表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
姫騎士の記録
54/103

第8話 大胆発言

お待たせしました。

 カルボネック山


 王都キャメロットより馬で北へ三、四日程度の王領にある、標高2000m以上のダンジョン化した山だ。

 出現するのはコブリンやオークといった亜人型のモンスターをはじめ、動物型、鳥型、虫型、植物型と、山であるせいか非常に多種多彩である。

 その為、「何か特定の対策をしておけば大丈夫」という事はなく、地力を問われる実習地であり、非常に難易度の高い実習地の一つでもある。


 間違っても、「そこそこの難易度」なんて普通は言えない。あれは学園長だから言える台詞である。多分。あ、どうだろう? グレイシア様も割りと平然とこの山で実習していたな……。


 実り豊かな山でもあるので、得られる物はかなり良い物が多い……まぁ、そのせいか、モンスターも比較的強力だったりするけどね。

 ただ、鉱物資源は産出されない山で、その証拠にコボルトは一切棲み付いていない。

 もしも、鉱物資源が産出されていれば、国が騎士を派遣してでも鉱山として活用するところであるが、幸か不幸かそうはならず、学園の実習地として活用されている。あ、冒険者なんかはたまにいるけどね。


 そんなカルボネック山が、転送魔法陣を抜けた先に聳え立っている。

 ここへ来るのはかなり久し振りだ。



「さってと……」



 右からそんな声が聞こえると、目の前に一振りの剣が差し出される。

 あの夢で最後に私が見た、ボクの剣に良く似たスウェプトヒルトのレイピアだ。

 流麗な曲線を描く鍔は芸術的であり、同時に受けた剣を絡め折る獰猛さをも併せ持つ。



「え? これは?」



 レイピアを差し出した声の主、つまりはキャス様の方を向いて尋ねる。

 彼はもう既に、いつもの戦装束に着替え終わっている。まぁ、そういう便利な技術が使えるんだし、ここで使わない理由はないよね。



「以前、フレアがお前の剣を……というか、装備を全損させたろ? その補填というか詫びの品だ。格闘術を習い始めたとは言え、モンスター相手の実戦で使えるほどの域には達していないしな」



 そう言うと、ほぼ強制的にレイピアをボクに押し付け、更には鎧らしき金属塊を次々に出していく。



「えっと、クレフーツ家へ奉公に上がる際に、武器も実家から貰っている。それに、このお仕着せももらった」



 他家へ奉公に上がるのに、武器を持たせるなんて事は普通ないけど、そこはボクの実家が実家なだけに理解してもらうとして……それでも、クレフーツ家から支給された制服は異常だった。

 見た目が可愛いとか、使用人用の割に質が良いというのもあるんだけど、極め付けが今着ている外出用とされているエプロンドレスだ。

 ……これって、多分、魔導具の一種だよね? 具体的に言うと、学園長が着ていたローブくらいの防御力があると思う……。



「アイテムボックスがあるんだから、予備の武器が幾らあっても困る事はないだろ? それと、前衛型なんだから、防具もしっかりとした物がないと……大人しく足手纏いに甘んじているって言うなら、無理にとは言わないがな」


