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魔の断末魔と悪の産声

大変お待たせしました。


保存したはずのデータが消えるって、本当にあるんですね……。

それも、ちょっと横着してPC本体のテキストデータにバックアップを残していない時に起こるとか……orz

しかも、一番エグイシーンがまるまる消えたから、余計にキツイ……。


これまでで最も救いのない話です。

読まなくても今後の展開にはついて行けるはずなので、自己判断でお願いします。

 暗黒大陸。

 それは500年ほど前に、このアヴァロン大陸から放逐された、我らの父祖が辿り着いた不毛の大地。

 そして、我らが生まれ育った、厳しくも懐かしい故郷の事だ。


 そう。俺は父祖の故郷を取り戻すべく、何より、生きるだけで過酷を極める民を救うべく、遠く海を隔てたこのアヴァロン大陸に侵攻した。

 緒戦は想像以上に上手く進み、開戦から三日と経たずに、我らが攻め寄せた港湾都市に程近い敵の首都は陥落。

 諜報部の報告通り、地勢の関係で内陸部の他国にばかり注意が向いていたようで、海から攻められる事は想定していなかったようだ。


 その後も、暫くの間は労する事無く、領土を広げていった。

 どうやら、首都方面から攻められる事を想定していなかっただけでなく、首都陥落の折にこの国の王が討たれ、国としての糾合力を欠いてしまったようだ。


 あぁ、ここは王ではなく、政教一体で選出された教皇が治めているのだったか。


 忌々しいパニア教国。

 人間族以外を『魔族』などという訳の分からない呼び方で蔑み、我らの父祖の国を滅ぼし、外海へと追いやったパニア教を信奉する外道共……。


 我らの先祖が大陸を放逐された後、連中がこの大陸を統一したのだとか……。

 尤も、その後は四つの国に分裂し、更にその最大勢力にして直系の子孫ともいえるこのウェストパニア教国は、こうして我らがほぼ制圧した訳だがな。


 問題は……戦場で捕らえた捕虜はともかく、降伏した非戦闘員まで悉く殺せ……という声が上がるほど、我らの恨みが深い事か……。

 だが、その声に応える事は実質不可能だ。

 それをやってしまっては、もうどちらかの種族が滅びるまで争うしかなくなる。


 正直に言うと、そんな事をする暇はない。


 どこかで適当に休戦し、一刻も早く暗黒大陸に残してきた民をこの肥沃なアヴァロン大陸に移住させたいのだ。

 だが、戦争をしながらでは、そんな大事業に回せる人員も資金もありはしない。


 何より、折角得た同胞以外の人的資源だ。

 これを農奴にして、戦争で荒れた土地を回復させ、一人でも多くの民が飢えに苦しまぬようにしたい。


 ……まぁ、これはあくまで俺個人の考えで、我らが頭脳は彼らを農奴ではなく、二等国民という扱いにしたいようだ。

 人間族(ヒューマン)を農奴にすると、奴隷制を認めていないパニア教徒どもが、それを解放する事を大義名分に、戦を仕掛けてくる可能性が高い……というのが彼女の弁だが、本心は別のところにあるのだろう。

 そして、確かにその可能性は高く、俺にそれを覆せるだけの論もない……。


 人間族(ヒューマン)を二等とはいえ、国民とする事に反感を抱く者は多いだろうが、それも彼女が言えば皆受け入れるだろう……。

 王である俺が言うよりも、より多くの国民が納得するって、どうなんだ? と常々思っているが……まぁ、齢100にも満たない俺と比較しては、実績からくる信頼に圧倒的な差が出るのも仕方ないのだろう……。


