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救世神子の虹模様 外典  作者: 四面楚歌
敵は眼前にあり!
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第5話

今回、少しだけ暴力シーンがあります。

「貴様ら! 何をふざけた事を!!」



 自分の思い通りに動かなかった二人に対して兄は癇癪を起こし、手を上げようと――



「ぐぁッ!」



 したところで、綺麗に宙を舞い、床に叩き付けられ――



「ぶぎゅッ?!」



 更に、顔を踏み付けられて……あ、いま、踏み付けている足に捻りも加わりました!


 と、言いますか待って下さい。ちょっと待って下さい。

 普段の貴方でしたら、精々殺気をぶつけて萎縮させたところでぐうの音も出ないほど言葉で蹂躙するだけで、そんな物理的な『暴虐』ではありませんでしたよね?


 えっと、待って下さい、それ、一応兄なんです。一応公爵家の長男なんです。一応跡取り息子なんです。

 顔だけは整っているイケ面なんです。顔しか取り柄のないイケ面なんです。最高位の治癒魔法を使えば痕も残らないかもしれませんが、それでもそんな……待って、もう二目と見られない顔になっているんですから、追加で踏まなくてm……嗚呼……。


 この学園は戦闘も授業の一環としており、この場にいる誰もがモンスターを相手に命のやり取りを経験しています。

 ですが、舞踏会という場において、突然起きた流血沙汰に反応できた人間は私を含めおらず、場内は水を打ったように静まり返りました。



「ふぅ……少しだけすっきりした」



 え、それだけやって『少し』だけなんですか?!

 勿論、こんなバイオレンス溢るる所業をなさったのは、他でもないキャストンさんです。って、追撃とばかりに酒月さん達の方に蹴り飛ばしました。



「ヒッ!?」

「う……」



 こちらからは見えませんが、蹴り飛ばされた兄の顔を見て、酒月さんとアーサー様は息を飲まれます。



「き、貴様、こんな事をしてただで済むt」

「フレア」


「はい、お兄様」



 何とか気持ちを立て直……いえ、奮い起こし、食って掛かろうとするアーサー様を一顧だにせず、キャストンさんは妹のフレアちゃんを呼びます。

 それに応える声は清流のように澄んだ声音をしており、発せられた辺りから人垣が割れて道を作り出します。

 え、これって予定されていた演出ですか? それとも、カリスマの成せる業ですか?


 湖面に揺れる月の様に儚くも美しい銀髪に、波一つ立たない湖の様に澄んだ青い瞳。パッチリと開いた大きな目からは若々しい生命力が感じられ、愛らしさ溢れ出る顔立ちは見る者の心を洗い、桜色のドレスに包まれた小柄な体躯は男女を問わず護ってあげたくなる。