「うぐ」



 キャス様としては一人でここへ来るつもりだったところ、無理を言って連れてきてもらった身だ。

 まかり間違っても、後ろから付いていくだけの足手纏いになる訳にはいかない……。

 が……手に伝わってくる感覚からして、このレイピアがただのレイピアでない事は分かる……おそらく、魔剣かそれに近い業物だ。

 そこの鎧も多分、ただの鎧じゃないんだろうなー……。



「前にも言ったが、妙な遠慮はしなくて良い。全部俺が正当な手順で用意した物だ。ただ、実家や他家に喧伝しないでくれれば良い」



 このエプロンドレスをはじめ、何点かとても男爵家が用立てられない代物を支給されている。

 主にボク達の安全が理由で支給されている訳だが、その出所が全く分からない。

 まぁ、初日に厩舎でスレイプニルを見せられ、更にはフレアが飼っている『天ちゃん』を見せられた時点で、色々と諦めた。


 土地なし役なし資産なしの、貧乏貴族であるはずのクレフーツ男爵家は、同時に常識も通用しない家だったという訳だ。


 因みに、当主であるコンラッド様の顔を立てて、キャス様達の稼ぎはクレフーツ家に回さないようにと頼まれているそうだ。

 ……ただでさえ、コンラッド様は奥方であるファティマ様の件で、一部の貴族から目の敵にされている以上、悪目立ちするのは避けたいとの事。


 ボク達の正体がバレたら、更に輪をかけて酷い事になりそうだなー……。



「借りるだ」

「安物だし、いちいち貸し出すのも面倒だから貰っとけ」



 これだけの一品を安物と断言されてしまった……。



「あー、いや、そうだな。安物を詫びの品というのも問題があるな……。そのうち、ブリジット専用の装備を作……用意するから、今はそれで我慢しておいてくれ」



 押し黙ってしまったのを何か誤解されて、とんでもない物を渡される未来が確定してしまった……しかも、「作る」って言いかけなかった?

 え、これ、キャス様が作ったの? え、安物ってそういう事? 材料も製作も全部キャス様がやったからって事?


 あー……うん、それは絶対誰にも言えないね。だって、下手すればバカな貴族に軟禁されかねない……。

 無論、キャス様がそんなドジを踏む訳はないだろうけど、最悪、キャス様とフレアがキレて大暴れする事に……。



「はい……」



 うん。怖い結末を想像しちゃったから、全部忘れて言われるがままに受け取る事にした。



「大丈夫か? 鎧の装着は一人で出来るか?」


「あ! うん、大丈夫。一人で出来るよ」



 キャス様が片膝着いて、心配して下からボクの顔を覗き込んでくる。

 身長差のせいでまるで子供に接するような扱いだが、不意打ちだったのでちょっとグッと来てしまった。この辺はまだ精神的に子供っぽい私の影響だな。そういう事にしておこう。


 慌ててレイピアをアイテムボックスにしまい、鎧の部品を手渡される。

 それなりの重量を覚悟していたら、思ったよりも軽いのに、十分な強度がありそうだ……あぁ、やっぱりこれも……おっと、呆けている場合じゃない。


 渡された鎧はフレアのドレスアーマーに似た造りで、エプロンドレスの上に装着するように出来ていた。

 このまま上に着ればいいだけだから、何処かの茂みに隠れる必要はなかったが……結局、時間短縮の為に一部手伝ってもらう事になった。


 ……あれ? ボクが使用人のはずなのに……。



「大きさはどうだ? 窮屈な場所はないか?」


「うぅん、大丈夫。問題ない」



 うん。どこが余っているとかは言わないけれど、問題はない。



「そうか、それじゃあ、出発するか」



 キャス様の宣言を聞いて、アイテムボックスから武器を取り出そうとする。

 ……が、そこで目に付いたのは、先程アイテムボックスにしまったレイピアの情報だった。

 うん……。これは確かに、キャス様が作ったんだろうな……。

 何せ、そのレイピアには『てつのつるぎ』という名が付けられていたのだから……。


 あれほどの一品につける名前がこれとは……この感性は、間違いなくキャス様のものだね……。


 ◇


「さて、この辺りから歩くか」



 カルボネック山の中腹に差し掛かった辺りで、キャス様は足を止める。

 ボクはというと……。



「立てるか?」


「がんばりまふ……」



 キャス様にお姫様抱っこされて、ぐったりしている始末……。

 それというのも、「じゃ、麓に用はないから飛ばすぞ」とキャス様にお姫様抱っこされ、照れたり喜んだりしたのも束の間。


 常軌を逸した跳躍力で、山を直線に踏破していくキャス様。

 その首にしがみ付く破目になったボクは急加速と急減速、急上昇と急降下を繰り返され、斯様な有様へ……。


 あれ? 足手纏いどころか、完全なお荷物じゃないかな、これ?



「あまり無理はするなよ?」



 地面に降ろされ、大地の上に自分の足で立ち、深呼吸……よし。



「大丈夫」



 一先ず、動ける程度には復調した。

 それを確認したキャス様も、槍を取り出して歩きはじめる。


 暫くするとモンスターの群れが現れ、行く手を阻んだりするが……鎧袖一触とはまさにこの事と言わんばかりに、キャス様があっさり屠ったりしている。

 ……カルボネックウルフの群れとか、実習時にはグレイシア様の魔法でなんとかしていたのに……。



「キャス様ってLV幾つなの?」



 しゃがみ込んで、草を引き抜いているキャス様に尋ねてみる。

 多分、何かの素材になるんだろうけど、他の草との差異が分からない……材料集めの手伝いとしては絶望的である……。



「あー……そうだな……いい機会か……実LVと相当LVと、どっちを聞きたい?」


「……え?」



 どういう事?