 と、年齢の話をすると本気で拗ねるので、気を付けねば……。



「モルドレッド様。何か仰いましたか?」



 ほらな。もう、勘がいいなんて次元の話じゃない。

 長命な上に容姿は若々しいままの種族である『森人族(エルフ)』なのだから、年齢なんて気にしなくても良いと思うのだがな……。



「いや、何も言っておらんぞ。エルフィナ」


「そうですか。もうじき我が国の今後を左右する大事な客人が来るのですから、しっかりと口説き落としてくださいね?」



 笑顔で釘を刺してくる彼女は森人族(エルフ)代表の女王であり、多種族国家『レギオン』の頭脳であり、俺の恩師でもある(家庭教師でもあった)エルフィナだ。

 今は一種族の代表(エルフの女王)全種族の頂点(魔王)という事で、立場上は俺が上位なのだが、染み付いた癖と言うか何と言うか……頭の上がらない相手である。



「……どうしても、俺が口説かねばならんのか?」


「はい……どうしても、陛下(・・)でなければ、なりません……」



 まるで、臣下が我侭な主を諭すかのように、恭しく頭を下げて跪くが……彼女が俺の癖を見抜くように、俺も彼女の癖を見抜ける。

 それに照らし合わせると、これは「本当は嫌だけど、この国の為にはこうするのが一番だ」と、自分に言い聞かせているのだ。



「……わかった。考えておく」


「ありがたき幸せにございます」



 彼女が言うには、今後我らがこの大陸を制圧するには、その者の存在が不可欠なのだとか……。

 だが、この500年。森人族(エルフ)地人族(ドワーフ)のように、元は仲の悪かった者達でさえ、同胞として肩を並べるに至った我らが、あの不毛の大地で生きていくには、仇敵とすら協力するしかなかった我らが……。

 肥沃な土地を巡って、同族間で争ってきたような人間族(ヒューマン)共に後れを取る訳がないッ!


 無論、これまでは奇襲と言う形で、指導者を失った連中が相手だったからこそ、労する事もなかったのだ。

 油断して良い理由にはならない。

 ならないが、油断さえしなければ、『神子』などという得体の知れない者を頼る必要もあるまい。


 そして、そんな得体の知れない者に頼らず、我らの力だけでこの大陸を制圧した暁には、彼女に――



――コンコン



 って、ここはトイレじゃねぇッ!

 魔王の控え室だぞ!?

 人が決意を固めている時に、それをトイレ扱いするなど、どこの痴れ者だッ!!



「誰か? ここを魔王モルドレッド様の控え室と知っての狼藉か!」



 エルフィナが扉の向こうの痴れ者に誰何する。

 こういう細かい礼儀を無視するのは鬼人族(オーガ)か? それとも、獣人族(ワービースト)か?

 どちらにせよ、減給だ馬鹿モン。



「あはっ、ここだったのね」



 だが、驚いた事に、返ってきたのはどんな礼儀知らずもやらかさないような、常識を無視するものだった。



「貴女はッ?!」


「貴様、何者だ?」



 こちらの誰何に対し、勝手に扉を開けて入ってきたのは黒髪黒瞳の人間族(ヒューマン)の女だった。

 まぁ、問い質してはみたものの、ほぼ間違いなくこれから謁見する予定だった『神子』とかいう小娘だろう。

 確か、名は……。



「はじめまして、魔王モルドレッド。今日からは私がお前のご主人様(飼い主)よ」


「貴女、何を?!」


「ほぅ……面白い事をほざく娘だ。どうやら命は要らぬようだな」



 首を刎ねようと、腰の愛剣に手を掛け……。



「お待ち下さい、モルドレッド様ッ!? 酒月さん、貴女もこの世界がゲームではないと、自分が主人公ではないと、もう気付いていらっしゃるでしょう? お願いします、我々に協力して下さい!」



 しかし、エルフィナが必死に止めてくるので、仕方なく様子を見る。



「あら。こっちにも転生者がいたのね? それも、『神子虹』のプレイヤーね? ふぅん……」



 ……何を言っているのかさっぱり理解できないが、エルフィナには通じているようで……。



「……はい。貴女が魔王ルートに入るよう、色々と手を回していました……。私に出来る償いでしたら、何でも致しますのでどうか、モルドレッド様に、我が国に貴女の力をお貸し下さい」



 と、頭を下げて『償う』とまで言い出した。

 馬鹿な、一種族の代表(エルフの女王)が自分の非を認めて償うなど……普段の彼女であれば有り得ない!



