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救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
敵は己が内にあり!
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第7話

ここからは「悲恋?」がメインです。


王子一行の結末は12話に書かれているので、ざまぁ展開だけで十分な方はそれまでお待ち頂くか、引き返す事も視野に入れてご検討下さい。

「グレイシア」



 なんて感慨に浸っていると、不意に声をかけられる。



「お父様……」


「今日はご苦労だった」



 声の主はお父様で、私の様子を見に来て下さったようです。



「いえ、私は何も、誰も救えませんでした。自分の身すら……」



 初恋の人も、兄も救えず、自分の身ですらキャストンさんのお膳立てに護られる体たらく。

 今の無気力状態も、安堵感から来るものなのか、はたまた無力感から来るものなのか、それすら判然としません。



「そう卑下するな。お前がこの茶番を凌いでくれたおかげで、我が公爵家もこの国も、何とか首の皮一枚で繋がる事が出来た」


「それほどに……この国は危うかったのですか?」


「……詳しい話は後でする事になると思うが、それほどの事態に陥っていたのだ……あのバカ者のせいでな……」



 お父様がそう零して、大きな溜息を吐かれる。

 それを聞いて思い出した。



「そう言えば、お父様。お兄様が途中から居なくなられたようですが?」



 キャストンさんにボロ雑巾のように転がされて以降、何時の間にやら消えていた兄について尋ねてみる。



「……あの愚か者をこれ以上外に放置しておくと、我が家に泥を塗り続ける事になるのでな……既に回収して、牢に放り込むように手配した」



 心の底から疲れきった、そんな心情がありありと伝わってくる声音でお父様が答える。

 兄は一体何をやらかしたのでしょうか……聞くのは怖いですが、聞かない訳にも参りません。



「お兄様は一体何をなさったのですか?」


「……」



 うわ、お父様のお顔が、これでもかと言うほど、苦虫を噛み潰したような顔になっています。



「それも含めて、後で話す事になるだろう……とても、こんな場所で出来る内容ではないのでな……」



 ……本当に、あの人は何をやったのでしょうか……。



「それでは私は行くとする。今後の事についてや、この件の後始末で連日連夜の会議となるだろう。屋敷に戻るのは……戻れるのは、年が明けてからになるだろう」



 これからの事に思いを馳せ、その山積した問題に半ば意識を奪われながら、お父様はそう切り出して踵を返される。



「お前も、せめてこの謹慎期間中は英気を養っておきなさい。冬季休暇はないものと考えて、な……」


「畏まりました、お父様」



 そうして、会場を後にする父の背中を見送り、改めて周囲を見回すと、まばらに片付けをする使用人達の姿がある以外、殆ど人の姿がありません。

 そんな中、私と父の会話が終わるのを待っていてくれた二人がこちらに近付いて来ます。



「お疲れ様、グレイシア」

「お疲れ様でした、シア」


「お2人とも、今宵はお疲れ様でした。それに、非常に辛い事にも協力頂き、何といってお礼をすればよいか……」



 残った幼馴染の2人――ランスロット様とグィネヴィアと言葉を交わす。



「いや、今回の件はグレイシアに責はないよ。君に責があるとするなら、幼馴染(アーサー)達を止められなかった私にも責がある事になる。君一人が責任を感じる必要はないさ」


「そうですよ、シア。結局の所、悪いのはこのような衆目の場で、事を不用意に大きくしたお兄様達です。それに、私達は私達で謹慎という罰を与えられています。逆に言えば、その程度のお咎めでしかありません」



 二人の言い分に何か違和感を感じるものの、二人が言うように、これ以上気に病んでも仕方のない事だと、無理矢理自分に言い聞かせて気持ちを切り替えます。



「そう、ですね……お気遣い痛み入ります。ところで、キャストン様はどちらにいらっしゃるのか、ご存知ありませんか? 彼にも、お礼を申し上げたいのですが……」



 私が彼の居場所を尋ねると、ランスロット様が曰く言い難い表情をなさいます。



「彼ならそちらの扉から出て行ったようだが……グレイシア、今更言うのもなんだが、本当に彼は信用に足る人物なのかい?」



 ランスロット様が示されたのは、フレアさん達が退出した際に利用した扉でした。おそらく、彼女と合流するためでしょう。

 それにしても、今頃になって、ランスロット様からこのような懸念が出るとは……。


 でも、そうですね……ランスロット様も、カテゴリーとしてはアーサー様に近いタイプで、騎士道精神とでも言うのでしょうか? 「敵にも慈愛の精神をもって当たれ」という考え方の人です。


 対して、キャストンさんはバリバリの現代的合理性にケレン味と悪意と悪意と悪意と、あと悪戯心を加えたほぼ悪意の塊のような思考の持ち主で、「敵は効果的に効率的に徹底的に圧し折って、二度と反抗しようなどと考えないように磨り潰せ!」という事を平然とやっちゃう人です。兄とは別の意味で、ランスロット様とも馬が合いませんね。



