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救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
悪役令嬢の新たな日々
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第5話 3月1日 (5)

お待たせしました。

「は? え? えぇッ!?」



 突然の追い出したい宣言に完全に混乱してしまいました。



「さっき、お父様が何かを企んでいると言ったでしょ?」



 私の驚き具合を見ても平然としているグィネ。

 キャストンさんを追い出したいという話に、ウーゼル陛下が関与しているのでしょうか?



「どうも、あの男を私の婚約者に仕立て上げようとしている節があるのよ」


「…………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ?!」



 いや、え? あれ? え? 聞き間違いでしょうか?



「あくまで可能性の話だけどね。今はまだ途絶えた伯爵家の名跡を与えようとしているだけで、これならガラティーン公爵家の婿養子にし易くするためって言い訳が効くから、ロット叔父様もそこまで反対はしていないんだけど……」


「う……」



 我が家の婿養子という事はつまりそういう事な訳でして……でも、全然脈がなさそうなんですよね……。

 私としましても、どうすればよいのか皆目検討がつかず……。


 アーサー様の時のように、我武者羅(と言っても、節度はありますよ?)にアプローチするべきでしょうか?

 ……アーサー様相手ですら全く功を成しませんでしたね……。


 あれ? ひょっとして、私……恐ろしいほどモテないのでは!?


 前世では女子校に通い、男性との接点などそれこそ家族以外とはありませんでしたから、全然気付きませんでしたが……今世では失恋しかしていないのでは?!

 もしかしなくても、悪役令嬢だったグレイシアよりも魅力がないのでは……?


 いえ、これはまだ早計です。

 前世はノーカウントです。そもそも、クラス内にも男性とお付き合いしている様子の方はいらっしゃいませんでした。何せ中学生ですし。

 ……私が気付いていないだけで、実はいたとか?


 ……問題は今世です。

 つい最近まで第一王子の(名ばかりとは言え)婚約者で王妃候補でした。

 当然ながら、その立場にいた私に手を出そうという男性はいませんでした。

 なので、モテないのは至極当然の事なのです。きっと、多分、メイビーですわ!



「って、ちょっと聴いてるの?」


「へ? あ、それは、その……」



 いけません。色々と気付きたくない可能性に思考を取られているうちに、グィネの話を聞き逃していました……。

 可愛らしく頬を膨らませて遺憾の意を表明する幼馴染をなだめ、詳しく話を聴いてみたところ……。



「イグレイン様が強硬に反対している?」


「そうよ。以前なら、お母様があそこまで反対すれば、お父様の方が折れていたわ。そもそも、本当にお父様が言うように、シアの……ガラティーン公爵家の婿養子にし易くする為と言うのなら、お母様がそこまで強硬に反対する理由はないはずよ?」



 えっと、個人的な感情はまだ気恥ずかしいので、諸々脇に追いやって、実務的な話だけをすると、我がガラティーン公爵家に婿なり嫁なりを迎え入れるとするなら、相手は上は王家から下はギリギリ伯爵家といった家格の方でなければなりません。

 とはいえ、地球の中・近世とは違い、この世界では自由恋愛こそが是とする宗教観があるため、当然ながら家格の合わないカップルというのも出来ます。


 そして、そういう時にはどこか格の合う貴族家に養子として迎え入れてもらってから、婚姻するという形になるのですが……もし、今回私と……その、キャストンさんが結婚するとなると、キャストンさんをアロンダイト公爵家の養子にしてから……というのが一番丸く収まる形となるはずでした。


 ところが、アロンダイト公爵家の嫡男であるランスロット様が、貴族籍の剥奪という処分を下されるという事態になりました。

 この状況下で男性の養子を迎え入れるというのは……まぁ、色々と誤解が発生します。

 例えば……自分と血の繋がった甥を夫が追い出し、自分の息子を死に追いやった男に自分の実家を継がせ、更には自分の娘までもくれてやるつもりか……という具合にです。



「そう、イグレイン様が仰ったの?」


「遠回しにね……尤も、お父様も流石にそれは問題があると思われたのか、断絶した貴族家の中から名跡を継がせようって事になったみたいだけど……問題は、お父様がその指摘を明確に否定しなかったって点なのよね……」


「それは……」



 つまり、ウーゼル陛下がグィネの新しい婚約者として、キャストンさんを仕立て上げようとしている……と、イグレイン様が判断するに足る何かしらの根拠があって、それを陛下が否定しない何かしらの理由がある……という事?

 うーん、残念ながら、私にも陛下が何を以ってして否定しなかったのかは分かりません。

 まさか、本当にキャストンさんを王配にしようとしているとか?


 宰相であるお父様からは、そんな情報は来ませんが……兄の一件があって以降、お父様は物の見事に意気消沈なさり、そのせいか私に対しては過度に気を遣われるようになりました。

 例えば、貴族らしいドロドロとした情報を隠蔽している節があるんですよね……。

 あら? これって、本当にキャストンさんを陛下に持っていかれる流れでは?



「ね? かなり怪しいでしょ? まぁ、そんな訳で、私としてもそんな危険性のある男は排除したいのよ。私の旦那様はランスロット様以外ありえないんだから。あ、シアが引き取ってくれるのなら、私としても問題ないわよ?」


「あ、あはは……」



 そんな犬猫みたいに簡単に引き取れるなら、喜んで引き取らせて貰いますけど……素手でドラゴンを殴り倒すような人ですから、とても小動物みたいに簡単な扱いは出来ません。どうしたものでしょうか……。



「それはそうと、さっきの話を聞くに、イグレイン様ってもしかして……」


「……えぇ、どういう訳か、兄様の死をキャストン・クレフーツのせいだと思っているみたいなの……そりゃ、そういう見方が出来ない訳ではないでしょうけど、あの男以上に、聖を憎むのが筋だと思うのよね」



 アーサー様が亡くなられた直接の原因は神子と兄ガウェインにあります。

 普通に考えれば、その二人の責任を追及するのが筋なのですが……どういう訳か、誰もが彼女を責める事はありませんでした。

 斯く言う私ですら……あら? この話、前に誰かとしたような?

 あら? あらあら? あらら~?



「まぁ、お母様が兄様の死を知った時には、聖は国からいなくなった後だし、シアを恨むのも筋が違う。怒りの矛先を向ける相手を探しているうちに、一つの原因とも言えるあの男に行き着いたんでしょう」


「え? あ、うん。そう、かもしれないわね……」



 あれ? 今、何か凄く重大な事を思い出しかけていたような気が……?

 え…っと、とりあえず、キャストンさんの歓心を得るために、叙爵の可能性とイグレイン様のご様子を手紙でお知らせしたら良いのでしょうか?


 あの人、スパイみたいな事も余裕で出来るみたいですが、四六時中王城に潜入しているなんて事はないでしょうし、意外と喜んでもらえるかもしれません……って、流石に情報漏洩に当たるので、出来ませんよね……トホホ。

拙い作品にお付き合いくださり、ありがとうございます。



あれ……?

グレイシアの へんかが とまった!


「ふぅ……」

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