「そう……ガウェインや(フく)レアだけでなく、こっちにも転生者がいたのね……道理で予定通りに進まない訳ね」



 つまらない物を値踏みするかのように、エルフィナを見やる小娘。

 次に吐く言葉によってはこのまま斬り捨てよう。



「いいわ。どうせ、貴女程度に出来た事なんて、それほど影響を与えていないでしょうし。『何でもする』って言葉に免じて赦してあげる。だから、まずは跪きなさい(・・・・・)



 よし、斬ろう。

 そう思って動いたはずなのに、何故か俺は――



「「な!?」」



 この小娘に跪いていた!



「なんだ、これはッ?!」



 俺の身体が(・・・・・)立ち上がろうとする(・・・・・・・・・)俺の意に反して(・・・・・・・)動かないッ(・・・・・)?!



「これは、一体ッ!?」



 エルフィナも同じように、己が意に反して小娘に跪いて動けないようだ。



「あは、よかったぁ~。『主人公補正(テンプテーション)』のリミッターを外しておいた甲斐があったわ」


「貴様ッ! 我らに何をした!!」



 返答は期待していないが、この状況を脱する為にも時間を稼いで抵抗を試みる。



「何って、決まっているでしょう? ご主人様(プレイヤー)の命令に従うのは、奴隷(ユニット)として当然の事でしょう?」


「何を……言っているのですか……」



 エルフィナも抵抗しようと、会話で相手の気を逸らしつつ、色々と試しているようだ。



「あはっ、そうそう、言い忘れていたけど、アンタは二つ、勘違いしているわぁ……」



 ニタニタと気持ちの悪い笑顔を浮かべて、エルフィナの顔を持ち上げて覗き込む下郎。



「一つはぁ、アタシを転生者だと思っている事ぉ……アタシはアンタ達みたいなー、タダの転生者じゃありませーん。きゃはは、残念でした~」


 哄笑をあげながら、エルフィナを蹴り飛ばすクソ女。

 クソッ! 動かんか、俺の身体ッ!!


「もう一つはぁ、アタシをタダの『主人公』(登場人物の一人)だと思っている事ぉ……あはっ、理由は分からないけど、向こうじゃ『主人公補正(テンプテーション)』の効きが悪かったのよねぇ。だからぁ、アタシに恥をかかせたアーサー達の首をイケニエにぃ、『主人公』(ヒロイン)から『支配者』(ゲームマスター)にクラスチェンジしてきましたぁ~♪」


「ゲーム、マスター……そんな、そんなバカな事……」


「あぁん?」


「ぐぁッ!?」



 エルフィナの腹部に突き刺さるクソ女の爪先。



「信じられないって言うんなら、抵抗してみせなさいよ。ホラ! ほらぁッ!」


「あッ! がッ! ぐぅッ!?」



 ……もう、我慢ならんッ! 後の事など知った事かッ!!


 我ら魔人族(デモニア)の中でも、魔王たる俺だけが使用に耐え得る『魔神化』。

 『闇の大神』(大いなる父)の力をこの身に降ろし、その代償も厭わず全力で小娘を叩き斬るッ!!



「へー……アタシの『支配者権限(テンプテーションEX)』の影響下にあってまだ動けるなんて、流石は魔王(最高ユニット)ってところかしらぁ?」



 そんな、バカな……切っ先が、クソ女の首を狙った一撃が、見えない何かに阻まれているかのように、空中で止められているッ?!



「でも、ざーんねん♪ 『お前を殺すのに、お前の力を貸してくれ!』なーんて言われて、『ハイ、どうぞ♪』と応じるおバカさんがいる訳ないでしょう? きゅふふふ♪」



 な、にを言っているのだ、この小娘は……いや、今はそんな事より!



「先生! 逃げてくださいッ!」



 エルフィナを逃がさなくては!

