗しく』なんて言われたら、流石に耐える自信がないもの」



 まともに挨拶一つさせてもらえない。

 まぁ、それも自業自得だな。



「それで、今日は何の用かしら」


「はい。明日より、三年生として学園に復学する事になりましたので、そのご挨拶と……グレイシア様へ謝罪いたしたく、伺わせて頂きました」


「謝罪、ね……」



 やはり、信じてはもらえないようだ……。



「殿下。僭越ではありますが、身の上話をさせて頂いてもよろしいでしょうか」


「あら、どんな言い訳を聞かせてもらえるのかしら? 楽しみだわ」



 う……まったくもってその通りなのだが……はて、殿下はこんな性格だったか?

 いや、私的な交流があった訳でもないのだから、俺が知っている彼女は立場に合わせたものと見るべきか。

 まぁ、それは構わない。今は俺の身の上についてだ。


 俺には少し年の離れた兄がいた。

 文武に優れ、国境守護の役目もある辺境伯家の跡取りとしては申し分のない兄だった。


 俺も幼いながらも、武官として、リオネスの騎士として兄を支えよう。と、そんな将来を夢見ていた……。

 だが、敬愛する兄は事故でこの世を去った……まだ俺が10歳の頃の事だ。


 長男が早世した以上、次男である俺が次の跡取りとなった。

 しかし、武に関してはともかく、文に関して俺は兄に遠く及ばなかった。

 その事に対して、父をはじめとして、誰も文句を言わなかった。

 兄と比較するような事も、誰もしなかった。ただ一人、俺自身を除いて。


 そして、秘かに余裕をなくしていた俺は出会ってしまったのだ。

 あの、酒月 聖に……。



「で、縁も所縁も、この世界の人間ですらない彼女に慰められて絆されたと?」


「はい……今にして思えば、愚かという言葉ですら足りませんでした」


「えぇ、本当にね」



 ただ彼女に惚れただけならまだ良かった。

 ただ彼女と関係を持っただけならまだマシだった。


 辺境伯家の跡取りという事を忘れて、他の男とも関係を持っている女に入れ込んだ挙句、王子の婚約者である公爵令嬢を公衆の面前で吊るし上げる……。

 なんだ、これは?

 自分で言ってて意味が分からない。


 本当に、あの時の俺をぶん殴りたい!



