第10話 四月の政変 (5)
お待たせしました。
4月14日。1年生の初実習があった翌日。
実習は毎週土曜日にあるので、本来ならば今日は休日なのですが……。
「はぁ……まさかここまで大事になるとは……」
「まぁ? ならないとお思いで?」
生徒会室には現在私とグィネ、そして私の溜息に応じたフレアちゃんの三人がいます。
「こちらの予想を超えていたのは確かね」
「だから温いと言ったのです。美人局をするなら、後詰は確実を期さなければなりません。策を弄するにはまだまだですね」
「ぐ……」
昨日、結局何があったかと言うと、ルーカス・ホークウッド達が実習地の奥へと無理矢理進み、引率役であるフレアちゃんは仕方なしに付いて行きました。尤も、その辺は予想通りだったんですけどね。
そして彼らは……まぁ、思い出しても不快感が激しいので割愛しますが、要するに身分を笠にフレアちゃんを脅迫。肉体関係を迫りました。
……恐いもの知らずここに極まれりですねー。
ただ、ここで私達の予想外だった事が一つ起こりました。
なんと、その場にいたのはルーカス達だけでなく、他にも2パーティ分、1年生6人に引率役の2年生2人の計8人がいたのです。
どうやら、私達が美人局を仕掛ける事を見越して、救助……というか目撃者役を足止めするためだったようです。
尤も、フレアちゃんの梃入れにより、それらは用意しなかったんですけどね。
そして、その後どうなったかというと……あの爆発に繋がります。
早い話、反主流派の貴族子弟、合わせて11人が……原形と命は留めていますよ、はい。
…………心は…………。
「それにしても、反主流派は……いえ、クロフォード侯爵は自分で自分の首を絞める結果になったという訳ですね」
まぁ、この兄妹に牙を剥いたら、だいたいあの結果になるので、話題を変えましょう。
「そもそも、碌に教育していなかった次男を表に引っ張り出した時点で、失敗は目に見えていました」
フレアちゃんの言う通り、結局の所、他の誰でもなく、本人達が侯爵の敷いた栄達のレールを暴走して、脱線してしまったんですよね。
ルーカス・ホークウッドもマーティン・ランバートも次男であり、長男の予備として大した期待もされず、教育も随分と手を抜かれていたそうです。
それが急遽日の目を見た事で舞い上がり、気が大きくなって最初に求めたのが女性だったそうな。
齢15にして、人が身を滅ぼす原因の内、酒と賭け事は既に満たされていたというのが何とも……。
あぁ、これらの情報もフレアちゃんが持っていたものですが……。
いつの世も、情報こそが力なんですね……私も専属の諜報員が欲しいです。
「何にせよ、今回の事件はもう隠しようが無いし、ホークウッド公爵家もクロフォード侯爵家も、社会的な制裁は勿論、反主流派の中でも肩身が狭い思いをする事になるでしょうね」
「これを公開されてしまっては……ね?」
そう、男爵家の娘でしかないフレアちゃんが、公爵家や侯爵家といった上位貴族の子弟を(物凄ーくオブラートに包んで表現すれば)魔法で吹き飛ばしたなんて事になれば、当然ながらただではすみません。
……だから、彼女が手を出さずに、他に目撃者を用意して未然に防ごうと考えていたのですが。
ところが彼女は、それを別の方法で回避する事を提案しました。
それが、昨年末の舞踏会でも活躍した魔導具の『見守る君』です。
やった事は極単純。
1年生の実習態度を引率の口頭だけでなく、魔導具にも記録してより正確な評価をしよう……という名目で学園に掛け合い、秘かに導入させたというだけです。
まぁ、あまり時間がなかったので、来年から予算を組んで導入しようと考えた学園側を翻意させるのに、多少は苦労しましたが……。
私がした苦労なんて、そんな書類仕事くらいです。
後は、彼らの言動がフレアちゃんの持っていた魔導具によって明らかにされ……彼女の演技力もあって、彼らは集団強姦未遂犯として社会的に死ぬ事になりました。
入学式を盛大に私物化してグィネに告白した挙句、一週間と経たない内に他の女性に対し強姦を企てる……流石に処置なしですね。
一応、学園はホークウッド公爵家などに配慮して、証拠の魔導具を世間に公開しないでいたのですが……真相を暴こうと怒鳴り込んできたクロフォード侯爵は、その配慮を踏み潰し、魔導具の記録公開となった訳です。