「大丈夫ですわ、ランスロット様。彼は敵対者には一切容赦しませんが、そうでない者には(ほぼ)無害です。虎子を得ようと虎穴に手を出さない限り(多分)安全です」



 虎穴に入ったが最後ですけどね……。


 今回の一件における、キャストンさんの言動に不安を覚えた……というのもあるでしょうが、自分では諌める事すらできなかった幼馴染達を、些か……いえ、多少……かなり乱暴な方法を用いたとは言え、止めた彼に対して引け目を感じているのかもしれません。


 そんな事、気にする必要はないと思うのですが、万が一にもランスロット様までもが彼に対抗意識なんて持って、対立するなんて事になってはいけません。

 敵対しない限り、キャストンさんは面倒臭がりなので放置を選択してくれますから。


 これで、彼に野心もなければ栄達する気も全くないと伝わったでしょうか?

 あの人、貴族社会は面倒で、爵位すら返上したくて仕方がないって感じでしたからね……。



「……余計な気を回してしまったようだね。すまなかった、グレイシア」


「いえ、こちらこそ、心配させてしまって申し訳ありません。それでは、私は失礼させて頂きますね。彼の居所を教えて下さり、ありがとうございました」



 そう言って、二人に暇を告げると、それぞれに返事をして送り出してくれました……けど、グィネヴィア? どうして貴女はそんなに瞳をキラキラさせているのかしら?

 え? わかってるわかってる、何も言わなくてもわかってるから頑張っておいで?

 いえいえ、何ですかそれは? 貴女何か勘違いしていませんか? 

 いえ、違いますよ? 私はそんなんじゃありませんわ。違うったら違うんですー!


 幼馴染の無言の応援から逃げ出すように、教えてもらった扉から会場を後にし、キャストンさんの姿を探しながら進みます。

 おそらく、この先にある控え室のどれか……事情はよく分かりませんが、人目を避けたがっているアイリーンさん達を連れて行ったので、一番奥にある部屋に向かったと思われます。


 幾つか分岐路を通り過ぎると、今しがた会話を終えて、別々の方向に進んでいく二人の人物を見つけました。

 片方は兵装を纏った衛兵、もう片方は探していたキャストンさんです。


 改めて、彼を視界に入れると、何だか胸が締め付けられるような……いえ、違います。そういうのではありません。これはあれです、人型の虎に話しかけるので、緊張しているだけです。



「キャストンさん」



 呼び止められた彼が振り返り、私の心臓は一気に高鳴りました。いや、本当に。

 何故なら、彼の目は――



「あぁ、貴女でしたか。何か御用ですか?」



 完全に(小物)を見る目をしていたからです。何故?



「あ、あの、お礼を、申し上げようと……」



 心情的には滝のように冷や汗が流れます。本当に、何故そんな目を向けられているのでしょうか?



「はっはっは。御礼なんて必要ありませんよ。あの女の排除は、自分にとっても平穏に生きる上で絶対に必要な事でしたので。互いに協力しただけ(・・・・・・・・・)の事ですよ」



 何でしょうか、言葉の端々に棘があります……私、何かやらかしちゃいましたか?



「あ、あのぅ……私、何かやりましたか?」



 もう、何が何やら分からなかったので、思い切って直接尋ねてみました。



「いいえ、貴女様は何もなさっていませんよ。ええ、何も(・・)ね」



 これはあれですか? 私が殿下達を何とかすると言いつつ、何も出来ずに今日の事態を招いた事をお怒りなのでしょうか?



「……はぁ。その様子だと、全く理解していないようだな」


「すみません……」



 大きく溜息を吐かれ、笑顔の威圧も引っ込めるキャストンさん。残ったのは、どうしようもなく呆れている事を示す態度でした。

 そんな彼が指を鳴らすと、周囲の空気が変わります。

 多分、音を漏らさない為の結界でしょう。



「どうして、俺は大事な大事な、自分の命よりも大切な妹を、アイドルなんて見せ物にしたと思う?」



 そして、結界を張ると同時にそんな質問をされる。確か――



「酒月さんよりも街の人達の支持を得る事で、彼女の発言力を削ぎつつ、こちらの発言力を得る為。でしたよね?」



 そういう理由でアイドルという手段をキャストンさんが提案してきた。



「違う。それはアイドルという手段を取った理由であって、フレアをアイドルにした理由ではない」


「えっと……」



 そう言われてはそうですね……だとしたら――



「私が恥ずかしいからやりたくない……と言ったからですか?」



 そう答えて、キャストンさんの様子を伺ってみる。すると、そこには――



「一から十まで懇切丁寧に! 隅から隅まで現状と今後の予想を説明して説得しているのに! お前が泣き喚いて! 聞く耳を持たず! 全力で! 死に物狂いで拒否ったからだ!!!」