 そんな美少女が、淑やかにキャストンさんの前まで進み出てくると、可憐にカーテシーを披露。



「お待たせいたしました、お兄様。こちらになります」


「ありがとう。それでは、あちらのお二方を別室にご案内して差し上げなさい」



 フレアちゃんがアイテムボックスから紙束を取り出し、それをキャストさんに手渡します。

 それを受け取ったキャストンさんは彼女に礼を言うと、未だに座り込んだままのアイリーンさんとブリジットさんを示して、別室へと案内するように命じます。



「かしこまりました、お兄様」



 了承を告げ、もう一度カーテシーを可憐に披露すると、彼女はアイリーンさん達の元まで楚々と進み、何事か話しかけ二人に手を差し伸べて立ち上がらせます。



「それでは皆様。私共はお先に失礼させて頂きます。皆様はどうぞ、最後までゆっくりとご観劇下さい」



 彼女は二人を連れ立って、再び割れた人垣の中を進んでいく。そして、とても意味深な言葉を残して会場を後にする。

 いえ、言いたい事は分かりますよ。彼女が渡した紙束――書類が私の想像通りなら、そういう事ですよね。



「さて、この三文芝居もそろそろ幕引きと参りましょうか」



 フレアちゃんの登場で弛緩した会場の空気が、そのどこか陽気さすら感じられる台詞に再び張り詰める。



「何を」

「学生自治監視機構として、ここに緊急動議の発議を宣言致します」



 何かを言おうとするアーサー殿下の言葉を遮り、キャストンさんが宣言する。

 『学生自治監視機構』は先程も説明した通り、通常は何の権限も権力も持ち合わせてはいません。

 ですが、特定の条件が揃うと、生徒会すら解散させる事が出来ます。


 ……もっとも、その条件が非常に厳しい為に、この学園史上、かの組織が行動を起こした事はなく、それ故に権威もなく、有名無実の組織と化していました。

 この瞬間までは。



「動議内容は現生徒会の即時解散、及びその関係者の処分の決定」


「な!? 貴様!」

「発議に必要な全学生の3分の2以上の署名は既にこちらに」



 そう言って、キャストンさんは先程手渡された書類を示す。

 監視機構がその権限を行使するために必要な第1の条件がこれ、全学生の3分の2以上の賛同。

 それを集めるのに、学園の全学生が参加するこの舞踏会は、さぞかし都合が良かったでしょうね。



「そんなのはデタラメだ! でっち上げに決まっている!! それを寄越せ!」



 そう叫んで、アーサー殿下はキャストンさんに詰め寄る。幸いと言うべきか当然と言うべきか、アーサー殿下は兄のように投げ飛ばされる事はなく、一歩も動かないキャストンさんにあしらわれているだけに止まっている。


 あ、勿論、キャストンさんが殿下に配慮した訳ではなく、ここでアーサー殿下まで意識を失っては話が前に進まなくなるからです。



「残念ながら、これはたった今、殿下方が三文芝居を興じている間に署名して頂いたものです」


「何だと?!」


「では、その証拠に、この署名に応じて頂いた方は、この場で拍手して下さい」



 キャストンさんがそう要請すると、会場中から盛大な拍手が巻き起こる。



「バカな!?」


「ご理解頂けましたね?」



 正確な人数こそ判明しませんが、学園中を敵に回した事をはっきりと突きつけられた殿下。



「貴様ら……」


「では、このまま審議へと移らせて頂きます。生徒会役員は直ちに登場して下さい」



 この場にいる役員は殿下と私、それと、気絶している兄の3人。キャストンさんの宣言を受けて残りの2人、即ち――



「ランスロット……グィネヴィア……」



 殿下が名を呟いた2人もこの場に姿を現す。

 ランスロット様はゲーム中もっとも人気のあったキャラクターで、涼やかな青い瞳に輝く金髪を靡かせる美丈夫です。それでいて、同年代ではトップクラスの剣の腕前も持っている、まさに貴公子の鑑といえる方。


 グィネヴィアはゲーム中、主人公の親友という役割につくキャラクターで、可愛らしいピンクブロンドを靡かせ、白い肌にうっすらと浮かぶ薔薇色の頬。まるで小動物のように愛らしい美少女にして、まさにお姫様を体現している娘です。



「く……何故だ、何故お前達までその男の言いなりになっているんだ!」


「アーサー……」

「お兄様……」



 殿下が苦鳴をあげるように2人に訴えます。しかし、的外れもいいところの訴えに、2人は落胆を隠す事が出来ません。



「さて、顔ぶれが揃ったところで、審議を始めさせて頂きます。まず、緊急動議に至った原因として……まぁ、山ほどあるのですが、現生徒会は機能不全を起こしており、生徒会業務を執行するに相応しくないと判断。その解散並びに関係者の責任を追及し、その処分を請求するものとする」


「言い掛かりだ! 生徒会には何の問題もない! 現に、生徒会主導のこの舞踏会が開かれている!!」


「はぁ……機能不全の根拠として……これもやはり多数ある物の、致命的な物として、世代交代の未実施が挙げられます。本来であれば3年生の役員は引退し、新生徒会が発足。活動を開始してしかるべき時期であるにも拘らず、未だにアーサー・ペンドラゴンを初めとした3年生が所属したままです」



 殿下の反論に、キャストンさんは呆れて盛大に溜息を吐きます。


 年の瀬……地球で言えばクリスマスというこの時期に、未だに新生徒会が発足していないというのは、確かに致命的と言えます。

 国家運営に照らし合わせるなら、王位継承が上手くいっていないと言う事ですから。

 普通に考えれば、第一王女であるグィネヴィアが新生徒会長、私が副生徒会長になり、現1年生辺りから他の役員を選出する事になるのですが……。



「ふん! 次の会長は聖だ!」



 なんて事を殿下が言い出したせいで、未だに会長職の移譲はなされておらず、今日まで来てしまいました。



「はぁ……馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、ここまで酷いとはな……」


「「「は?」」」



 まぶたの上から目をほぐすように指で揉みながら、キャストンさんはもう一度盛大に溜息を吐いて詰る。

 第一王子を改めて貶され、呆気にとられる周囲。



「仕方がないから、ヴァカにも分かるように説明してやる」


「き、貴様! 1度ならず2度までも私を愚弄するか!!」


「そこの女が神子だというのは、いくらなんでも理解しているな?」



 殿下の怒声など一向に構わず、キャストンさんは周囲の意識を酒月さんに向けさせる。

 彼女は残るケイ様とパーシヴァル君を盾にするように、2人の後ろで震えている?