 俺が死んでも国はまだ大丈夫だが、彼女を失えばそうも行かない……。


 『魔神化』した負荷に肉体が耐え切れず、血管が破裂し、筋肉が千切れ、骨が軋むも、委細構わずに宝剣クラレント(愛剣)を振るい時間を稼ぐ。

 だが、その全てが小娘に届かない!


 いや、届かないのではない……届く前に俺の身体が動きを止めてしまっているのだ!

 くそ、どうなってやがる!?



「もー……君……」



 クソ女に散々踏み付けられて、気を失っていたエルフィナが目を覚ます。



「先生! 俺が時間を稼いでいる間に、貴女だけでも逃げてくださいッ!!」



 これだけ騒いでいるのに、衛兵も駆けつけて来ず、潜ませている護衛も動かないという事は、おそらくそういう事なのだろう……。

 信じたくはないが、この訳の分からん小娘一人に、アヴァロン侵攻軍中枢は壊滅的損害を被ったと見るべきだ。



「もー君は、お姉ちゃんが……守るんだから……」



 自分に言い聞かせているのか、子供の頃の呼び方をしながら緩慢な動きで立ち上がるエルフィナ。

 しかし、彼女は逃げようとせず、俺を助けようと構える。


 クソ! 俺もどうしたって言うんだ!?

 『先生』なんて子供の頃の呼び方をしてしまったら、彼女が私情を優先してしまうかもしれないというのに?!



「先生? もー君? お姉ちゃん? ……え、何、アンタ達、もしかして、そういう関係(・・・・・・)?」


「クッ! 黙れェッ!!」



 全身から血が噴き出るのも構わず、渾身の力で剣を振り下ろすも、やはり直前で身体が止まってしまう!



「プッ……ぷくく……くは……ナニ? アンタ、森人族(エルフ)でその見た目って事は、もう200歳近いんでしょ? なに、アレをやっちゃったの? ショタっ子の魔王を教育して、自分好みの男に育てるとか……逆光源氏計画をやらかしちゃったのぉッ?! ぷは、あーっはっはっはっは! ひィ~、ウケるんですけどぉ~?」



 何が可笑しいのかさっぱり分からないが、クソ女が笑い転げているうちに、エルフィナを連れて逃げ――



「もういいや、動くな(・・・)



 が、転がったままのクソ女が一言呟いただけで、俺もエルフィナも本当に動けなくなる……。



「はぁーあ……自分が飽きた中古品を押し付けようとか、マジでありえないわよねぇ~?」


「そんな訳、ないでしょう……ッ!!」


「へ~? それじゃなに? 悲劇のヒロインごっこがしたかったのぉ? 『国の為に私は彼と結ばれてはいけない! よよよ』とか? はっ、バッカみたいでマジウケるんですけどぉ?」


「く……ッ」



 こんな馬鹿女にエルフィナの苦悩も、俺の決意も貶められて溜まるか!

 クソ、動け!



「はぁー……ここ最近は、アーサー達優男ばっかりが相手だったから、久し振りにモルドレッドみたいな筋肉質の男を楽しみたかったんだけど、なんかどーでもよくなったわ……」



 は、こっちとしてもお前のようなクソ女は御免被る!



「ま、そういう訳だから、さっさと用事を済ませるわねぇ?」



 ……認めたくはないが、もうそんな事は言っていられない!



「クタバレ、クソ女ッ!!」



 何かをしようと油断して近付いてくるクソ女に向かって、俺は『魔神化(・・・)を解除し(・・・・)剣を投げつけた(・・・・・・・)……奴の頭上に向かって(・・・・・・・・・)