 あ、これはダメなやつです。本気でキレていらっしゃいます。

 私、そこまで嫌がり……ましたね、確かに……。



「わかるか? 下級官吏の、しがない男爵家風情の娘が、あんな目立つ事をやるというのがどういう事になるのか? クソ変態貴族に、何度誘拐されそうになったと思う? 俺がどれほどクズ貴族どもを潰して回ったと思う?! お前が見せ物(アイドル)になってりゃ、こんな苦労はしなかったんだ! 二大公爵家のご令嬢、それも第一王子の婚約者にちょっかいかけようなんてバカは、あのビッチどもしかいねーんだから!!」



 ここ最近多発する、悪徳貴族の不正発覚の謎が今明かされました!?



「それほどの苦労をして、フレアの人気がどんなに上がった所で、お前の発言力にはなんら貢献しないんだぜ? 当初の予定の半分、あのアバズレの発言力を削ぐ程度の効果しかない。それでもやったのは何でだと思う?」


「えっと……その、それほど、状況が悪かったのでしょうか?」


「そうだよ!! お前わかってんのか? 年が明けて、あのまま3年のアーサーやガウェインが卒業したらどうなる?! アーサーは立太して王太子に、ガウェインは父親の爵位を一つ継いで子爵になっていたんだぞ!? これまでの無位無官の学生ではなく、公的な地位と権力と領地を有した貴族だ! 学園の中でしか行動できない俺が、下衆女どもを相手にしつつ、そんな連中を相手にしろって? 冗談じゃねーよ!!!」



 た、確かに、厳しいものがありますね……。



「王太子と子爵になっちまったら、王家も公爵家もあいつらを簡単に切り捨てる事は出来なくなる。バックに王家や公爵家が付いている連中を、しがない男爵家が相手にしろってか? ふざけんな。そんな事をするくらいなら――」



 あ……そうでした……この人――



「物理的にこの国をひっくり返した方が何十倍も楽だ!」



 本当に物理的にこの国を潰せる(化物)でした……。

 何せ、アクションゲーム時代のこの世界の最高カンストLVが255だというのに、この人だけLV400オーバーという世界の法則すら超越しているのですから。

 因みに、妹のフレアちゃんもLV300オーバーという人外です。


 これがどれほどの戦力かと言うと……キャストンさん一人で時間さえあればこの国を滅ぼせます。フレアちゃんと二人がかりなら、その時間すらかかりません。


 ついでに、私もこの二人のLV上げに付き合わされた結果、LV255(人の限界)に到達してしまいました……それ以上は、どうやっても二人のようにLVが上がりませんでしたが……。

 キャストンさん一人だと時間がかかるというのは、私が敵に回った分稼げる時間です。

 更に言ってしまうと、国の兵士で平均LV20前後、騎士でも平均LV30前後です。障害物にすらなりませんね……。



「えっと、それは流石に止めて頂けると嬉しいと申しますか……」


「……分かっている……だから、色んな存在(もの)を犠牲にして、切り捨てて、辛うじて奴らの卒業前にケリを付ける事が出来た……この国が空中分解するほどの犠牲を強いて、漸く奴らを廃嫡に追い込めた」


「あの……キャストンさんは、兄が何をやったのか、ご存知……なんですね」



 キャストンさんの言う「国が空中分解するほどの犠牲」という言葉と、父の言った「公爵家もこの国も、何とか首の皮一枚で繋がる事が出来た」という言葉に、類似性を感じた私は半ば確信を込めて尋ねる。



「それは一体」

「残念だが、それを俺の口からいう事は憚られる。結論が出れば、公爵の口から語られるだろう」



 ですが、それは遮られ、返ってきた答えは、平然と「物理的にこの国をひっくり返した方が何十倍も楽」と言ったキャストンさんでさえ、口にするのは憚られるというもの。

 ……本当に、あの男は何をやったのでしょうか……。



「俺も見捨てた側だから、あまり偉そうな事を言えた身分ではないが、それでもこれ以上ガラティーン公爵家に力を貸す謂れもなければ、お前個人に対する信用も義理も、今言った一件の際に尽きた。故に、お前の婿になどならん。公爵にはそう伝えておけ」



 …………はい?

拙い作品をここまでお読みくださり、ありがとうございました。


悲恋?編こと自業自得編の前半です。

精神面は前世のイジメられっ子の頃からあまり成長していませんが、グレイシアのスペック自体は決して低くありません。

彼女の一般的な評価は、他者の視点で語られる事になっているので、それまでは「残念な子だなぁ」くらいで勘弁してあげて下さい。

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