 実際のLVと、実力とが乖離している……という事?



「実LV?」



 採取を終え、立ち上がったキャス様の表情は、分かり易いくらいに何かを企んでいるものだった……。



「そうか……俺の実際のLVは1だ」


「……は?」


「ついでに言えばHPもMPも、攻撃力も防御力も全て1だ!」



 堂々と言い放つキャス様……。

 いやいや、何を言っているんですか、貴方は?



「信じられないって顔だな。ま、LVなんて物があって、それが唯一無二の強さの指標とされていたら、そう思うのも仕方がないのかもしれないがな」



 そう言うと、山頂を目指して歩き出すキャス様。

 慌てて追いかけるものの、キャス様の言った事を考える。



「それって、LV以外にも、強さの指標があるって事?」


「応よ。『気』なんてまさにその一つだ」



 ! そうだったのか……あれ? でも、待って……。



「キャス様。キャス様のLVが1なら、さっき倒したカルボネックウルフの経験値でLVが上がっているの?」



 カルボネックウルフは、単体として見ればこのカルボネック山に出現するモンスターとしては雑魚だけど、それでも倒した時に得られる経験値はそれなりにある。

 少なくとも、一匹辺りLV1から一気にLV8や9になれるくらいはあるはずだ。



「いや。幾らモンスターを倒しても、俺のLVは1のままだ」


「え!?」



 それは、『気』を習得した副作用みたいな物なのだろうか?



「世間一般では、LV上げが一番手っ取り早い訓練・修行だと思われているようだが……俺に言わせれば、あれほど実力を勘違いしてしまうものはないな……」


「どういう事?」



 木々の間から突如伸びてきた蔓を斬り払い、その根元に槍を突き込み、マーダープラントにトドメを刺しながら続けるキャス様。



「LVやそれに伴うステータスってのは借り物だ。透明な全身甲冑を借りて、装備していると思えば良い。そうだな、さっき学園長のとこでやった講義を思い出してくれ。あの三重丸には、更に外側に層がある。それがLVやステータスといった加護だ」



 落ちていた実や葉を採取しながら説明するキャス様。

 何だろう……凄く大事な事を教えられているはずなのに、ながら作業でモヤっとする……。



「『加護(LV)』っていうのは知っての通り、パニア教に入信する第一の秘蹟(サクラメント)『洗礼』を受ける事で与えられる三つの力の内の一つだが……これさえ上げておけば、取りあえず死に難くなり、強くなったと勘違いする。何故か分かるか?」


「それは……LVを上げると、HPやMP。攻撃力、防御力、魔法攻撃力に魔法防御力というステータスが上昇し、事実、攻撃力の低い相手の攻撃を受けても、HPが減り難くなるから……かな」



 確かにステータスが同じなら、あとは個人の技量次第……つまりは、攻撃を上手く当てられる方が勝つ事になる。

 これは以前から言われている事で、事実士官学校なんかではLV上げ以外にも、素振りや型稽古、模擬戦も盛んに行われている。


 ……それでも、比重としてはやはりLV上げの方が多い。

 それというのも、どれだけ綺麗に攻撃を当てても、相手の防御力を破らない事にはダメージにならないからだ。



「そうだ。ステータスという分かりやすい指標があるから、どうしてもそっちに目が行きがちだ。ところで、ブリジット。君はこの数ヶ月、使用人として生活している傍ら、近接格闘を習っていた訳だが……筋力や体力といった身体能力はどうなった?」



 ? それが今の話と関係あるのだろうか?