 この女が我らの信仰する『闇の大神(大いなる父)』とは思えないが、その力が通じていないのは事実だ。

 だが、跪かされていた状態から、『魔神化』する事で動けるようになったのも事実。

 では、『魔神化』による力で無理矢理動けるようになったのかというと、『魔神化』発動中でも動きを止められた事から違うと分かる。


 故に、今度は『魔神化』を解除する事で、先程とは真逆だが同種の状況を作り出したところ、俺の身体は動いてくれた。

 次に、奴を直接攻撃しようとすると身体が止まってしまうのならば、間接的に狙えば良い。

 投げつけた宝剣は天井を破壊し、クソ女に向かって瓦礫となった大量の建材が落下する。



「へー……まだ思考まで縛っていなかったとは言え、そんな抜け穴を見つけ出すとはねぇ……今回は本当にイレギュラーばっかり」


「……チッ」



 ……だが、瓦礫が落下した事で巻き起こった粉塵の中から、まるで何事もなかったかのように出てくるクソ女……。



「おかげで、『神性存在(イモータル)』までバレちゃったぁ」



 ま、半ば予想できてはいたが、いざ平然とされているとキツイものがあるな……。



「あはっ。そんな恐い顔をしなくても、アナタにはやってもらう事があるから殺さないわよぉ。遊び終わったゲームは(・・・・・・・・・・)、ちゃんと後片付けしないと(・・・・・・・・)、ね?」



 相変わらず何を言いたいのかさっぱり理解出来ないが、このクソ女に生きる事を遊びのように揶揄されるのが腹立たしい!

 生きる事自体が過酷な暗黒大陸で生まれ育った俺には、一生を掛けてもこの女を理解する事は出来んだろう。というか、理解したくもない!!



「まるで理解できないって顔ね~? 心配しなくても、アタシとアナタじゃ見えているものが全く違うのだから、アナタに()を理解する事なんて出来ないわよぉ」



 はっ、そいつは重畳。



「そうかよ、そいつぁ残念。お前と同じものを見る事が出来ないとはな」



 さて、これからどうするか……身体はまだ動くから、なんとかエルフィナだけでも……。

 待て。俺は今、何か途轍もなくおぞましい事を言わなかったか?



「あはん♪ アタシと同じものが見たかったのぉ? そんな事を言われるとぉ、じゅんってくるじゃないのぅ……でも、ダ~メ♪ 代わりに、アナタにはアタシをコケにした連中を殺し尽くすってお仕事をあげるわぁ。嬉しいでしょ?」



 この化物をコケにした連中なんてのがいるのか……そいつは頼もしい限りだが、今この場で都合よく助けてもらえるとは思えねーな、チクショウめ。



「おぉ、そのような大役を任され、まこと、に……まこ……」



 はっは。身体だけでなく、今度は精神まで支配されかかってやがるぜ、クソッタレッ!!

 いつの間にか、頭の中で靄がかかったみたいに意識が薄れて……クソックソックソッ!!



「あらぁ? まだ自我が残ってるのぉ? 呆れた精神力ねー。流石は最高ユニット(魔王)って訳ぇ?」


「だれ、が……てめーの、いい……なり、に……」


「やれやれ、仕方ないなー。じゃぁ、特別にアタシの手で止めを刺してあげる♪」



 そう言って近付いてくるクソ女(ご主人様)

 剣……は投げちまったし、何か攻撃する手段(歓迎する方法)はないか?

 あぁ、クソッ! 頭の中が真っ二つに割れちまったように、別々の事を考えているッ!


 抱きしめる(縊り殺す)為に両腕を広げ、その中に無防備に飛び込んでくる彼女(クソ女)

 それを抱きしめる(締め付ける)と同時に唇を奪われた(毒を流しこまれた)……。



「さようなら、モルドレッド。もう二度と目覚める事はないでしょう♪」



 あぁ、チクショウ。

 これはもう助からない……。

 意識も感覚も、何もかもが黒く塗り潰されていく……。



「そして、起きなさい、アタシのお人形さん♪」





 女の嬌声(悲鳴)が響いている。



「いやーーーーッ! やめて、やめてもー君!! 正気に戻ってッ!! こんなの、こんなのあんまりだよッ!!」



 俺の腕の中で、ボロボロになった服とも呼べない残骸を纏った、一人の(エルフ)が泣いている……。



「あっはっはっはっは! その歳で処女とか、マジでウケるんですけどぉ?! 良かったわねぇ? 手塩にかけて育てた元ショタっ子に、は・じ・め・て♪を奪ってもらえてぇ? むしろ感謝して欲しいわぁ♪」