「にしても、一緒に参加していた引率の2年生にも、この魔導具は配布されていたでしょ? そこからバレると思わなかった訳?」
「グィネ……彼らは昨年末の舞踏会に出席して、この魔導具を知っていたわ」
「え? いや、だからこそ……あぁ、そういう事ね」
先程も申し上げた通り、この魔導具『見守る君』は昨年末にも活躍していました。
当然、彼らもこの魔導具が録画できる事を知っていたでしょうが、同時にもう一つ。この魔導具の弱点も知っていたはずです。
「裁判において、証拠能力がなかったって事ね」
当時、この魔導具に証拠能力があると認められていれば……と思った貴族は、派閥の垣根を越えて存在していました。
そうすれば、自分の娘に被害が及ぶ前に、事件が終息していたかもしれない……と。
そして、派閥の垣根を越えて意見が一致したこの案件は、どうやら異例のスピードで法整備が為され、証拠能力があると認められる事となりました。
……むしろ、これまで偽証もあった口頭による証言よりも、より正確な証拠品として法務省では注目されているとか……。
「それを知っていようがいまいが、実習中に紛失したとか壊れたといえば済むと思ったのでしょう。まぁ、たかだか11人ぽっちで私をどうこう出来ると考えたのがそもそもの間違いですが」
いえ、普通は女の子が一人で男11人を制圧したり出来ませんからね?
……言ってから気付きましたが、私もステータスのごり押しで同じ事ができますね……。
「そうそう。その11人だけど、自主退学の申請は全て却下され、代わりに退学処分となりました。これも、狙い通りにクロフォード侯爵が頑張ってくれたおかげね」
記録を公開しなければ、怪我による自主退学も認められたのですが、公けになった以上は学園側からの退学処分にせざるを得ません。
結果、彼らの実家は余計な恥を掻いたという訳です。
「さて、ここまでが本日午前中にあった事よ。そして、ただいまをもってフレア・クレフーツの謹慎処分は解除されます」
「まぁ、名目だけの謹慎でしたけど」
一応、過剰防衛だった事を加味した表面上の処分だったのですが、侯爵が記録の公開を求めて来てくれたおかげで、元々フレアちゃんに傾いていた世論は完全に彼女の味方となり、正式にお咎めなしとなりました。
人気って、敵に回すと本当に怖いですね……。
「さて、そうとなれば長居は無用ですね」
「ちょっと待ちなさいよ」
「……何か?」
用は済んだとばかりに立ち去ろうとするフレアちゃんを、グィネが呼び止めます。
「あなたに借りを作る気はないの。何でも良いから、望む報酬を言いなさい」
「……ぷ。くくく……」
「ちょっと! 何がおかしいのよ!?」
「実権も何もないお飾りの王女様が、謹慎処分中みたいな身分の王女様が、精一杯背伸びをして『褒美をとらす』と言っているのですよ? これがおかしくなくてなんなのですか?? 滑稽すぎて、思わず愛しさすらこみ上げてしまいましたわ♪」
「な!?」
「素直に礼の一つでも言って、適当に濁しておけば可愛げもあったでしょうに……」
あ、これは本当にダメなやつです!
フレアちゃんはグィネの不用意な一言に本気で呆れているし、グィネもあそこまで言われて引き下がれるような立場ではありません。
ここは、私がピエロになってでも止めないと!
「ふ、フタリトモ、ワタシノタメニアラソウノハヤメテー……」
「「…………」」
棒読みな上に最後の方は聞き取るのも難しいくらい声が小さくなりまみた!!
「「はぁ…………」」
ひーん!
一触即発の雰囲気は雲散霧消しましたが、代わりに私に対する空気が痛いです!
「まぁ、良い機会なので、一つはっきりさせておきましょう」
そう呟くと、フレアちゃんは再度席に着きました。
拙い作品にお付き合いくださり、ありがとうございます。
妹様「11人もいたので、時間の都合上四肢の骨しか砕けませんでしたが、一巡で全員反抗する気力もなくなってしまいました。そう考えると、ケイ・エクトルは頑張った方ですね。LV差でしょうか?」
姫騎士ちゃん「……どう、だろうね……(ケイ・エクトルの時はフレアが聴く耳を持たなかっただけ)」