「それは勿論、最初の頃に比べたら、格段に上がったと思う」



 クレフーツ家に奉公に上がる前は、特に筋持久力に欠けていると言われ、重い荷物を運んだりしただけで結構消耗していた。

 だが、紛いなりにも使用人として働き、基礎的な鍛錬も積んだ現在、以前よりも明らかに身体能力は上がっている。……前が悪すぎるという説もある……。



「じゃあ、その上がった身体能力はステータスに反映されているか?」


「それは……」



 ボクのLVは24で止まっている。

 これは、学園の2年生としては非常に高い数値だ。……殆ど、グレイシア様とパーティを組んでいたおかげとも言えるが……。

 この数値がどれくらい高いかと言えば、卒業生の平均がLV20に届くかどうかというところで判断出来ると思う。


 そして、言われてみてステータスを確認してみる。

 当然ながら、退学以降一匹たりとてモンスターを討伐していない以上、LVに変動はない。

 ここまで出現したモンスターも、キャス様が全部倒しちゃっているしね。勿論、各種ステータスも変動なしだ。



「……反映されていない」


「そう。身体能力がいくら上がろうと、それはステータスに一切反映されない。……なら、本当にお前の攻撃力は上がっていないのか?」



 それは違うと、はっきり言える。

 何故なら──



「そんな事はない。キャス様に言われた事を始めてから、明らかに刺突の威力が上がった」



 以前は弾かれていた厚さ5cmの鉄板を、最近になって練習用のレイピアで貫く事が出来るようになった。

 無論、単純な筋力が上がっただけでなく、突きを放つ際の姿勢や力の乗せ方など、我流の力任せ、ステータス任せでやっていた事を、キャス様の指導を受けて意識するようになったおかげで、技量が跳ね上がったというのもあるだろう。


 だが、それらがステータスに反映されていないのも事実だ。

 これは……。



「そうだ。人が本来持っている力、資質は一切LVやステータスに反映されていない。そして、LVなんて上げなくても人は強くなれる!」



 そうなのか……LV以外にも、強くなる方法はあったのか……あれ? でも……。



「それなら、LVも上げた方がキャス様は強くなるんじゃないの?」



 LVを上げなくても強くなれるのは分かったが、だからと言ってLVが1である必要はないはず。

 というか、そもそもモンスターを倒していながら、LV1のままでいられる説明にはなっていない。



「うーん、まぁ、それはそうなんだが……俺はちょいと訳ありでな。幾ら経験値を稼いでも、LVは上がらない……と言うか、そもそも俺は光の女神の加護を受けていないからな」



 頬を指で掻きながら、困ったように言うキャス様。どういう事?



「第一、『お前を殺すのに、お前の力を貸してくれ』っていうのは間抜け過ぎるだろ?」


「…………え?」

ディアーホーン(偽装1:てつのつるぎ)(偽装2:てつのつるぎ)

種別:片手剣

等級:粗悪品(アヴァロンでは特級品相当)

解説:『鹿の角』という意味の名を与えられた剣。アヴァロンリソースという廃棄品から製作されたにも拘らず、ちゃんと剣として完成したのは、偏に製作者の腕によるところが大きい。まぁ、アヴァロンで使うなら、この程度が目立たずに妥当なのだが……。(偽装1:鉄製の剣)(偽装2:鉄製の剣)

特性:偽装1、偽装2(偽装1:武器破壊)(偽装2:武器破壊)


アイアンピース改(偽装1:てつのよろい)(偽装2:てつのよろい)

種別:鎧

等級:劣悪品(アヴァロンでは一級品相当)

解説:アヴァロンリソースという廃棄品から作られたハリボテを女性向けに改良した鎧。一応、鎧と分類できるようになったのは、製作者の腕によるところが大きい。心持ち防御力が上がった。まぁ、アヴァロンで使うなら、この程度が悪目立ちせずに妥当というね……。(偽装1:鉄製の鎧)(偽装2:鉄製の鎧)

特性:偽装1、偽装2(偽装1:軽量化)(偽装2:軽量化)


等級

創世級>神話級>幻想級>伝承級>秘宝級>特級品>一級品>二級品>三級品>粗悪品>劣悪品>廃棄品


偽装1

性能等、任意の情報を偽る特性。偽装2の特性を有し、且つ看破された場合は即座に偽装1の情報が再度有効化する。


偽装2

性能等、任意の情報を偽る特性。偽装1が看破された場合、即座にこの特性が有効化する。



拙い作品にお付き合いくださり、ありがとうございます。



既にお気付きの事と思いますが、遂にキャストンの標的が明かされ……はじめました。

最後まで隠し通したかったのですが、流石にそれは無理と判断し、色々と情報を解禁していく次第です。


……各キャラクターのステータスとか公表した方が良いでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