 ゴシュジンサマが心底楽しそうにヘドがデル……。



「謝るッ! 謝るからァッ! 私の都合でッ! 貴女の人生をッ! 邪魔したのン! 謝るかッ! もー君をッ! 戻してェッ!!」



 彼女の涙を見ると、何かが張り裂けそうなほどに痛みを覚える……。

 それでも俺は止まれない……ゴシュジンサマノ人形デアル俺ハ止マレナイ……。



「えー? べっつにィー? アンタ如きに邪魔されたとは思ってないわよぉ? あぁ、嫌がらせとか、アンタに復讐する為に犯らせている訳じゃないわよ?」


「じゃあぁ! なんでェッ!?」


「そんなの、アンタに魔王の子供を孕ませて、魔王を強化する生贄にする為に決まっているじゃないの?」


「なッ!? なにを?!」


「本当は、国中の女ユニット全員に魔王の子供を孕ませたいところだけど、流石にそれは時間がかかり過ぎて効率が悪いのよね~」



 肩ヲ竦メテ、遺憾ダト嘯クゴシュジンサマ。



「仕方がないから、他の女は他の男共に種を仕込ませるわ。大丈夫、『支配者権限(テンプテーションEX)』で年齢に関係なく、無理矢理孕ませる事が出来るから効率的よ♪」



 アァ……心ガ無クテモワカル……ゴシュジンサマノクソッタレ……。



「狂ってる……アナタ、狂っているわ……」


「あはは♪ だって、モブなんて他に使い道がないんだものぉ。それだったら、魔王を強化する為の素材に変えちゃった方がいいでしょう?」



 ソノ、全テヲ見下ス目ガトテモクソッタレ……。



「女ユニット全員が孕めば、胎児の分生贄の数が増える上に、『父親、胎児、母親』という血と魂に強い繋がりがある状態で、質も良くなるって訳よ♪」


「くッ! お願い、もー君! 目を覚ましてッ!! このままじゃ」

「ほら、誰が止まって良いって言ったのよ魔王。さっさとこの煩い女を黙らせて孕ませなさい」


「ンぁッ!!」



 隙ヲミテ命令放棄シテイタノニ、気付カレテシマッタ……。



「まったく……アタシ以外のプレイヤーを設定したせいか、今回はイレギュラーばかりが起こったわ……特に、ガウェインに転生者(不純物)が混ざったのは致命的だったわね~。口と態度がデカいだけで、あっちの方もヘタクソだったから、本当に大損だったわ……」



 ゴシュジンサマノ気ガ逸レタノデ、モウ一度命令ヲ放棄スル。



「ま、相手するのを渋ったら、自分の婚約者達を薬漬けにしようとしたのはウケたけど。本当にちっさい男だったわー」



 何カヲ思イ出シタノカ、下品ニ笑イ転ゲテイル。



「……問題は(フ(く))レアね……あの醜女がアイドルなんて、転生者以外の何者でもないわ! LVも124(・・・・・・)と、この世界の平均をぶっ千切ってるし……兄のキャス豚がLV1で(・・・・)スレイプニルに騎乗(・・・・・・・・・)していたのも、あの女が何かしたんでしょう……」



 一転シテ、考エコンデイル。

 今ノウチニ、コノ女ニ逃ゲテ欲シイノダガ、動ク事スラ出来ナイヨウダ……。



「いま確認しても、キャス豚のLVは1のまま……うん? サボるなって言ってんでしょうが!」



 見ツカッテシマッタ……クソッタレ。



「チッ! この女がぎゃーぎゃー泣き叫ぶところを見たかったから、そのままにしていたけど、これじゃ埒が空かないわねー……仕方ない壊れろ(・・・)


「かっは……」



 アァ……零レテ逝ク……彼女ノ……エルフィナの心が零れ落ちていく……畜生……畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生チクショウッ!!!



「プ……なぁに~? 血の涙を流すほど、その女を抱けて嬉しかったのぉ? きゃははははは♪」



 殺すッ!

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロす絶対に殺すッ!!!

