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救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
悪役令嬢の新たな日々
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第7話 四月の政変 (2)

大変長らくお待たせしました。

……にも拘らず、今回は説明回だったり……。

「にしても、かなり大胆な仕掛け方よね? 自由恋愛の態を装って来るのは予想していたけど、ここまで大っぴら(下品)にやってくるとは……」



 グィネの言う通り、新入生の中にホークウッド公爵家次男ルーカス・ホークウッドと、ランバート子爵家次男マーティン・ランバートの名前があった時点で、ある程度はこの事態を予想していました。


 ホークウッド公爵家は『公爵家』を名乗っている事から分かるように、ペンドラゴン王家の分家の一つです。私からしたらかなり遠い血縁……でしょうか?

 とは言っても、ガラティーン公爵家やアロンダイト公爵家のように、幾つもの領地を持っている大貴族ではなく……まぁ、物凄く酷い言い方ですが、王家の血が絶えないよう念の為に分家を建てさせる……という名目で、中央から遠ざけられた王族が祖にあたる家です。


 一言で言ってしまえば、『反主流派の御旗』……という名の飾りを代々担っている家ですね。

 その為、空席となったグィネの婚約者として、反主流派が担ぎ出すにはうってつけだったのが、未婚で年も比較的近い次男のルーカス・ホークウッドという訳です。


 対して、マーティン・ランバートですが、こちらの狙いはグィネではなく私です。

 というのも、彼の祖父は現内務大臣カーティス・クロフォード侯爵であり、このクロフォード侯爵家と我がガラティーン公爵家は浅からぬ因縁があるからです。


 クロフォード侯爵家は、アイリーンさんの実家であるアシュフォード侯爵家と並び称される三大侯爵家の一角であり、ブリタニア王国建国前から存在する由緒正しい家でした。100年前までは。

 約100年前の第一王子が原因となった内乱の群発事件。その第一王子の婚約者だったのが、当時のクロフォード侯爵家のご令嬢であり、やはり彼女も婚姻前にその……男児を出産しました……えぇ、第一王子の子です。


 多少眉を顰める事態ではありますが、世継ぎが出来た事自体は喜ばしいという事で問題は小さく済むはずでした……国中のいたる所から身分の上下を問わずに、彼の子供だと赤子を抱えた女性達が訴え出なければ……。


 普通ならば謀略と判断し、「何を馬鹿な事を」と言って済ませられる案件でしたが……当の第一王子自身が「俺はハーレム王になるんだ!」等と言い出し、全てを認めたというのが致命的でした。


 大揉めに揉めた挙句、第一王子はパニア教を破門。王位継承権も剥奪。

 僻地にて蟄居を命じられ、間もなく毒をあおって亡くなられたそうですが……まぁ、殺されたんだろうというのが世間一般の見解です。……間違いなく大人しくしなかっただろうと……。


 さて、問題なのは残された方で、元第一王子の遺児を旗頭にクロフォード侯爵家をはじめとした各貴族が蜂起しました。

 まぁ、大事な娘をキズモノどころか、子供まで産ませた挙句にその父親はもう王族ではないから、王家とは関係ないと言われれば、納得できない方も多かった事でしょう。

 王家側としても、彼ら彼女らを王家とは関係ないという事にする事で、粛清の対象から外すのが精一杯だったんでしょうけど……。


 その結果、内乱がいたる所で起こった訳ですが、当然ながら鎮圧されない事には今日のブリタニアはありません。

 では、誰がその群発する内乱を鎮圧したのかと言えば、我が家のご先祖様とアロンダイト家のご先祖様でした。


 二人の王族は軍を率い、それぞれが国の東西に分かれて転戦、順次内乱を鎮圧。

 その功績が認められ、二振りの魔剣『ガラティーン』と『アロンダイト』が下賜されました。

 それを新たな家名とし、鎮圧した領地の大部分を与えられ治める事となったのです。


 そう、かつて王国東側に存在したクロフォード侯爵領だった地は、現在ガラティーン公爵領となり、我が家が治めています。

 当のクロフォード侯爵家は建国の雄であった事と、反乱を起こした経緯が経緯なだけに取り潰しとまではいきませんでしたが、これまた内乱により滅びてしまったランバート子爵家の爵位を与えられ、南方のランバート子爵領へ移封されました。


 それ以来クロフォード侯爵家は何かと我が家を敵視するようになり、事情は理解できるものの我が家としても長年に亘って敵視されれば積もる物もあります。

 お父様にいたってはクロフォード侯爵を「無能」「老害」「さっさと引退して息子に譲ってやれ」と嫌悪するほどです。


 そして、今回マーティン・ランバートが私に近付いてきたのは、侯爵の孫である彼を私と結婚させ、その間に出来る子供を通じて領地を合法的に取り戻すため……と言ったところでしょう

 なかなかに無茶な手法だと思いますが、残念ながら彼らに協力する貴族は少なくありません。

 先程申し上げた通り、我が領地は100年前に切り取られたものばかりで、それを取り戻したいと思う家は少なくないのです。



「やはり、先の件が彼らの気を大きくさせているのでしょうか?」


「内務省所属の財務局を独立させ、新たに財務省を設立。しかも、人事はそのままで、財務局の局長を財務大臣に任命ってやつね」



 グィネの言う通り、王国の新体制がつい先日発表されました。

 と、申しましても、まだ貴族に対する通達のみで、国民への発表は再編が済み次第という話ですが。


 これまでは内務省・外務省・法務省・軍務省という四つの省庁に四人の大臣、その上に宰相という体制でした。

 その内、内務省以外の省庁は全て主流派貴族が役職を占めているのに対し、内務省はその担当職務の多さから、どうしても数の多い反主流派を押さえ込む事はできませんでした。


 その結果、トップである内務大臣には先のクロフォード侯爵が就き、それ以外にも約半数の役職が反主流派の貴族に占められています。


 中でも、この度新たに財務省として独立する事になった財務局は、予算の編成も行う非常に重要かつ力のある部署であり、侯爵の片腕とも言える娘婿のシードルフ伯爵が局長を務めています。