「それで済めばまだ良かったでしょうに……」


「……はい」



 殿下の言う通り、俺は勘違いも甚だしい正義感で、彼女を守ろうと父が止めるのも聞かずにウェストパニアへの援軍……今にして思えば懲罰軍に志願。

 その果てに彼女に殺されそうになり、我が家に仕えてくれていた大事な騎士達を50人と、バカな男の片手と片足を失った。


 それだけで済んだのはまさに奇跡としか言いようがない。

 片手を失い、止血する暇もなく馬を走らせるだけで精一杯だった俺を、リオネスの騎士達は追撃してくるダイアウルフから、文字通り命懸けで守ってくれていた。



「ダイアウルフですって!? なんでそんな凶暴なモンスターが軍の進路に?」


「……聖です。彼女の影から、ヒュージベアと一緒に溢れ出てきました」


「な!?」



 ま、それは驚くだろうな。

 ヒュージベアもダイアウルフも、人里から遠く離れた僻地にしか現れない凶暴なモンスターだ。

 そこいらの騎士では歯が立たない。


 あれを見て今も生きている者なんて、本当に俺くらいなものだというのに、聖の今の呼び名が『魔女』というのだから、その奇妙な一致に思う事がないではない。


 それはそれとして、血を失い過ぎた事で俺の意識は朦朧とし、馬から転落してしまった。

 幸いにも、落馬自体は大した怪我をする事もなかったのだが、結果として騎士達の防衛網から外れてしまった俺に一頭のダイアウルフが強襲。足を食い千切られてしまった。


 あぁ、これはもうダメだな、と覚悟をしたその時、どういう訳かダイアウルフどもは一斉に退却しはじめた……。


 突然の行動に呆気に採られたものの、騎士達はモンスターどもの襲撃を警戒しつつ態勢を建て直し、俺も治療を受けて一命を取り留めた。


 そうして生き延びた俺は、生き残ったリオネスの騎士達に支えられ、どうにか家に辿り着いた。

 出迎えてくれた父はバカな息子を殴ろうとしたが、そのバカ息子に手と足が一つずつないのを見て、殴る気力すら失った。

 あんな父を見るのは、兄を失った時以来だった……。


 そして、まだ幼さの残る弟には泣かれてしまった……。

 次期領主として、次期当主として実務能力の足りない俺を支えようと、努力していた弟を泣かせてしまった。

 その涙を見て、漸く俺は自らの過ちに気付く事が出来た。

 本当に、何をやっていたんだか……。



「まったくね。同じ、『兄』に後始末を押し付けられた者として同情するわ」


「返す言葉もございません」



 結果として、俺は亡くなった兄と同様に、リオネス辺境伯家を弟に押し付ける事になってしまった。

 片足を失い、戦場に立てない男が継ぐ訳にはいかないからだ。


 いや、それどころか、兄と違って俺は生き残ってしまった。

 死んでいれば家中は割れる事なく弟を支持しただろうが、中には俺を担ぎ出そうとする者もいるかもしれない。


 ……正確に言おう。国境守護の要たるリオネス辺境伯家が混乱する事で、得をする者がいる。隣国のイーストパニア法国だ。

 家中の人間が法国の手の者に唆され、俺を担ぎ出す可能性がある以上、父は俺を処分しなければならない。


 そんな折に、王家から一つの打診があった。

 マーリン学園長が新たな義肢の研究開発に取り組むので、その実験体として学園に復学しないか、と。


 貴族の子弟を実験に使おうなんて、無茶もいいところの話であったが、この提案の本質は我が家に対して人質を差し出せという警告だ。


 その目的は三つ。

 一つは先程も言ったように、辺境伯家が割れるのを防ぐ為。

 もう一つは、王家の問題に巻き込まれた我が家が、王家に隔意を抱き、イーストパニアに内通しないようにする為。

 そして、最後の一つは、それでもリオネス領が陥落するなり寝返るなりした時に、その奪還の大義名分に俺を使う為だ。


 なかなかに愉快な話だったが、それもこれも俺がバカをやったせいで、王家(あっち)我が家(こっち)も非情にならざるを得ないのだから仕方がない。



「そ。どうやら、口先だけの謝罪じゃないようね……」


「はい。自分が楽になるためではなく、一つのけじめとして謝罪をしたいのです。グレイシア様との目通りをお許し願えませんか?」



 やった事がやった事だけに、赦してもらえるなどとは思わない。

 しかし、理由はともあれ、再びこの学園に通う事になった以上、どこかで彼女と遭遇してもおかしくはない。

 であるならば、早めに謝罪し、俺が学園にいる事を認めてもらうに越した事はない。



「……残念だけど、今はまだ彼女に会わせる事が出来ないわ」


「そう、ですか……」



 しかし、俺の願いも空しく……いや、当然の帰結として断られる。



「勘違いしないで欲しいのだけど、彼女は今ちょっと……塞ぎ込んでいると言うか……」



 と、思ったものの、何か事情があるようだ。



「……もしかして、婚約者になったばかりのマーティン・ランバートが」

「それはないから」


「……はぁ?」



 俺の台詞を遮るように、非情に冷たい声が返ってきた。



「彼らが私達の婚約者だった事実なんて、ただの一度も、一瞬たりともなかったから。反主流派の策略でそんな噂を流されただけよ」



 なるほど。

 まぁ、確かに主流派と反主流派の融和策にしても、ありえない組み合わせだと思っていたが、案の定だった訳だ。



「ま、あなたの事情は理解したわ。グレイシアにはこちらから伝えておくので、今日の所は戻りなさい」


「本日は私の為に時間を使ってくださり、ありがとうございました」



 グレイシア様ご本人には謝罪できなかったが、これ以上を望んで不興を買う訳にもいかないだろう。

 ここは素直に引き下がる事にし、いずれ折を見てもう一度尋ねた方が良い。


 そう判断したのが功を奏したのか、今度はちゃんと挨拶を受けてもらえた。

 とは言っても、貴族的な長々とした挨拶というのは苦手なのだが……。



「にしても、影からモンスターね……お父様達が私に黙っている事は多そうね……」



 殿下が退室する間際に、聴こえるかどうかギリギリの大きさで、そんな声が聞こえた……。

 もしかして、余計な事を教えてしまったのだろうか?


 もう、面倒事は御免被りたいのだがな……。

拙い作品にお付き合いくださり、ありがとうございます。



遂に、攻略対象's最後の良心とも言うべき男が帰ってきました。

まー、早い話これまでの伏線の回収と、新たな伏線の埋設なのですが……この伏線が回収されるのは終盤なので、今の所は「そう言えば、こんな奴がいたなー」と思ってくだされば十分です。



そういえば、フェイト/エクストラシリーズに新作が出るそうな。

無印の間にCCCを挟んだ以上、もう続編は出ないよなーと思っていたところに嬉しいお話。

どんな物かと公式を覘いてみれば……これ、フェイト無双だよね……。


ま、無双シリーズは『三国』『戦国』『ガンダム』とやっており、好きなシリーズなので、私としては望むところなのですが……これ、ザビエルorザビ子ことマスターって要らない子状態になってない?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