 だから、誰かッ! 俺を殺してくれッ!!



「きゅふふ♪ これだけの生贄(資材)があれば、LVなんて軽く4桁に届くだろうし、LV255じゃ手も足も出ないわね~♪ 仮に死んだとしても、何度でもすぐに甦るし……待っててね、花房さん♪ ……今度は、階段から突き落とすなんて、つまらない殺し方はしないから♪ だから、今度こそ、貴女の絶望に沈む顔を見せてネ♪」





 一日と経たず、侵攻軍中枢が沈んだ……。

 三日と経たず、アヴァロン侵攻軍は、いや、ウェストパニア占領地域はその姿を変えた……。

 私が連れてきた、あの魔女の手によって……。

 友軍も、一緒にブリタニア潜入任務から帰還した同僚も、捕虜も、投降者も……幹部はおろか、魔王様にエルフィナ様までが訳の分からない内に……。


 この状況下で、どうして私だけがあの魔女の命令に従わずに済んでいるのかは分からない。

 ひょっとしたら、そう思い込んでいるだけで、あの魔女の手の上で踊らされているだけかもしれない……。


 だが、もしも、本当にあの魔女の妙な術に、私だけがかかっていないのだとしたら、一つだけ心当たりがある……。

 今は、その可能性に賭けるしか、思いつく術がない……。

 あの男は、決して裏切り者を許さないだろうが、それでも、この情報を伝える事しか、私があの魔女に一矢報いる方法がないのだッ!


 目指すはブリタニア王国王都キャメロット!

 使用人として潜り込んだ、あの奇妙な男爵家へ!!

拙い作品にここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。



主人公補正(テンプテーション)

説明:酒月 聖のユニークスキル。

貴女はこの世界の主人公。この世は貴女を軸に回る舞台。

この世の誰もが貴女を愛し、この世の全ては貴女を引き立てる有象無象。

そして、貴女の邪魔をする者は、その悉くが潰えるでしょう。

だって、それが世界の法則(私が決めたルール)なのだから。


解説:このスキルの保持者はあらゆる事に対し有利な補正を受けると同時に、周囲の存在は不利な補正を受ける。『ラッキースケベ』が痴漢行為なのに、通報されないどころか、好感度が上がるのはこのスキルの有無によるところが大きい。



支配者権限(テンプテーションEX)

説明:酒月 聖のユニークスキル。『主人公補正(テンプテーション)』の真の姿。

この世は私のゲーム画面。世界は貴女のおもちゃ箱。

この世の全てが所有物。世界の全てが思うまま。

あぁ、それはなんて甘美な響き。あぁ、それはなんて退屈な遊び。

だから、壊してしまいましょう。

だって、この世に価値なんてないの(世界は全て虚像なの)だから。


解説:このスキルは『検閲により削除しました』の真のユニークスキル。余りにも強力過ぎる為、リミッターを設けて、『主人公補正(テンプテーション)』という偽りの形を取っていた。リミッターの解放条件は、人間側攻略対象六人の『首』を落とす事。



神性存在(イモータル)

説明:『支配者権限(テンプテーションEX)』から派生した権利。

この世の全てが私の手足。ならば()を傷付けるモノ(手足)等、存在しないのは当然の事。

だって、()を失って生きていける手足(モノ)なんてありはしないのだから。


愛の伝道師からのありがたい助言:まぁ、これを潰す方法なんて幾らでもあるけど、ヤドリギ(・・・・)くらいは用意してやるから、安心しな(笑)。



という感じで、これまで本性を隠してきていた神子の素顔がちょろっと出ました。

いやー……バレバレだったですね~……orz

ほぼ皆さんの予想から、外れていなかったのではないでしょうか?


そして、ここまでご覧頂いたならお分かりだとは思いますが、この神子は所詮中ボスです。

魔王という別の中ボスを食って、大ボスくらいにはなりましたが、それでも漂う前座臭!!


まー……神子とグレイシアの関係とか、最後にちょろっと出てきた謎の人物とか、色々と明らかにしちゃいましたが……今更ダヨネ?

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