 つまり、これまで四人の内三人の大臣が主流派であったのに、これからは五人の内二人の大臣が反主流派となる事で、反主流派の権勢が以前よりも増す事になります。

 それも、クロフォード侯爵の派閥のみが強化されるため、内輪揉めで内部分裂する可能性は低いでしょう。



「財務局がその職責の割りに内務省の一部局でしかないのは、以前から取り沙汰されていたけど……それでもそうしていたのは、財務局局長の席を反主流派に抑えられていたからよ。はっきり言って、現時点で新体制への移行は利敵行為と言っても良いわ」



 にも拘らず、お父様達がそれを是としたのは何故か?

 おそらくはグィネにもその答えが分かっているのでしょうが、確認するかのように尋ねられました。



「やはり、先の敗戦の責任を反主流派の武断派に押し付けた見返りでしょう」



 主流派であれ反主流派であれ、この国の貴族には大きく分けて二つの派閥があります。

 一つは文官職に就く者を多く輩出している文治派。

 我がガラティーン公爵家やクロフォード侯爵家が文治派と言えます。


 そして、もう一つは騎士などの武官職・軍務に就く者を多く輩出する武断派。いわゆる軍系貴族の事です。

 アイリーンさんのアシュフォード侯爵家や、敗戦の責任を負わされたハーヴェイ子爵家などが武断派と言えます。


 今申し上げた通り、お父様達は先の敗戦の責任を全て、第一騎士団団長であったハーヴェイ子爵に背負わせましたが、普通ならば同じ反主流派であるクロフォード侯爵達が黙ってはいません。

 ところが、クロフォード侯爵を筆頭とする文治派の貴族はこの決定に異を唱えず、ハーヴェイ子爵家は事実上の取り潰し。

 武断派のトップであったハーヴェイ子爵家が消滅した事で、反主流派の軍系貴族は恐慌に陥りました。


 そこで彼らに手を差し伸べたのがクロフォード侯爵です。

 今頃手を差し伸べるくらいなら、ハーヴェイが潰される前に動け、という思いもあったでしょうが、そこは貴族社会の恐ろしいところ。

 明日は我が身と考えれば、残された武断派は大人しくクロフォード侯爵の傘下に納まる運びとなりました。


 更に、ここへ来ての財務局独立。

 クロフォード侯爵の権勢を強める事を条件に、武断派を切り捨てさせたと見るべきでしょう。



「やっぱり、シアもそう思う?」


「はい。お父様は大のクロフォード侯爵嫌いです。国益の妨げにならない限りは、絶対に内務大臣閣下の益となる事はしません。かく言う私も、ランバート兄弟だけは好きになれそうにありません」



 兄の方の爬虫類じみた視線もなかなかに気味が悪いですが、弟の方のあの嘗め回すような視線は本当にダメです。

 何なんでしょうかね? 宣戦布告? 挑戦状?

 人の顔を見ている振りをしながら、しょっちゅう胸の辺りに目を向けている事に気付かれていないとでも思っているんでしょうか?



「ま、まぁ、ガラティーン家とクロフォード家の確執は、ガラティーン家開祖の頃からの因縁だものね……」



 ホンの一時間ほど前に遭遇してしまった、人間大のカエルを思い出し、不快感が漏れ出てしまったせいか、宥めるように恍けるグィネ。

 ただ、この時私は自分の発した台詞に違和感を覚え、それどころではありませんでした。


 ……はて?

 国益の妨げにならない限り、クロフォード侯爵の地盤強化を妨害するお父様が、今回はそれを見送った?

 それはつまり、この財務局独立は相応の国益になるという事?


 武断派の一掃?

 どの道次の第一騎士団団長の座を巡って混乱していたはずである以上、一掃しても国益と言えるほどではありませんね。


 うー……ん。情報が少なすぎて、私では一連の動きの裏が読めません。


 ただ、間違いなく言えるのは、財務局独立の裏には『武断派処断の黙認』などという、為政者としては経験不足の小娘でしかない私達でも予想できる単純な理由ではなく、もっと他の狙いがあるという事です。


 あれ……?

 何故でしょう? 急に寒気が?





拙い作品にお付き合いくださり、ありがとうございます。



色々とありまして、右手と右足を故障しておりました。

左手だけでもキーは打てるのですが……帰宅した時点で倒れて寝落ちするくらい消耗するという有様で……。


だいたい更新が止まったら、「あ、またどこか怪我しよったな」と思っていただければほぼ正解です。

そんな訳で、更新を再開したいと思います。



実はこういう、本編とは直接関わらない細かい設定(主に歴史背景とか)が沢山あったりするのですが、直接関わってこないだけに書く機会もなかったり……。


例えば、この抹消された元第一王子も元日本人だったり、こいつがはっちゃけた裏に隣国の陰謀が絡んでいたり、その子孫(自称含む)がその隣国を後ろ盾(正確には大義名分の出汁にされた)に二度ほど戦争を吹っかけたりという歴史背景があります。


その結果、ブリタニアには現在駐在している他国の外交官や大使館がなかったりします。

……その外交官の娘にハーレム願望のあった王子の子供を産ませ、宣戦布告の大義名分を得るという陰謀だったからです。

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