 あ、いつの間にか倒れていたはずの兄が見当たりません。



「ふん。それがどうしたというのだ」


「……では、神子が教会に属する立場だというのも当然理解しているな?」



 酒月さんは日本から召喚された存在ですから、当然この国の出身ではありませんし、ましてや貴族でもありません。

 ですので、召喚した神聖教会が後ろ盾となり、その身分を保証しています。



「そ、それは……」


「そして、この国では聖職者をはじめとする、教会勢力が政治に直接関わる事を禁じているのも、第一王子なら当然知っているはずだよな?」



 国教であるパニア教を司る神聖教会は、多大な発言力を有しており、王家や貴族を排除してこの国を動かそうとしていました。

 それを嫌った大昔の王家をはじめとする政治中枢は、彼らが一切政治に関われないように法整備をしました。


 それでも、多大な発言力を背景に、事ある毎に口を挟んできているようで、何時の時代も悩みの種の一つとされています。



「だが、聖は聖職者では」

「いいや。酒月 聖は司祭相当と見做され、殊に権威という点において神子はこの国の枢機卿すら上回るものがある。彼女は立派な教会所属の人間だ」


「く……ランスロット、お前もそやつと同じ考えだというのか?」



 進退窮まった殿下は詰問するような、それでいて救いを求めるような声でランスロット様に尋ねる。



「……アーサー、残念ながら彼の言う通りだ。今すぐに考えを改めるんだ、そうすれば」

「もうよい! お前達が何と言おうと、私は必ず聖を妃にしてみせる!」



 ランスロット様が諌めようとするのを察すると、殿下はそれを遮り、酒月さんを妃にすると声高に宣言なさいます。



「では、現生徒会は解散。元会長アーサー・ペンドラゴン及び、元会計ガウェイン・ガラティーンは罰として二週間の停学。並びに、元副会長ランスロット・アロンダイトは三日間の謹慎及び、卒業までの間、新生徒会の補佐役を務める事」



 当然ながら、停学と謹慎では罰として雲泥の差があります。

 また、今から二週間の停学となると、冬期休暇が丸々停学で潰れます。



「元書記のグィネヴィア・ペンドラゴン及び、グレイシア・ガラティーンは二日間の謹慎後、新会長、新副会長に就任し、ただちに新生徒会の発足を請求するものとする」



 この事態を自力で収拾できなかった私達にも罰はあるが、それ以上に一刻も早く新しい生徒会を立ち上げ、自治運営を確立させなければならない。

 その為に、ランスロット様よりも更に1日分短い謹慎期間になっています。



「また、現生徒会機能不全の要因となった、ケイ・エクトル、トリスタン・リオネス、酒月 聖、パーシヴァル・ペリノア、ガラハッド・エレイシスの5名にも一週間の停学を請求するものとする。賛成の者は挙手を」



 殿下の宣言を受けて、最早論ずる必要もないと判断したキャストンさんは決を採るべく宣言する。

 ランスロット様、グィネヴィア、そして、私の3名が挙手する。


 監視機構がその権限を行使するために必要な第2の条件がこれ、生徒会役員過半数の賛意です。

 生徒会を罰する為に、その役員の過半数が賛成しなければいけないなんて、こんな場合でもなければ事実上不可能ですよね?



「役員5名中3名の挙手を確認。これにより、処分請求の内容を決定いたします」


「ふん。下らない。そんなもの、いくら決めたところで、貴様には実現不可能だ」



 殿下の言う通り、ここまでしても監視機構はまだ大鉈を振るう事が出来ません。

 最後に、過去に生徒会役員だった卒業生――つまり、現在、政治の中枢、或いは有力な領地を治めている領主など――3名以上の認可を得なければ、本決定にはなりません。


 学生自治監視機構も学生のやる事ですから、それが本当に妥当なのか最終的に先達に判定してもらうという言い分です。

 ここまでやらないと監視機構の機能は発揮されず、また、最終的な判断を大人に委ねる事になるので、かの組織は有名無実と化してしまっています。


 更に、今回ですと生徒会長が第一王子ですので、王家に物申す事の出来る人物でなければ、この請求内容に認可など事実上出来ない事になります。

 王家に報復なんてされたらたまりませんから。


 そういう事情もあって、殿下は高を括っているようですが……その認識は甘いと言わざるを得ません。


 あのキャストンさんが、ただの示威行為としてこんな事をするはずがありません。

 おそらく、宰相である父あたりに根回しをしているはずです。

拙い作品をここまでお読みくださり、ありがとうございます。


最強のヒロインがチラっとだけ登場しました。

現在執筆中の別視点は彼女のものとなっております。

そちらもお楽しみいただけると幸いです。


さて、次回はこのざまぁ?編の最終話です。

明日までお待ちいただけるとありがたいです。

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